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【読書感想】老後破産:長寿という悪夢

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出版社からのコメント

「こんな老後を予想できなかった」――本書の事例は決して他人事ではない!

金がないので病院に行けない、食事は1日1食100円以内……。

超高齢化社会を迎えた日本で、「老後破産」に陥る人々が増えている。普通に年金をもらい、

自宅も所有、ある程度の預貯金……それでも生活の破綻は防げない!

なぜ起こるのか、実態はどうなっているのか、予防策は?

驚くべき現状に肉薄した、衝撃のルポ!

 いまの高齢者たちは、年金ももらえているし、これからのさらなる少子高齢化社会から「逃げ切れて」羨ましいねえ、なんて、僕も思っていたのです。

 まあ、僕だって、いまの若者たちからすれば、「まだマシじゃないか」って言われそうではあるのですけど。

 しかし、この本を読んで、そのあまりに衝撃的な現実に、僕は驚いてしまいました。

 えっ、いまの高齢者って、みんなお金持ってるんじゃないの? 年金もちゃんと支給されているんじゃないの?

 ひとり暮らしの高齢者が600万人に迫る中、年収が生活保護水準を下回る人はおよそ半数。

 このうち生活保護を受けている人は70万人。残る人たちの中には預貯金など十分な蓄えがある人もいるが、それを除くと、ざっと200万人余のひとり暮らしの高齢者は生活保護を受けずに年金だけでギリギリの生活を続けているが、病気になったり介護が必要になったりすると、とたんに生活は破綻してしまう――。

 板垣プロデューサーは、このような境遇におかれた高齢者を「老後破産」と呼ぶことにしたという。

 説明を聞きながら頭に浮かんだのが、『ワーキングプア』の時に私たちが取材した、秋田県仙北市の鈴木勇治さん(当時74歳)のことだった。鈴木さんは洋服の仕立て屋を営んでいたが、地方が衰退する中、売り上げは伸びず、年収は24万円あまり。それに毎月6万円の年金で暮らしていた。一回の食事にかけられる費用は100円から200円。取材した日のおかずはイカの缶詰と3パック99円の納豆だけだった。鈴木さんには寝たきりで入院している奥さんがいた。1か月の入院費は6万円。鈴木さんの年収はこの入院費に充てられていた。

 それなら生活保護を受ければ、と思うだろうが、鈴木さんには100万円の預金があった。生活保護を受けるには財産とみなされる預金を取り崩す必要がある。鈴木さんは、決してこの預金に手を付けようとはしなかった。妻の葬儀代にあてるための大切なお金だからだ。典型的な「老後破産」の境遇だといえる。

「結局、貧乏人は早く死ねということか」

 とつぶやく鈴木さんの言葉は、私の胸に深く突き刺さった。

 その後、鈴木さんは、奥さんが亡くなったことによって預貯金を葬儀で使い果たし、生活保護の受給が可能となったそうです。

 「預貯金や財産がある人は、生活保護を受けられない」というシステムは合理的なようにみえるけれど、「ギリギリにならないと援助しない」というのは、こういうことでもあるんですね……

 これを読んでいて愕然とするのは、「老後破産」に陥っている人たちは、特別な難病にかかったり、若い頃に浪費をしてきた人ではないのです。

 ごく普通に、ささやかな幸福とともに生活していた人たちが、自分の病気で働けなくなったり、配偶者の死で世帯単位での年金が減ったりすると、あっという間に「破綻」してしまう。

 セーフティネットとして、生活保護があるのだけれど、受給のためには極限まで蓄えを減らして「ギリギリの状態」になる必要があり、それはそれで「不安」ですよね。持ち家に愛着がある人も多いようですし。

 83歳の田代孝さんという男性の生活のようすは、このように紹介されています。

 田代さんが普段、切り詰められるだけ、ギリギリ切り詰めているのが食費だ。常に1日500円以下の生活を心掛けている。昼食を買いに行くという田代さんと一緒に近所のスーパーへ出かけたことがあった。私たち取材スタッフは田代さんに声をかけた。

「お昼ご飯を一緒に食べませんか?」

 すると、普段は足を向けないお弁当コーナーで立ち止まり、じっくりと吟味していた。迷った末に選んだのが300円のシャケ弁当。普段、昼食は、おにぎり1個で済ませていて、何も食べない時もよくあると実情を話してくれた。

 そんな田代さんにとってのスペシャルデーが年金支給日だ。振り込みを確認した直後だけ、自分に許している贅沢がある。近所にある大学の生協食堂で食べる400円の定食ランチだ。学生向けの食堂だから、安くて栄養満点、ボリュームもありお気に入りだという。

「温かいお味噌汁がついて、おしんこもついてくるんですよ。それで400円だからね、嬉しいよね」

 田代さんの表情は本当に嬉しそうだった。

 しかし、ぎりぎりの年金生活といっても、食費を「ゼロ」にすることはできない。食費を削れるだけ削っても足りない生活費を補うため、もうひとつ、節約しているのが電気代だ。田代さんが天井を指差すと、そこには電気のつかない蛍光灯がぶらさがっていた。

「数か月前かな……電気代を払っていなかったら、延滞で電気を止められたことがあるんですよ。ちょうど生活費を節約したかったから、それ以来、電気は通していません」

 長年、この日本という国で生きてきて、行き着く先が、こんな厳しい生活だとは……

 年金をもらっていても、これが現実。

 「豊かな老後」というのは、どこへ行ってしまったのか。

 2011年に東京都港区で行われた大規模なアンケート結果では、生活保護水準以下(年収150万円以下)の単身高齢者は、30%以上にのぼったそうです。そのなかで実際に生活保護を受けている人は2割程度。

 港区のような「お金持ちが住んでいそうなところ」でさえ、生活保護レベルの人が大勢いて、しかも、実際には生活保護を受けずに、ギリギリの生活をしているのです。

 これを読んでいると「金の切れ目が縁の切れ目」なんて言葉を、あらためて思い浮かべてしまうのです。

 単身の高齢者は、外界とのコミュニケーションを求めているけれど、お金がなければ友人との食事や旅行は難しいし、ご祝儀や香典のお金がないと、結婚式やお葬式にも出席できません。

 お金がなくなると、人はさらに孤立しやすくなってしまう。

 前述したように、日本国憲法の第25条では、「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されている。それ以下の収入しかない場合、生活保護を受けることは国民に保障されている権利だ。さらに、生活保護を受ければ、生活費の心配がなくなるだけでなく、医療や介護などの公的サービスも無償で保障される。実際、高齢者の場合、生活費については節約することで賄えても、医療費や介護費用が負担できずに、生活保護を受けることになる人も少なくない。

 しかし、ここにひとつ矛盾がある。

 自分の年金で頑張って暮らしている人は、お金がなくて病院に行けずに我慢している。しかし、生活保護を受ければ、医療費が無償になり、病院にも十分にかかれるようになる。当然の権利を行使しているだけのことなのだが、なぜか「かゆいところに手が届かない」ようなモヤモヤ感が残る。年金で頑張って暮らしている人たちに、「安心して医療を受ける権利」が保障されるような制度があれば、早い段階で救われる人が増えるし、生活保護に頼らずに生きていける人も増えるかもしれないと思えるからだ。田代さんも、生活保護でずっと我慢してきた入れ歯の治療を受けられることになった。

「ありがたい」

 田代さんは感謝の言葉を繰り返すが、これまで耐えてきた時間を思うと、もう少し早く救いの手を差し伸べる方法はなかったのか、と思わずにいられなかった。

 ギリギリのところで生活保護を受けずに耐えている人たちは負担が大きくなり、生活保護を受けられるようになると、医療費も無償になります。

 「お金がないから、生活保護を受けている」のだから、仕方が無いというのはわかるし、みんなが「どんどん生活保護を受けよう!」という社会的な合意ができてしまえば、日本の生活保護システムは財政的に破綻してしまうのかもしれないけれど、確かに、「頑張っている人たちに、さらに負担を求める結果になってしまっている」のです。

 モヤモヤしますよね、やっぱり。

 病気に関しては、早めに治療したほうが、最終的に必要なコストも安くなるのではないか、と思うのですが……

 介護スタッフのこんな言葉も印象的でした。
「本当のこと言うと、完全に孤立無援という人の方が支援はしやすいと思うようなことも多々あるんですよ。中途半端に親族の関わりがあると、同意を得たりするにも意見の隔たりがあって、前に進まないことも少なくないんです」

 親族の中途半端な「善意の介入」が、かえって、高齢者を苦しめることもある。

 介護だけではなくて、医療の現場でも、こういうケースは多々みられます。
 実は番組制作中、スタッフたちとも話し合ったのだが、深刻なのは「老後破産」が次の世代にも引き継がれていくのではないかという問題だ。本書の第5章で紹介したような、親の面倒を見るため会社を辞めたのはいいが、その後収入がなくなり自らが「老後破産」に追い込まれかねなくなるというケースだ。

 こういう「介護がきっかけの『老後破産』の連鎖」は、これからも増え続けていくのではないかと思われます。

 1990年は、5.1人で、ひとりの高齢者(65歳以上)を支えていたのが、2010年には2.6人、2030年には1.7人となるのだそうです。

 どうすればいいのかわからない、というのが僕の率直な感想です。

 「人間が長生きするのを喜ぶ時代」が終わりつつあるというのは、間違いないのだろうけど。

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