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終戦70周年総理談話は中国に対する警告か? - 岡崎研究所

アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のオ―スリン日本研究部長が、終戦70周年の安倍総理談話は、平和の破壊という日本の過ちを中国が犯すかも知れないと警告したものである、との論評を8月24日付ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿しています。

 すなわち、安倍総理は歴代総理のお詫びを継承するとともに、今日、日本は国際秩序を守ることにコミットしているが中国はこれを覆すことに余念がないとの明確な警告を発した。談話は、日本の過去の侵略を用いることによって北京の現在の行動様式に注意を喚起している。そうすることによって、歴史の一章を閉じ、新たな章を書き始めようとした。

 総理は「お詫び」と「侵略」の語を忠実に繰り返したが、日本は永遠に謝罪を続けるわけにはいかないことを明確にした。この言明を和らげるために、総理は日本が「過去の歴史に真正面から向き合わねばならない」ことを完全に認めた。しかし、歴史は談話のごく一部である。談話はその長さと視野において過去の総理談話を遥かに超えるものである。総理は日本の近代の歴史の道筋を振り返り、東京の帝国主義的台頭と北京が今日辿る途とを対比させている。

 総理は近代日本が欧州の植民地主義と帝国主義から生まれたことを指摘し、1930年代の日本の敵対的行動は恐慌の時代の孤立と経済の行詰りに起因することを述べている。この事実は日本の不幸な戦争への道と今日の中国の行動様式の重要な違いを示している。中国もまたますます高圧的で攻撃的になっているが、それは平和と国際協力の時代においてのことである。帝国主義的な西洋に対抗した日本帝国と異なり、中国は中国から物品を買うこと以上に何も望んではいない西洋を怖れている。

 実際、中国の台頭が談話の隠されたテーマである。それ故に、総理は世界の平和と繁栄に貢献する諸国家の陣営に日本をしっかりと組み込みたかったのである。総理は日本が「自由、民主主義、人権」といった自由主義的価値の守護者と見られることを希望したのである。総理は日本が「新しい国際秩序への挑戦者」となって災厄をもたらしたことを忘れないと誓うことによって中国を想起せしめた。談話は日本の過去から地域の将来へと議論を移動させようと試みている。

 アジアのバランス・オブ・パワーは過去10年に変容した。中国は今後も地域の最も重要なプレイヤーであり続けるであろう。共通の心配は自信過剰の北京が国際法と慣習を損ねることを試みることにある。また国内問題から国内の目をそらすために北京が海外でより攻撃的になることもあり得る。過去の過ちに思いを巡らすべしとの安倍総理の呼び掛けに北京が留意して然るべき理由である。アジアも世界も疑惑と対決の道を転げ落ちるわけにはいかない、と論じています。

出典:Michael Auslin,‘Abe Sounds Warnings Over Asia’s Future’(Wall Street Journal, August 24, 2015)
http://www.wsj.com/articles/abe-sounds-warnings-over-asias-future-1440437099

*   *   *

 オースリンは安倍総理の談話に好意的なのでしょうが、「談話の趣旨は中国に対する明確な警告だ」という論旨は、いささか深読みし過ぎ、解釈の飛躍、あるいは趣旨の取り違えだと思います。談話を素直に読めば、これは、自己の過去の過ちに思いを致し、自己を戒め、自己の進むべき道を誓ったものです。

 しかし、こういう論評が出ることに、何ら不都合はありません。ことによると、オースリンはわざと趣旨を取り違えてこういう論評を書いたのかも知れません。日本が国際秩序への挑戦者となった過去、そして自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去について談話が悔んでいることに、オースリンは注目したのでしょう。総理が「外交的、経済的な行き詰まりを力の行使によって打開しようとした事実を反省し、法の支配を尊重し、不戦の誓いを堅持していくということが談話の最も重要なメッセージである」と記者会見で述べたことにも注目したはずです。論評は、ここに今の中国の行動を重ね合わせ、隠されたテーマを見出しているわけです。確かに、これらの文章に中国に対するメッセージを読み取ることは不可能ではありません。もし中国が談話を中国に対する警告だと読み解くのであれば、それはそれで悪い話ではありません。

 隠されたテーマをいうのであれば、談話が、過去の総理談話と異なり、日本の現代史を20世紀の世界という時代背景の中に位置づけていわば総括し、その上で戦後世代にも謝罪を続ける宿命を背負わせてはならないといっていることの意味はこれで総理談話は終わりにしたいということこそ、該当するのだと思います。終戦後80年になってまた総理談話を出そうということにならないことを期待します。

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