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「おとなしいんだね」は「コミュハラ」だから、言ってはいけない?

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

***

そもそも、ハラスメントの概念が日本に広がったのはいつのことか。

「セクシュアル・ハラスメント」セクハラが平成元年(1989)の「新語・流行語大賞」であるから、この頃であると推測できる。つまり現在26歳以下の若者達はこの「ハラスメントは絶対にいけないことだ」という規範のなかで育っているわけである。

筆者は1989年の頃、テレビ局に出入りしていたが、女性デスクのおしりを触ったりすることは、日常茶飯事であり、これはセクハラと言うより今の概念で言えば痴漢である。

それでこの「セクシュアル・ハラスメント」にはどんな行為が入るのか、おしりを触っていた男どもの間で、議論になったものである。

「結婚しないの」と聞いてはダメらしいぞ。

「いくつになった?」ダメらしい。

「お前のデスクに貼ってあるアグネスラムのピンナップ。アウト」

「女の子なんていう言い方もダメ」

「これじゃあ女としゃべれない」 でも、勿論、女性としゃべれないなんて事にはならなかった。

以後、いくつもの多種類のハラスメントが現れた。大森COMPANYが公演した舞台で、このハラスメントを扱った優れたコントがあった。以下は、その設定を借りて筆者がが膨らませたものである。

ヤクザの若頭がいる。若頭は逃げた親分の女を連れ戻すように命じられて、女が拳銃を持って隠れているアパートの下までやって来た。ただし、親分はこれからのヤクザ集団はコーポレートガバナンス(企業統治)をしっかりして、コンプライアンス(社会規範)にも気を配らなければならないと思っている進歩的な人だ。

当然、若頭にはハラスメントなどやってはならないと、きつく言い渡してある。ただし、この若頭、古くからのヤクザ気質でこのハラスメント概念が理解できていない。親分はそれを案じて、大学卒の三下を一緒に派遣した。若頭はアパートに二階に隠れている親分の女に声を掛ける。

若頭「親分の所から逃げるなんて、太てぇ女だ。すぐ出てこい、このド腐れアマ」

三下「今のセクハラです」

若頭「わかった。大体てめえ、新宿でおれがひろってやったんじゃねえか。俺の言うこと聞け」

三下「パワハラです」

若頭「自分お立場を考えたことがあるのか、親分にかしずくのがおめえの仕事だ」

三下「モラハラです」

若頭「おめえ、15、6の娘じゃあ、あるめえし」

三下「エイジ・ハラスメントです」

若頭「てめえ、親分の目を盗んで他の男と」

三下「そういうのをばらすのダメ、ラブハラです」

若頭「まさか、ガキ孕んでるんじゃ」

三下「マタハラです」

若頭「てめえ、女だから優しくしてやってるが、男だったらただじゃ」

三下「ジェンダー・ハラです」

若頭「俺もだけど、中学しか出てねえ癖に」

三下「アカハラです」

若頭「てめえ、香水が臭すぎんだよ」

三下「スメル・ハラスメントです」

若頭「気が利かねえ野郎だ、おめえB型だろう」

三下「ブラッドタイプ・ハラスメント略称ブラハラです」

若頭「どこの組に行っても、てめえなんか相手にしてもらえないように」

三下「オワハラです」

若頭「破門だ」

三下「リストラ・ハラです」

若頭「これじゃあ、なんにも言えないじゃないかよ」

三下「そういう世の中なんですよ」

若頭「(タバコ出して)火っ」

三下「僕、吸わないんですよ」

若頭「それが、どうした?」

三下「僕の前で吸うと、スモーク・ハラスメントになります」

2015年9月20日放送・松本人志の「ワイドナB面」(フジテレビ系)では、コミュハラというハラスメントを紹介していた。

「コミュ障」と言う言葉は前からあって、これは、企業が新人に求める能力としてコミュニケーション力を喧伝するようになってすぐ生まれた言葉だ。コミュニケーション力に長けていないと就職できないと若者達は言った。

だが、コミュニケーションとは、人と人の関係性の中で発生するものであって、個人に内在する能力ではない、というのが僕の考えである。

コミュハラとは、コミュ障に対抗する形で生まれたのであろう。「なんか喋ってよ」「大人しいよね」等と言われるのがコミュハラだそうだ。

そういえばこういう言葉は、若い頃女の子のいるクラブに行くと筆者はよく言われたものだ。

「こちら、お静かなのね」

コミュハラとか、何かと何でもハラスメントを付けて自分が不快に感じる事は全部ダメみたいな世の中はおかしいのはその通りだが、これは、何でも経済中心ビジネス中心、勝ち組中心に回って言ってしまっている世の中へのささやかな抵抗のあらわれかも知れない、とも思うのである。

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