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【安保法制】賛成派の有識者は何を語ったか(9)政策研究大学院大学長・白石隆氏の陳述から

国民の大きな注目を集める中、可決・成立した安全保障関連法案。国会前で行われたデモなど、反対派の動きがクローズアップされてきた一方、賛成派の有識者たちはどのような理由から法案への賛成の立場を取ったのだろうか。

去る9月15日に行われた参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会」より、白石隆氏(政策研究大学院大学長)の発言を書き起こしでお伝えする。(※可読性を考慮し、表現を一部整えています。)
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白石でございます。実は私8月の上旬、国際政治・国際法の研究者を中心としまして、「安全保障法制を考える有志の会」という、私が世話人ということで、全会派に要望書を提出しております。

これはちょうど衆議院で議論が終わった直後のタイミングでございますけれど、その時に我々が申し上げましたことはですね、安全保障法制について参院で議論される時には、憲法の問題に加えて、ぜひ以下のような問題について議論していただきたいということで、6点問題を提起しております。

それは第一に、抑止力というのをどう考えるのか。
二番目に、日米安全保障体制における、日本とアメリカの役割分担をどう考えるのか。日米同盟を維持・発展するためには何をすればよいのか。オーストラリア・韓国等、アジア太平洋の国々とどのような安全保障協力を進めていけばよいのか。
第三番目に、台頭する中国に対してどう対応するのか。いかに中国に関与し、いかにそのリスクをヘッジすればいいのか。
第四番目に、使える核兵器を持ちつつある北朝鮮の脅威にどう対処すればよいのか。 第五番目に、日本のエネルギー供給を支える中東・湾岸から、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、東シナ海を経由して日本に至るシーレンの安全保障を確保するためには、何をすればいいのか。
最後に、アジア、そして世界の平和と安全のために我々は何をすればいいのか。

正直申しまして、「安全保障法制を考える有志の会」に参加された人たちの中にも、この安全保障法制についてはいろんな考え方がある、これはよく承知した上で、私は皆さんと協議の上、こういう要望書を提出致しました。

それは一重にですね、この安全保障法制の問題というものを憲法論、法律論だけで議論されると、肝心の安全保障そのものの議論がお留守になるんではないか、そういう懸念からでございます。

私自身はこの法制に賛成でございますが、今申し上げましたように、「安全保障法制を考える有志の会」の皆さんいはいろんな考え方のあることを承知しておりますんで、私としましては、私個人として、今日は今申し上げた要望書に記しております論点について、画一ではない、ひとつひとつではありませんけど、全体として私がどう考えているかということを申し上げたいと思います。

まず最初に、ごく基本的なことから始めさせていただきたいと思います。それは、安全保障とはなにか、ということでございます。安全保障の定義においては、誰が、あるいは何が、誰の、あるいは何の安全を、誰から、あるいは何から守るのかと。誰が、誰の安全を、誰から守るのか、この3つの要素がございますが、過去70年間、第二次大戦以降を見ますと、このそれぞれに範囲は次第に拡大しております

ただ、今日の議論に関わることで申しますと、国が、あるいは国家が、その国の国民と国家の安全を、様々の脅威から守ること。これがおそらく一番単純な安全保障の定義だと思います。あるいは憲法の文言を使えば、日本国民の国家であります日本国家が、日本国が、国民の平和の裡に生存する権利、国民の生命・自由おようび幸福追求の権利を守る、またそのための前提として様々の脅威から国家の独立を守る。これが安全保障ということの一番根本にある意味だろうと思います。

その手段には、当然のことながら、外交から国際協力、治安活動、海上警備活動、防衛活動まで様々でございますが、そこでひとつ非常に重要な考え方としては、外交によって日本にとり望ましい国際関係を作り維持する、これは当然のことで、これがある意味で一番重要ですが、同時にもう一つ、「抑止力」という考え方があります。

そこで「抑止力」というのは、これも少し定義めいたことを申しますと、ある国、あるいはある集団が、ある行動を取ろうと考えたときに、そういう行動を取っても所期の目的が達成できない、あるいは目的は達成できるかもしれないけれども、人的・物的コストが非常に高くて結局思いとどまる、そういう力を持っているときに"抑止力がある"という風に一般的に呼ぶだろうと思います。ということは、別の言い方をしますと、抑止力というのは能力でございますが、同時に主体に働きかけるものであるということでございます。防衛っていうのは、この抑止力のための手段でございます。

日本ではサンフランシスコ条約に署名し、日米安全保障条約を締結して独立を回復して以来、今日まで、日本国民と日本国の安全を守るために、「自助」と「共助」、この二つの手段によって、この抑止力ということを確保してきたと言う風に言えると思います。

そこで「自助」っていうのは、外からの攻撃や脅迫を排除するために適切な自衛力を保持し、行使できるようにしていくことでございまして、そういう能力を持つためには、現在議論されておりますように、括弧付き「いわゆるグレーゾーン」、つまり治安行動、海上警備行動から、防衛行動に至る、あらゆる事態に切れ目なく対処できる法制度の整備が必要だということであります。

「共助」ということで第一義的に重要なのは、これは日米の安全保障、防衛協力でございます。ただ、ここで一つ申し上げておかなければいけないことは、「自助」と「共助」は連動しておりまして、日本の自衛の能力が高まれば、日本に対する期待も高まり、防衛協力の実効性も高まります。その意味で、日米安保条約あるいは日米安全保障防衛協力の基礎には、能力と期待と信頼があると。この3点セットがないと、実は日米同盟っていうものは決して安心できるものにはならないんだってことでございます。

またそれ以外の「共助」の仕組みとしましては、これは多くの場合ですね、第二次大戦以降、アメリカを中心として、バイの安全保障条約、基地協定の束として、言わば扇のような形でこのアジア太平洋にはいわゆるハブとスポークスの地域的な安全保障システムがございますが、これを前提としてASEAN地域フォーラムだとか、あるいはASEAN+の防衛大臣会合だとか、東アジア首脳会議といった信頼醸成、予防外交の仕組みが徐々に作られておりますし、それから最近では太平洋からインド洋に至る非常に広大な地域における安全保障協力の進展によって、ハブとスポークスの地域的な安全保障システムは次第にネットワーク化しこれが「共助」の仕組みとしてもますますこれからは重要になるというふうに考えております。

ではその、どうして今こういう安全保障法制というものを整備する時期に来ているんだろうかと、私は大きく3つの安全保障環境の変化ということが指摘できると思います。

ひとつは力のバランスの変化ということでございます。
例えばG7というものがございまして、20世紀に極めて重要な役割を果たしましたけれども、G7の世界経済に占めるシェアひとつ見ましても、1990年から2000年にだいたい世界経済の65%ないし66%を占めておりましたが、2020年には45%を切るところまで下がってくると。同時にアジアだけを見ますと、例えば2000年、15年前には日本の経済の規模というのは中国、韓国、ASEAN10か国全部合わせた経済の2倍ございましたが、もう2018年くらいになりますと、中国の経済は日本、韓国、ASEAN10か国全部合わせたよりも大きくなります。そのくらい急速にパワーバランスっていうのは変わっております。ただし、日本とアメリカの経済を合わせれば、これは2020年代を通じてこのパワーバランスっていうのは崩れることはございませんし、これにオーストラリア、インド等との協力をもっと強化して。ハブとスポークスの地域的な安全保障システムのネットワークを進めれば、この安定っていうのはますます確保できることになる。これが第一点でございます。

2つ目が、安全保障空間の拡大と軍事技術の革命でございます。かつて憲法が制定されました頃もは、安全保障空間というのは陸と海と空、この3つの空間からなっておりましたが、現在は、陸、海、空、宇宙、サイバーという風に、安全保障空間が拡大しておりまして、また、現在のサイバー化、あるいは情報化と無人化の趨勢、ロボットの趨勢、あるいは防衛においてネットワークを中心とした統合的なシステムということがますます重要になっているということ、これが一番重要なことでございます。

ここで重要なことが、日本の防衛システムにおきましては、このネットワークを中心とした統合的なシステムっていうのは日本だけでは完結していないということでございまして、これはですね、これから日米の安全保障協力、防衛協力がますます進展し、特に統合運用性が向上しますと、このネットワークを中心とする統合的なシステムが日本で完結することはほぼありえないという風に考えたほうがいいと思います。

つまり別の言い方をしますと、このネットワーク中心のシステムは日本はアメリカと共用しているわけでござまして、このネットワーク中心のシステムを守る上では実は個別的自衛権と集団的自衛権ということを区別すること自体に意味ががございません。
こういうことを考えるためには一つだけ例をあげますが、このネットワーク中心の統合システムっていうのは、例えば宇宙における衛星に非常に多くを依存しておりますがこの衛星が破壊されただけでこれは日本の防衛にとって非常に大きな脅威になります。こういうことを一つ考えただけでも法律上個別的と集団的というのを形式的に綺麗に区別することはできるかもしれませんが、現実の問題としてはこういう区別はほとんどもう意味をなさなくなっているということ、これが二つ目に申し上げたいことでございます。

それから三番目に、安全保障の領域そのものが、いわゆる伝統的な安全保障から非伝統的な安全保障。これは海賊だとか、人身売買だとか、麻薬だとか、サイバーだとか、こういうもの。さらに"人間の安全保"障ということで、伝染病だとか、災害だとか、こういうふうに非常に拡大しておりますが、そういう中で我々がこの15年確実に学んだことというのは、失敗国家だとか、破綻国家というものはですね、世界のどこか遠いところにあって日本の安全保障とは関係のないことなんだと、という風には言えなくなってきている。

その意味で、失敗国家・破綻国家における平和構築・復興支援、こういうものは単に、あるいは世界の平和と安定にとってだけではなくて、実は日本の安全にとっても極めて重要な問題であって、これについて日本としてですね、これは他所様のことでうちには関係ないから知りませんということを言うことは、もうできない時代になっているというのが3番目でございます。

繰り返します。日本の安全というのは、これは世界の安全と平和があって初めて守ることができます。そのためには外交、国際協力から海上警備活動、防衛活動まで様々の手段がありますし、対応がございます。その中で、防衛というのは非常に重要な一つの手段でございまして、日本は第二次大戦後、独立を回復して以来、これを「自助」と「共助」の組み合わせでやってきました。その基本にありますのは、「抑止」という考え方でございまして、「自助」と「共助」によって戦争をしないようにすると、日本の存立を脅かされないように、そういう期待を作り上げていくということが実は極めて重要なことであります。

ただ同時に、今もうすでに申し上げたように、安全保障環境というのは極めて急速に変わっておりまして、これについてやはり具体的な議論をし、その上で対応をして、法制度を整備しないと、なかなか日本として、対応できないところにもう来ているんではないだろうか、という風に私は考えております。

憲法の問題は、私は率直に申しまして最高裁の判断を仰げばよろしい問題でございまして、ぜひ先生方には、今日本の安全保障を確保するためにいかなる法制度を作ることが有効であるのか、ということをぜひ考えて議論していただきたいと思います。どうもありがとうございました。

(この後行われた質疑の内容などは、参議院インターネット審議中継をご参照ください。)

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