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SMAP出演NHKのど自慢は新しい~素人出演番組のあり方

NHKのど自慢は1946年にラジオが、そして53年にはテレビが放送が開始され、現在でも毎週日曜の昼に放送されている最も息の長い番組だ。9月26日放送の会場は岩手県山田町。そして出演はなんとSMAP。この番組は震災復興支援の下、土曜夜のゴールデン枠で一時間半の特別放送が組まれたのだが、これがなかなか魅せるコンテンツだった。まあ、あののど自慢にSMAPが出るのだから特別枠になるのはあたりまえ(まあ8月30日の秦野大会でも出てはいたが)、でもって相変わらずジャニーズ事務所は偽善に満ちているなんて陰口をたたくのは簡単だ。しかし、そんなヤボなことを言う輩はスルーして、今回ののど自慢の新しさについてメディア論的視点から考えてみよう。ポイントは素人をどう扱うかだ。

出場者を完全にコントロールしていた60年代までののど自慢

考えてみればのど自慢という番組は専ら素人を相手とすることを旨とする番組だ。ただし、当初は完全に制作側が素人をコントロールする形で展開されていた。

僕は子どもの頃(60年代後半、正確な年は忘れてしまったが、おそらく67年)、地元でののど自慢の公開録画を見に行ったことがある。番組は本番前にリハーサルが展開されるのだが(これも公開されていた)、すでにシナリオが決まっており、参加者は本番ではリハーサルと全く同じことを喋らされていた(だから本番がものすごくつまらなかったのだけれど)。このスタイルは、恐らく現在でも踏襲されているだろう。ただし、スタイルは同じでも、状況はだいぶ異なっているのではないだろうか。それは、素人が必ずしも制作側の指示通りにはならない、あるいは指示に従ったとしても、カメラに対する対応の仕方を学習しており、番組進行に素人側がある程度介入することができるようになったこと。さらには、こういった素人側の介入を番組の中に取り込んでいくというスタイルを番組側が採用するようになったことだ。いわばNHKのコントロール下にあってもある程度、アドリブによるジャムセッションが繰り広げられるようになった。こういった番組編成の柔軟化がマンネリであるはずののど自慢を長らえさせてきた理由のひとつでもあるだろう。

サンフランシスコ大会の奇跡

2002年、のど自慢は会場を海外、アメリカのサンフランシスコに移して行われた。これが偶然「感動のサンフランシスコ大会」となってしまったことは、知る人ぞ知る事件。単身アメリカに上陸しハリウッドスターを夢見ながら歌う若者、元ロッテの外人助っ人レオン・リーの娘の熱唱(会場にリーがいて、友人の北島三郎がステージから声をかけた)、亡き日本人の妻を偲んで彼女の好きだった曲を歌い上げる白人老人。彼らはアドリブこそ飛ばしたわけではないが、自分の人生を背後に抱えながら曲を歌い上げる。会場は次第に異様な雰囲気に包まれ、感動の涙の渦と化す。ゲストだった北島は感極まり「この大会は普通ののど自慢ではありません」的なコメントを思わずしてしまう。この時、まさに歌がその人たちのライフヒストリーを語ってしまうという、番組始まって以来の前代未聞のアクシデント=ヒューマンドラマを発生させたのだ。

ヒューマンドラマを巧妙に挟み込む

さて、今回ののど自慢。やはりポイントはSMAPを登場させたことだろう。そして、時間枠は一時間半へと拡大。この二つの要素が加わることで、番組はヒューマンドラマをを中心とした展開を色濃くしていった。出場者が歌を披露する前に、事前に収録した参加者の日常が映し出されるのだが、これがSMAPによる訪問という形を取ったのだ。もともとこういった素人の中に入り込んで話し込むというスキルについてはプロ中のプロであるSMAPのこと。NHKのスタッフとしては、ただカメラを回してSMAPのメンバーに勝手に参加者たちとやりとりをさせれば、それで生き生きとしたドキュメントが撮れてしまう(もっともNHKのスタッフもSMAPに口を挟むことなど出来ないだろうけれど)。そして視聴者側は出場者のヒューマンドラマをコンテクストに歌に聴き入ることが出来る。もちろん、それが上手いとか下手とかいうレベルは大した問題ではない。人生が語られているかどうかの方がはるかに重要なのだ。つまり素人の「素人ライフ」を徹底的に主役にする。そして、これを盛り上げるのがSMAPのメンバーに他ならない。司会は小田切千アナだったが、ほとんどどうでもいい存在にまで引っ込められ、進行は実質中居正広(紅白司会、金スマ等司会)、香取慎吾(仮装大賞司会)、草磲剛(ぷっスマ進行)この三人のゴージャスな「司会者」による展開となった。で、これを盛り上げたのが木村拓哉と稲垣吾郎で、とりわけキムタクは徹底的に出場者に荷担するというヨイショぶりで会場を盛り上げる。

まさにSMAP出ずっぱりなのだが、このメンバーたちがスゴいのは、結局、自分たちより出演者をゲストとして盛り上げていたことだ。そして最後は参加者、会場が一体となって「世界で一つだけの花」を合唱。参加者、会場、そして視聴者全員を満足させることにも抜け目がない。

こういった構成、ある意味NHKらしい。型にはしっかりはめてはいる。しかし、かつてと違い詳細まで型にはめるのではなく、大枠だけを徹底的に固め、あとは参加者に委ねるような、さらにはSMAPという芸達者たちにアドリブをさせるような余裕のある演出を展開しているところが、かつてとは違う。いわば「素材を引き出す」という演出法がここにはある。
型にはめながらもドキュメント的な、そしてあまりヤラセにならないヒューマンドラマ的な、つまり「ナマを取り出す」という手法。現在のところいちばん長けているのがNHKなのではないのだろうか。ちなみにこの手法、「ファミリーヒストリー」「鶴瓶の家族に乾杯」「キッチンが走る!」「サラメシ」といった番組でもしっかり採用されている。

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