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【安保法制】賛成派の有識者は何を語ったか(7)~慶應義塾大学総合政策学部准教授・神保謙氏の陳述から

国民の大きな注目を集める中、可決・成立した安全保障関連法案。国会前で行われたデモなど、反対派の動きがクローズアップされてきた一方、賛成派の有識者たちはどのような理由から法案への賛成の立場を取ったのだろうか。

去る9月8日に行われた参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」より、神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授)の発言を書き起こしでお伝えする。(※可読性を考慮し、表現を一部整えています。)

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現在提出されている法案でも、なお不充分

慶応大学の神保でございます。

本日は、平和安全保障法制特別委員会に参考人として意見を述べる機会を頂きましたことに、まず深く感謝申し上げます。

まずはじめに、今回提出されている「平和安全保障法制整備法案及び国際平和支援法案」は、日本の安全保障政策に必要不可欠な法案であるという、私の基本的な考え方を述べた上で、現下の安全保障環境の変化を鑑み、現在提出されている法案でも、なお不充分であり、仮に法案が成立したとしても、不断の体制整備が必要であるという問題意識を、私からは表明させていただきます。

まず、基本認識を申し上げます。

冷戦終結後の日本の防衛・安全保障政策は、安全保障政策の変化に応じて、大きな進化を遂げてきたわけでございます。92年のPKO法の成立以来、日本は述べ14回の国連PKOミッションに1万人を超す自衛隊員を派遣し、すでに20数年間にわたるグローバルな展開をしてまいりました。

また97年の日米防衛協力のガイドライン及び2年後に成立いたしました周辺事態法の成立以降は、我が国を取り巻く地域で生じうる紛争に、日米共同で対処する枠組みも整えてきたわけであります。また2000年代に入りますと、国際テロリズムの時代に入るわけですが、その台頭と拡大に対しても、テロの温床となりうる地域に対する人道復興支援を中心とした国際協力に積極的に関与してきたわけでございます。

こうした過去20年にわたる日本の安全保障政策の展開は高く評価されるべきであると考えておりますが、今日、そこには2つの新しい、しかも深刻な問題が発生をしているということを指摘したいと思います。

第1は、こうした数多くの自衛隊のミッションの拡大を、これまで既存の法律の改正や、時限立法の中で乗り切るという、いわば増改築工事の繰り返しであったということでございます。今日、私、配布資料を準備しておりまして、配布資料の「防衛計画の大綱と脅威認識、政策・制度の空間概念」という格子図をご覧になっていただきたいと思います。

これは、最新の13年12月に発表された我が国の防衛計画の大綱に示されている文章を抽出したものなんですけれども、 その文章に示されている「脅威認識と我が国の政策」、これに対応する制度をグローバル、アジア太平洋、そして日米を中心とした二国間、そして国内という空間軸の中でまとめたものでございます。

これは、やや乱暴な分類ではございますけれども、ここで私が示したかったことは、ご覧になっていただくとわかるとおり、脅威の性質自体は、グローバルから国内に至るまで、空間及び領域を横断する性格をもつようになってきているということでございます。そして近年の政策も、徐々に国内から二国間、アジア太平洋地域、グローバルへと横断する指向をもつようになってきているということでございます。しかしながら、制度についてご覧になっていただくと、それは空間別の縦割りによって作られているものが多いということでございます。

ここに、安全保障環境は領域横断になっているにも関わらず、制度自体は空間の縦割りにとどまっているというミスマッチが生じているということをまず指摘したいと思います。これが第1の問題でございます。

第2の問題は、21世紀の我が国を取り巻く安全保障の最大の変化といってもよいと思います、中国の台頭に関することでございます。それが我が国の安全保障に、2つの新しい領域への対応を迫っているということを申し上げます。 1つは、本委員会でも再三にわたり問題提起があったと了解しております「グレーゾーン」と呼ばれる事態でございます。まさに私の図で申し上げますと、この二国間と国内の間。そして事態でいいますと、平時と有事の間。そして法制度でいえば、自衛権と警察権の間の切れ目に、我が国の主権を侵害する重大な事態が生じているということは、本委員会の皆様が共有するところであろうと考えております。

もう1つは、先日の軍事パレード、皆さんご覧になったと思いますけれども、そこでも示された中国の軍事力の急速な拡大が、我が国ひいては周辺国、さらにこの地域に関与する米軍との軍事バランスを大きく変化させているということでございます。

特にこの米軍の地域的関与に関する、これ拒否力と呼びますけれども、これが高まっていること、これを専門用語では「A2/AD環境」と呼んだりしますけれども、このこと自体が東アジアの紛争抑止・紛争対処への方程式を大きく変化させつつあるということでございます。

以上、申し上げた2つのミスマッチ、あるいは新しいドメインの拡大こそが、なぜ今日、我が国が確固とした安全保障の法制度を策定しなければならないかという、重要な根拠だと私は考えているわけでございます。そしてそこには、日本の防衛政策にとって、今日、最も重要な3つの領域への対応が明確に意識されているわけでございます。

第1はグレーゾーン事態の対応。これは平時と有事の中間領域、そして警察権と自衛権のすき間を埋める対応ということになります。

第2は、これは90年代からの宿題であったわけでありますけれども、朝鮮半島や台湾海峡での有事を念頭においた周辺事態。本法律では重要影響事態における日米の共同対処能力の強化。そして、その延長線上にある集団的自衛権の限定的行使をめぐる問題でございます。

そして第3は、国際平和協力における自衛隊の役割の国際標準化。そしてそれを通して、日本が世界の平和維持・平和構築で積極的な役割を果たしていくことという、以上の3つでございます。 そしてこの法案自体を見てみると、現在、提出されております平和安全保障法案自体は、大変複雑に構成されておりまして、多くの国民の皆さんには大変わかりにくいものとなっております。そして、この複雑さを充分に単純化できず、国民の理解を得られていないという状況は、率直に言って、政府与党の皆さんの努力不足を指摘しないわけにはいきません。

せっかくの機会ですので、外部の有識者という立場で招かれている私であれば、「このように整理するのになぁ」というかたちの視点をいくつか提示をしてみたいと思います。本法案は、私の理解するところ、先ほど申し上げた3つの領域に対して、切れ目のないシームレスな対応を目指す制度構築の試み、というのがひと言で申し上げる平和安全保障法案の最大の目的だと考えております。

この切れ目のない対応がなぜ必要であるか、それはすでに述べたとおり、安全保障上の脅威が領域横断的であるにも関わらず、我が国の法制度が充分に横断的ではないという問題認識から出ているわけでございます。

ですからこのシームレスという概念に対する理解が、極めて重要だと考えているわけですが、しかもこのシームレスという概念は、私の考えでは以下の4つの領域に及ぶと考えております。

第1は、事態の段階をめぐる考え方でございます。これは防衛計画の大綱や、日米防衛協力のガイドラインでも示されているわけなんですけれども、平時から緊急事態までのあらゆる段階で、切れ目のない体制整備をすることが重要だという考え方でございます。しかしながら、実際にはグレーゾーンと有事の間、そして低強度紛争と高強度紛争、ハイエンドな紛争との間には、制度的、能力的な隙間が厳然として存在しており、これを埋める方策が不可欠であるというのがひとつ目、つまり1番目のシームレスの考え方でございます。

第2番目のシームレスの考え方は、地理的空間に関する概念でございます。先程来、申し上げた領域横断的な脅威に対応するためには、我が国はどこまでの地理空間を安全保障上の空間とみなすのか。これはここまで委員会でも議論されたとおりだと思いますが、事態の性質に応じて変化する概念でございます。

かつてこれは周辺事態として想定された朝鮮半島周辺の地理的区分ということにとどまらず、21世紀の安全保障環境を考えると、特に海洋安全保障。東シナ海から、南シナ海、インド洋、そして中東地域にひろがる広域空間の戦略的重要性は間違いなく高まっており、さらにそういった広域空間であるからこそ、さまざまな形態の国際協力や共同行動に参画する必要性が増したというのが、これが空間的シームレスの必要性でございます。

第3の概念は、アクターの連携でございます。従来の周辺事態法であれば、その協力相手はアメリカに限定をされておりました。しかし今般、提示されている重要影響事態法案では、後方支援の対象国はオーストラリア等の友好国を含めるという設計になっております。これは仮に朝鮮半島有事で、そうした有事が発生した場合ですけれども、その対応に従事する部隊は、アメリカ以外の多国籍の軍になるということは、ほぼ確実であります。

その場合、日本が柔軟に後方支援ができる枠組みを整備できるかどうかということは、これから起こりうる朝鮮半島の危機管理や紛争対処においても、私自身は必要不可欠と考えているわけでございます。これが第3番目です、アクターの連携。

そして最後は、領域横断ということでございます。特に先ほど申し上げた中国の拒否力の拡大、「A2/AD環境」、様々なミサイルや戦闘機、潜水艦などを持っているわけですけれども、こうした環境においてアメリカ軍、そして日米同盟が中国に対して、相対的な優位を確保し続けるためには、実は様々な領域に対する、これは宇宙やサイバー空間を含むわけですけれども、これはアメリカの用語でクロスドメインといっておりますけれども、クロスドメインの領域で協力を深めなければいけない。様々な領域をシームレスに担保するということが必要だということでございます。

これが切れ目のないといっている4つの領域でございまして、これを正確に使い分けて法案の中にどのように反映させるかということが大変重要だと、私には考えているわけですけれども、現在提出されている平和安全保障法案は私のレジュメの(2)に示したとおりなん ですけれども、たとえば自衛隊法の改正は①と③に対して、そして重要影響事態法案は②に対してといったかたちで整理することによって、シームレスという切り口から、なぜ現在この法案が重要なのかということが、国民の皆さまに対して、よりわかりやすく説明できるのではないかと考えております。

与党及び政府関係者の皆さんにおかれましては、極端な単純化や便宜的な事例紹介にとどまらず、国民にわかりやすく説明する努力を引き続き継続していただきたいと思っております。

そして最後に、私は現在提出されている法案に強く賛同する立場ではありますが、いくつかの苦言を申し上げたいと存じます。最大の苦言は、本国会における議論が、日本国憲法に対して合憲か、違憲かという議論に相当多くの時間が割かれ、日本の安全保障政策のあり方を問う議論自体は充分に展開されてこなかったということでございます。

シームレスな安全保障体制確保のために必要な3つの論点

僭越ながら私見では、平和安全保障法をめぐる最大の論点は、この法案がシームレスな安全保障体制を確保できているかどうかということにあると考えております。しかもその点に関して、私は研究者という立場から現行の提出された法案では充分ではないと考えております。これが、仮に本法案が成立したとしても、不断の体制整備が必要だと冒頭に申し上げたゆえんでございます。

絞って3つの論点のみ申し上げます。

第1の論点は先ほど来、申し上げておりますグレーゾーン事態への対応でございます。これは警察権と自衛権の切れ目を埋める方策ということが焦点となっているわけですけれども、この方法に関しましては、海上保安庁及び警察の能力の権限拡大と、自衛隊による警察権の行使の適用拡大という、いわば下から上へのアプローチと、上から下への双方のアプローチがございます。

今回の安保法制ではグレーゾーンに対して上から下、つまり自衛隊の海上警備行動や、治安出動の迅速な閣議決定の手続きや、平時に活動する米国に対する武器等防護というものを当てはめようとしているわけでございます。当然、私自身も海上保安庁のみで対応できない事態に、自衛隊の出動を柔軟に担保することは重要だと考えておりますが、他方で、もう一方の下から上への作用、つまり海上保安庁の権限拡大については、特に海上保安庁法第20条、これは警察官職務執行法第7条の適用の、規定の準用になっておりますけれども、これに事実上がんじがらめになっている武器使用権限をどうするかということの議論については、依然として本国会では欠落したままになっていると考えております。

当該事態に対して、海上保安庁の権限、能力を拡大して、警察権、いわば英語でいいますとホワイトホールを拡大するのか、それとも軍事組織を早期に投入する方がいいのかということを考えるのは、これは日本が国家としてエスカレーション管理をどうするのかということの戦略にかかわる問題でございまして、この戦略論こそが法制度に反映されなければいけないと考えているわけでございます。これが第1点です。

第2の論点は武力行使の「新3要件」として提示された存立危機事態をめぐる問題でございます。私はかねてより、日本が集団的自衛権の行使を認めることは当然という立場で議論をしてきました。この観点から昨年の7月の閣議決定において、武力行使に関する「新3要件」として我が国と密接な関係にある他国を含めたことは画期的であると考えております。 しかしながら、その後段であります「我が国の存立が脅かされ国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という定義が付加された結果、その行使できる範囲が限定されすぎた。限定することは反対しておりませんが、それが限定されすぎたのではないかという懸念をもっているわけでございます。

例えば、これまでの事例研究でもございましたように、日本以外の他国に向かうミサイルを日本のイージス艦が迎撃できるかどうかは、この解釈によればはなはだ疑わしいところだと言わざるを得ません。このままの状況では日米のミサイル防衛に関する共同行動には重大な支障が生じるという可能性を危惧いたします。

時間がまいりましたので、最後簡単に述べたいと思います。第3は国際平和協力の改正をめぐる問題でございます。

今回の改正案の焦点となっているのは、PKOの参加5原則に関して受け入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、駆けつけ警護を含む任務遂行型の武器使用を可能としたということでございます。この方向性自体は、日本のPKO参加を国際標準に合わせていく上で必要不可欠であり、歓迎すべきであるというふうに考えております。

しかしながら、問題となるのは、その前提となる受け入れ同意が安定的に維持されているという情況認識そのものでございます。現代の中東、北アフリカ、西アフリカにおける秩序の不安定化は、しばしば広域に偏在する越境型の武装組織、これが特に組織化されているわけですけれども、こうした組織による破壊活動によってもたらされております。

これは国家の分裂等によって、紛争当事者が固定的に存在していた90年代のPKOの状況とは大きく異なるわけでございます。これらの地域に展開される現代のPKOは、越境型の過激組織のテロ活動や急速な治安の悪化等の事態の変化にも対応することが求められます。より現代の実態に即したPKO参画の法的基盤が今後、形勢されるということを望みたいと思います。

以上で2分ほど超過して大変失礼いたしましたけれども、私の冒頭の発言を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

(この後行われた質疑の内容などは、参議院インターネット審議中継をご参照ください。)

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