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気概不足の若手、党員獲得に苦戦…自民党の抱える課題とは?〜ノンフィクションライター・常井健一氏に聞く(後編)

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「一強多弱」状況の中では、今後も与党・自民党の地位は盤石のように見える。現在の自民党に課題や不安はないのだろうか。前回に引き続き、ノンフィクションライターの常井健一氏に解説してもらった。

「日本会議」の構成団体には創価学会を糾弾する団体も

一総裁選が無風で終わった理由の一つとして自民党内に「党が壊れてしまう」という危機感があるというお話がありましたが、一方で、ここ数年の野党の動きや民主党政権を見ていると、野合の結果、内部分裂が起きて、何もかも決まらなくなっているように見えます。なんだかんだ言っても、自民党は結束しているので、その強さを非常に感じるのですが。

常井:「ポスト安倍」の話になると、「昔は多様性のある党だったのに」と嘆く声が多いのですが、私はその前提はとっくに変わったという認識を持たなくてはならないと思っています。

自民党を支えているのは、昔から自民党にしか投票しないという保守層の60代以上の方々でしょう。それに加えて、20代~30代という比較的若い方々が安倍政権を支えているという世論調査の結果も出ている点に私は注目しています。

おそらく高齢層と、若年層が感じている自民党の良さというのは異なっていると思います。「右から左まで幅があって、多様性があるからこそストッパーが効く。暴走せず、安定感があっていい」というのが、高齢層が自民党を支持する理由だとしたら、「1つにまとまっていて、スピード感があるからいい」というのが若年層の支持理由なのではないでしょうか。

一度は期待したがバラバラになって何も進まなかったという「民主党政権の悪夢」に比べれば、少し強引かもしれませんが、1つにまとまっていてスピード感があるほうがいい。だからこそ、安倍さん個人や自民党を好きではないけれど自民党を支持する。安保法案で落ち込んだ支持率が、こんな状態になっても戻ってくる、下げ止まるというのは、そういう感じ方をしている人が多いということなのではないでしょうか。

一これまでは選挙制度が中選挙区制だったこともあって、自民党内でも保守からリベラルまで考え方に幅があったとされています。リベラルを志向する野党が壊滅的な状況を考えると、以前のように党内で保守とリベラルがけん制しあった方が良いのではないかという意見も出てくると思うのですが。

共同通信社
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常井:保守とリベラルという分け方では今の自民党を正確に読み解けないと思います。先ほど話したように、多様性か一枚岩がいいか、抑制的であるべきかスピード重視かという2つの路線が存在し、圧倒的多数のこだわりのない人たちがどちらかに付和雷同することで前に進んでいる状態だと思います。

岸政権が安保改定を押し切って退陣した直後、池田政権では「寛容と忍耐」と言っていた自民党が、角栄になったら「決断と実行」と言ってイケイケドンドンの政治をやった。安倍さんが総裁になる前も谷垣さんが「大らかな保守」と唱えていましたから、派閥が弱くなり思想的な対立は薄らいだ一方、今も昔も変わらないのはそういう態度や姿勢の違いなのではないでしょうか。

そういう意味では、安倍政権はよく岸や池田と比べられますが、意外と田中政権の時代状況に似ているというのが私の持論です。あの時も、長沼ナイキ訴訟の一審判決で自衛隊が違憲とされました。同じ頃、角栄は石油危機でエネルギーシフトを迫られる一方、物価高騰への経済対策を挙党一致体制を敷いて最優先しながらも、日教組や労組を露骨に叩いて、国旗国歌の法制化や教育勅語の復活を言い出したり、靖国の国家管理化を衆議院で強行採決するなどしたことが「右傾化」「ファッショ化」と批判されました。そこで調子づいた共産党は「民主連合政府構想」を打ち出して74年の参院選での野党共闘を呼びかけました。当時、角栄は病魔に侵されながらも地球儀を回すように外遊を続け、健康アピールとリラックスを兼ねてゴルフばかり出かけていたんですよ。最近流行りの角栄の武勇伝はどうも美化されすぎて、よく安倍批判にも使われますが、流れだけ見るとそっくりじゃないですか。ちなみに、74年の参院選では野党第一党の社会党が共産党の無所属統一候補方式を拒否、党内抗争もあって公明党を含めた野党協力は難航したものの、自民党も10近く議席を減らして「一強」から与野党伯仲に転じ、数か月後に角栄を退陣に追い込む結果となりました。

また、最近は事あるたびに「中選挙区制度に戻すべき」という議論になりますが、小選挙区制度の導入から来年でちょうど20年になります。私は20歳になった時点から小選挙区制だった世代なのですが、投票行動を試行錯誤してきた身としてはこの20年で、メリットも見えてきたのではないかと思っています。

その一つが、政権を取るためには連立を組まなくてはならないという状況ができたことだと思います。これは一つの選挙区の中でも言えることで、選挙区内で、自民党支持の票だけを固めても選挙に勝てないという状況になっているのです。そうなると、無党派層も取り込まなくてはなりませんし、自民党候補の場合は公明党と仲良くする必要も出てきます。一人の候補者の中でも、連立政権的なマインド、幅広い世論を汲み取るバランスを持っていないといけない。

例えば、安倍政権に対する日本会議の影響力が最近よく報道されていますが、シンパと呼ばれる自民党タカ派の国会議員を取材すると、仲間うちで「草莽崛起」と叫ぶ一方、それで票が稼げるとは期待していない、1~3万票ほどの公明党・創価学会の票を得なければ小選挙区で勝てないという人たちが少なくないのです。日本会議の構成団体の中には、創価学会を糾弾するような団体もあります。にもかかわらず、日本会議のシンパの議員たちが、表立って創価学会を罵倒しているかというと、そんなことはありません。選挙区に帰れば、公明党、創価学会の人たちの考え方に耳を傾け、選挙協力のために密にコミュニケーションを取っている。反対に、ハト派と目される自民党議員だって、日本会議議員懇談会に名を連ねています。つまり、小選挙区制度には、政治家の行動をマイルドにする効果があるんじゃないか、という見方です。

ただ小選挙区制になって個人はマイルドになる一方で、政党そのものはモノトーンに染まってしまうことは否めません。自民党のハト派でも安倍さんの言うとおりに「国防軍創設」を掲げて戦わなければならない。自民党に対して否定的で、「右傾化」と批判する人たちは、自分の選挙区の自民候補者が安倍さんと違うタイプだとしても、それを知って安倍さんの顔に見えてしまうわけです。結局のところ、自民党政権とはハト派的な部分を公明党に外注して、バランスがあるように見せて、幅広い国民を取り込もうとしている状況にあるのだと思います。ですが、最近は公明党も自民党と一体化しすぎているから、こんどは橋下徹氏を政権内に取り込み、武闘派的役割を外注して中から異議も唱えさせることで、国民のガス抜きを図るんじゃないでしょうか。

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