記事

【安保法制】賛成派の有識者は何を語ったか(10)前海上自衛隊呉地方総監・伊藤俊幸氏の陳述から

国民の大きな注目を集める中、可決・成立した安全保障関連法案。国会前で行われたデモなど、反対派の動きがクローズアップされてきた一方、賛成派の有識者たちはどのような理由から法案への賛成の立場を取ったのだろうか。

去る9月16日に行われた参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会地方公聴会」より、伊藤俊幸氏(前海上自衛隊呉地方総監)の発言を書き起こしでお伝えする。(※可読性を考慮し、表現を一部整えています。)
niconico
niconico 写真一覧
私は先月まで海上自衛隊の呉地方総監を拝命しておりました伊藤と申します。本日は元幹部自衛官として、本法案に賛成の立場として意見を述べさせていただきます。

「わが国の平和と独立を守る」、これが自衛隊の使命です。「平和を守る」とは、今の平和な状態を維持し、戦わなくてよいようにすることです。わが国は外交等、あらゆる平和的手段を用いて平和を維持する努力をしています。その平和的手段のひとつが抑止力を高めることです。

一定の軍事力を持つことで、日本を侵略しようとする他国の意図を挫く「抑止力」。これが戦後、わが国のみならず、世界中の軍隊の主たる役割であります。
日米安全保障条約に基づき、米軍と共に活動することで、この抑止力はさらに強固になっています。 最近、南シナ海の島嶼で、中国の施設等が建設されトラブルになっていることはご承知の通りです。中国は1950年代に南シナ海全域を"自国領域だ"と勝手に宣言して以来、1987年には、海軍艦艇がパトロールを開始。翌年には各沿岸国と軍事衝突し、あっという間に島嶼を占領してしまいました。

実は同じことが東シナ海の尖閣列島でも起こっています。1971年"尖閣は中国のものだ"と突然宣言して以来、1999年からは海軍艦艇のパトロールも始まっています。しかし、その後16年が経ちましたが、尖閣は占領されていません。

また、ベトナムの船舶は、中国の巡視船・海警から、国際法違反の体当たりや放水を受けています。一方、尖閣では、その巡視船・海警は時々領海侵犯はしますが、基本的にはおとなしく徘徊しているだけです。

この違いはなんでしょうか。そうです。現時点においても、東シナ海では中国に対する一定の抑止が効いていると言えます。海上保安庁や自衛隊による警戒監視、そして日米同盟が、島嶼を占領しようとする中国の意図を挫いているのです。

最初に申し上げたいのは、現在議論になっている平和安全法制は、この抑止力をさらに強化し、現状を変更しようとする他国の意思を挫くための法律だということです。

次に、「独立を守る」について申し上げます。 抑止が効果を発揮できず、他国からの侵略が始まった場合、わが国は独立を守るため自衛権を発動し対処することになります。この対処方法を規定するため、武力行使の旧3要件がありました。特に3番目の要件「必要最小限度の実力行使」、これは極めて重要です。

憲法9条2項で交戦権を否定しているわが国に認められる武力行使とは、相手国からの攻撃を排除することだけをいうのです。それ以上の行為、すなわち相手国の領域に入り反撃・攻撃することはできません。剣道でいうならば、撃ってきた相手の刀を、払いのけるだけで、反撃に転じて相手の面や胴を打つことはできないのです。

相手国からのミサイル攻撃が、排除しても排除しても終わらない場合、ミサイル発射基地ぐらいは攻撃してもよいのではないか、との、敵策源地攻撃といった議論がありました。これは攻撃武器たる刀、これを持っている篭手ぐらいは打ってもよいのではないか、との議論と解釈できます。

このように、わが国が直接攻撃を受けている、まさに日本有事の場合であっても、日本の領海・領空・領土および公海、そしてその上空に存在し、わが国に攻撃を加えてくる相手国の軍艦、軍用航空機、ミサイル、機雷等を排除することだけを、わが国では武力行使と称するのです。

したがって、自衛隊に代わってさらなる侵略を止めるため、相手国に米軍が反撃を加える、これが日米同盟の関係なのです。それくらいこの「必要最小限度の実力行使」という文言は、交戦権を否定している憲法9条第2項に、極めて忠実な要件なのです。

さて、昨年7月の閣議決定で新3要件に変わりましたが、この「必要最小限度の実力行使」は、まったく変わっておりません。

第1項に、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」の要件が加わりました。この文言の後ろには「これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」という、憲法13条で、わが国政府が国政上最大の尊重をしなければならない権利が加えられています。

つまり、他国への武力攻撃が、わが国の防衛と密接に関係するか否かという、判断条件が付いているのです。

では他国に対する武力攻撃がこれに該当するとは、どのような場合でしょうか。これを他国ではなく、他国軍隊に対する武力攻撃と読み替えると理解しやすいと思います。

例えば再び朝鮮半島有事が生起したとします。ちなみに朝鮮有事は、国連軍と北朝鮮が戦ったものです。今も在韓米軍司令官は同時に国連軍司令官です。もう一度、朝鮮半島有事となれば、国連軍が再度立ち上がります。したがって、これまで米軍にしか支援できなかった周辺事態法に加え、国連に寄与する外国軍隊への支援もできるようにしたのが「重要影響事態安全確保法」です。

さて、この朝鮮有事が波及し、北朝鮮が日本に向けて、大陸間弾道弾等を発射すると予測される危険、これが生じたとします。当然ミサイル防衛のため公海上にイージス艦を含め各国艦艇が配備されるのでしょう。

このように、まだ日本有事ではないものの、危険が予測される状態、いわゆる「グレーゾーン事態」で他国軍隊がわが国を守ることは充分ありうるのです。仮にこの状態で敵潜水艦が当該艦艇を攻撃したとします。旧3要件の下では、日本有事ではないことから、自衛隊は当該潜水艦を排除することはできません。このように、これまでの考え方だと、わが国を守ってくれているにもかかわらず、他国軍隊に降りかかる火の粉を払ってあげることもできないのです。

これをできるようにしたのが、「存立危機事態」の概念です。平素から同盟国や友好国とこれまで以上に緊密な信頼関係を構築することで抑止力をさらに高め、現状変更を試みようとする他国の意思を挫く、今回の平和安全法制の根幹はここにあるのです。

さて今回、他国で戦争になる、という議論があります。これは国連の中核的考え方である集団安全保障措置についての理解が、若干、足らないのではないかと思います。

70年前に国際連合ができて以来、国家、あるいは国家に準ずる組織が、個別の意思をもって他国に対し武力行使をすること、いわゆる戦争という行為は、すべて国連憲章違反です。戦前においても、不戦条約により、戦争の違法化は議論されていましたが、国連憲章第2条4項で、「武力による威嚇、または武力の行使、これを慎まなければならない」と規定されています。

地球上の全ての国家をひとかたまりの集団として扱い、もし不当にも他国を侵略した国が存在した場合、その他の国々が集団で制裁を加えてやめさせる、この集団安全保障措置とは、これ以上、悲惨な世界大戦を起こさないと、当時国際社会が強く誓って確立した、平和を維持する基本的な考え方なのです。

この典型的な事例が、1990年8月、イラクによるクウェート侵攻後の国連安保理の対応でした。安保理により非難決議、経済制裁決議、そして武力制裁容認が決議されました。当時、日本では"米国中心の多国籍軍による湾岸戦争"と報じられていましたが、国際社会の為政者たちは、"国連による武力制裁"と認識していたのです。ただしわが国の場合、先ほど来、申し上げている必要最小限度の実力行使、この要件により、武力制裁そのものに参加することはできず、支援のみが可能となるのです。

また、自衛権行使についても、国連憲章は制約を課しております。この武力制裁、これがとられるまでの間だけ認められるもので、かつ国連への報告義務もあります。これは、自衛戦争の名で侵略が繰り返された戦前への反省が、国連憲章に込められているのです。

2001年9月11日、米国同時多発テロが生起しました。米国やNATOが個別的及び集団的自衛権を発動したことは、皆さんご承知のとおりです。しかし、これらは術tえテロ発生翌日の安保理決議によって認められたものであります。米国といえども、自国の意思だけで自衛権は発動できないのです。

このように、自衛権行使そのものについても、戦前とは異なり、国連憲章に極めて厳格に取り扱われるようになっております。

国連は、各国の意思で成り立っております。何らかの形で軍人か軍隊を出すことは求められますが、参加形態は各国に委ねられています。現在の南スーダンPKOも、ブラヒミ報告どおり、いわゆる"7章型"ですが、日本は参加5原則に則り、"6章型"当時のままの編成で参加しています。巻き込まれるとの議論は、戦後の国際社会の実情をご存じない方の議論だと思います。

以上、わが国をめぐる国際安全保障環境の変化に対応し、平素から抑止力を高めるため、および国連を中心とする活動に国際社会の一員として積極的に参加することで、信頼される日本として友好国を増やすためなすべきことを盛り込んだ、今回の平和安全法制の一日も早い可決を希望いたします。以上です。

(この後行われた質疑の内容などは、参議院インターネット審議中継をご参照ください。)

あわせて読みたい

「【安保法制】賛成派の有識者は何を語ったか」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「2021年になって未だに?」 NHKきっかけに日本のFAX文化が世界に 海外からは驚きの声

    BLOGOS しらべる部

    07月29日 17:14

  2. 2

    都の感染者が3865人のからくり 検査数が増えれば陽性者数も増える

    諌山裕

    07月30日 13:07

  3. 3

    五輪で弁当4000食廃棄にショック 河野大臣も驚きのけぞる

    柚木道義

    07月30日 10:28

  4. 4

    不気味に大人しい小池百合子知事、目線の先にあるものは…?ワクチンの集中要請と追加経済対策を急げ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月30日 08:12

  5. 5

    もう、オリンピック・ムードに浸り続けるのは無理なんじゃないかな

    早川忠孝

    07月30日 08:37

  6. 6

    感染爆発の震源地 選手村のPCR検査は極めてズサンだった 

    田中龍作

    07月30日 09:14

  7. 7

    ニュースの見過ぎで疲れた人にすすめたい「ニュース・ダイエット」

    御田寺圭

    07月30日 10:35

  8. 8

    なぜ無効な政策をいつまでも続けるのか?

    青山まさゆき

    07月30日 16:11

  9. 9

    表現の自由を侵害? ネットフリックスなどへの規制に向かうイギリス

    小林恭子

    07月30日 13:34

  10. 10

    「ここまでのコロナ対策が失敗だったと認めた方がよいのではないか」杉尾秀哉議員

    立憲民主党

    07月29日 19:13

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。