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日本人は本当に内向きか?

海外でも大きな活躍
カンボジアでも期待と信頼
教育、伝統医療の普及に


 若者、時に日本人の内向き志向がしばしば話題となる。確かに海外の大学へ留学する学生は減り、企業の海外赴任希望者も減少傾向にあるようだ。しかし社会貢献活動ひとつをとってもアフリカからアジア各国まで、あらゆる地域で日本人が活躍している。数字の変化は日本、さらに国際社会の急速な環境変化が一番の原因であり、一概に「内向き志向」と決め付けるのは早計ではないかー。

9月上旬に訪れたカンボジア王国でも、伝統的なクメールの絹織物や焼きもの(陶器)の復活・育成に取り組む人や、カンボジア土産として有名なクッキーの生産・販売会社を軌道に乗せ、さらに農業育成を目指す起業家まで多くの人が活躍し地元民から熱い期待と信頼を得ている。日本財団の支援事業に関連して、そのうちの2人に話を聞いた。

▼田中千草さん「ポル・ポトのせいにしているだけでは何も変わらない」リンク先を見る
ひとりは世界遺産アンコールワットの観光拠点シェムリアップで非営利団体「アナコット・カンボジア」の代表を務める田中千草さん。2007年、JICA(国際協力機構)の海外青年協力隊員として地元の小学校に赴任、2年後、帰国したが、同僚教師や父兄から復帰を求める1万人以上の署名が寄せられ、今度は個人として赴任。現在、学校運営を手伝う傍らアナコット・カンボジアを立ち上げた。

カンボジアでは1975年に誕生したポル・ポト政権、さらにその後の内戦を通じ800万人の人口のうち200万人が命を失った。ポル・ポト政権は原始共産主義。「知識は人々に格差をもたらす」として教師や医者、学生らを弾圧し知識人の約60%が粛清されたといわれる。

カンボジアには1万を超す公立学校があるが、小中学校の教師のレベル、教えることに対する意欲は低く、教育の貧困が新たな貧困を生む悪循環が続き、子供の人身売買も後を絶たない。夫のDVや借金取りから逃れる家族らを保護するとともに貧しい子供たちの教育を支援し、少しでも子供たちのアナコット(未来)を切り拓くのが田中さんの目標。現在は日本財団の支援で活動拠点となるシェルターづくりを進めている。

子供たちからも「チィー」の愛称で慕われ、バイク姿を見かねた出身地北海道の運送会社社長から贈られた中古のランドクルーザーで飛び回り、日本での講演料などを活動資金に充てる。安倍首相の昭恵夫人を通じて、田中さんの献身的な活動を知ったオバマ米大統領のミシェル夫人も今春、カンボジアを訪問した際、「女性の誇り」と激励した。

 インタビューを申し込むと、世話をしている子供2人を連れて現れ、「日本で5年間、教員をし、見てきたような顔をして外国のことを話すのが嫌で海外青年協力隊に参加した」と動機を説明。「カンボジアは人の心が暖かく人間関係も近い。困っている人が目の前にいれば誰でも助けようと思う」としながらも「ポル・ポトのせいにしているだけでは何ごとも変えられない」とカンボジアの人たちにも厳しい注文を付けた。

 父と兄は教員。弟はNGOで活動する。現在37歳。「カンボジアと結婚ですか」と聞くと「アハハ・・」と笑った。

▼高田忠典さん「地雷の国から薬草の国へ」
リンク先を見る
 もうひとりはカンボジア保健省伝統医療局、カンボジア伝統医療師(クル・クメール)協会(CaTHA)のアドバイザーを務める高田忠典さん。1972年、長崎市の生まれ。上京して鍼灸師、柔道整復師の資格を取り、2003年から4年間、ブータンの国立伝統医学院に勤務、さらに日本の伝統医療科学大学院で学び08年からカンボジアで活動する。妻子は現在もブータンで暮らす。
 
 被爆地・長崎の出身として、ポル・ポト時代、さらに内戦を通じ、伝統文化、地域社会が破壊尽くされたカンボジアに平和を再構築するのが夢。日本財団の支援で伝統医療局が08年から進めたクル・クメールの研修を指導し、342人のクル・クメールから成るCaTHAのネットワークを完成させた。

 ポル・ポト時代には教師と同様、医師も徹底的に粛清され、クル・クメールが何とか医療を支えた。カンボジアには2000種類を超す薬草が自生しており、それぞれの地域、クル・クメールの家に伝統薬の製法が伝わり、慢性疾患を中心に治療に使われてきた。1978年、旧ソ連のアルマ・アタで開催されたWHO(世界保健機関)の国際会議で伝統医療の重要性が見直されて以来、途上国のプライマリー・ヘルス・ケアだけでなく、近年は医療費の膨張に直面する先進国でも、比較的価格が安い伝統医療の活用が増える傾向にある。

 高田さんによると、カンボジアではポル・ポト政権の粛清で近代医療が崩壊した分、他のASEAN諸国より伝統医療が濃厚に残され、薬草も豊富でプノンペンには生薬の問屋もある。カンボジア政府は近代医療を中心に医療体制を整備する意向ともいわれるが、深刻な医師や医療施設の不足を解消するには伝統医療の活用が欠かせない。

 カンボジアでは今も地雷の撤去が続く。CaTHAのネットワークを生かし、「地雷の国から薬草の国へ」が実現することが、内戦で疲弊したこの国を健康にし、ひいては平和の建設につながる。高田さんは、そんな思いを込め、小学校など各地に薬草園をつくり、伝統医療の普及を目指している。(了)

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