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徹底討論・「沖縄問題」としての基地問題の来歴と現状

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――9月14日、沖縄県の翁長雄志知事は、米海兵隊普天間飛行場の名護市辺野古への移転工事に対し、仲井真弘多前知事が2013年12月に出した埋め立て承認を取り消す方針を表明した。まだまだ基地問題で、政府と沖縄は食い違いを続ける。安全保障をめぐる沖縄問題に長年取り組んできた国際政治学者3人が、敗戦・占領という「戦後」がまだ終わっていない沖縄の政治構造を徹底的に掘り下げてみた――

本土と沖縄、かみ合わない議論

宮城 今回はまず沖縄をめぐる現状をどう見ているのかについて、お聞きしたい。

遠藤 沖縄の基地問題は、本土では沖縄の問題と受け止められているのに対して、沖縄では、基地問題は日本全体の問題として受け止めている。その負担もまた日本全体で公正に分かち合うべきだという主張の上に、普天間飛行場の返還、辺野古での「新基地建設」反対が論じられている。沖縄の基地問題について、本土の人々および政府と、沖縄県および沖縄の人々の間で必ずしもかみ合った議論が行われていない。

安倍政権は辺野古の「新基地建設」については既に地元の了解を得ているとして、2014年11月の沖縄県知事選挙、12月の衆議院議員選挙など多様な機会を捉えて沖縄県民が示してきた民意を一切考慮しない姿勢をとっている。現在のところは、沖縄対本土という対立の構図があまりにも明確で、建設的な解決の方向も見えていない。

日本を取り巻く国際環境や安全保障状況が改善されれば、沖縄の基地の必要性について冷静な議論が可能になるので、基地問題の行方について多様な可能性を探究する余地が生まれてくる。しかし、尖閣問題についてはここしばらくの間は、日中間で落ち着きが得られているものの、南沙諸島の問題が緊迫感を増すと、米軍内でも日本本土から見ても、沖縄の基地の必要性が改めて強調され、米国の対東アジア関与を希薄化するような議論への共感が得にくくなる。

特に本土では、安全保障上の関心が最重要事項となり、そのためには沖縄の米軍基地が必要だという論理や思い込みが強くなっている。純粋に軍事的な観点から見て、中国を抑止するために沖縄の基地が不可欠なのかという点について検討がなされるべきであるにもかかわらず、日本政府や本土の国民は、「中国を抑止する必要があり、抑止するためには基地が必要で、基地は沖縄になければならない」という考え方以外の方法に耳を傾ける余裕を失っている。

沖縄の人たちは、日本全体の安全保障、沖縄県住民の安全な生活環境、基地撤去から得られる経済的利益、埋め立てで基地を作ることにともなう生態系の破壊の危険性など、いろいろな理由があって、それらについてかなり熟慮した上で新基地建設に反対を表明している。しかし本土ではそうした深みや広がりのある議論を理解しようとする姿勢そのものが欠けている。

このように、沖縄県民および沖縄県庁と政府の対話が行える環境としては、良くない方向に向かっており、本土と沖縄が対立しているという構図ばかりが強調されてしまっているというのが私の認識だ。

沖縄に残る「敗戦国日本」の姿

平良 少し別の観点から言うと、私はいまの「沖縄の姿」そのものが戦後日本のありかたを凝縮的に象徴していると思っている。これは沖縄の問題ではなく、しかも沖縄対日本という枠組みでもなく、戦後日本の問題として議論を組み立てていく必要があると考えている。
いまの「沖縄の姿」が問いかけているものは2つあって、1つは主権国家としての日本の在り方。もう1つは民主主義国家としての日本の在り方だ。

現在沖縄では、名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院議員選挙のすべてにおいて辺野古移設反対を主張する候補者が当選したにもかかわらず、政府はその民意を無視しているというかたちで、民主主義の問題を提起している。けれども私は、そのレベルでの民主主義の問題ももちろん重要だが、もっと根本的に、民主主義国家を成り立たせている前提のレベルから議論する必要があると考える。すなわち、防衛負担の平等にかかわる問題だ。こうした2つの観点から問題を捉え直さなければ、なかなか展望は開けないのでは思う。

宮城 もう少し具体的に言うとどういうことか。

平良 日本は1952年のサンフランシスコ講和条約の発効により、6年8カ月続いた占領を終わらせ、主権を回復した。その後、50年代には、本土に駐留する米軍の撤退と基地の縮小に取り組んでいる。これは60年代も続き、70年代には、あの関東計画に象徴されるように、首都圏からも多くの基地がなくなっていった。52年の段階で米軍基地(専用施設)は13万5200haもあったが、60年には3万3500ha、72年には1万9700ha、そして80年には8500haにまで削減されている(現在は8000ha)。

このように米軍撤退、基地縮小に日本の政治家たちをして動かしたのは何だったのか。安保改定を成し遂げた岸信介元首相の言葉を借りて言えば、占領の「残滓」の払拭。つまり、主権国家として「日米を対等の地位に置く」といったものが、強弱の違いはあれ、日本の政治指導者たちを突き動かす原動力になったと思う。60年の日米安保条約改定にしても、また72年の沖縄返還の実現にしても、根本的にはそうしたものを駆動力にして推し進められたと思う。これらの実現によって、日本は占領の「残滓」の払拭、「日米対等」の実現というものに、ひとまず “ケリ” をつけた格好にした。



しかし本当に “ケリ” をつけることができたのか。沖縄をみると、2万2700haという広大な米軍基地が戦後70年を経ったいまも残っている。沖縄戦から米軍占領期につくられた基地が、しかも戦勝国の力によってつくられた基地が残っている。この「沖縄の姿」をみると、果たして本当に日本は占領の「残滓」を払拭できたのか。あるいは敗戦国から脱することができたのか、と思う。主権国家の在り方が問われているとは、こういうことだ。

基地問題にはもともと保守も革新もなかった

宮城 ここに来て「オール沖縄」という形で「現行案」に対する反発が高まっている。これはどういうふうに理解すればいいのか。

平良 沖縄内部の政治構造の変化を見る必要がある。沖縄では1960年あたりから本土から保革対立の枠組みが入ってくるが、この保革対立の政治構造をより仔細にみると、地域レベルの問題では保革が連携できる基盤のようなものがもともとあったことが分かる。

国家レベルの問題では、日米安保条約、米軍基地、自衛隊の存在をめぐって保革が対立するが、しかし地域レベルの問題では、基地の整理縮小と経済振興をめざすという意味では、両者の間に大きな違いはない。この点の理解が重要で、保守は「経済」、革新は「基地」や「平和」といった単純な分け方をすると、沖縄政治を捉え損なってしまう。

ただ、そうはいっても、保守は「経済」をより重視し、革新が「基地」や「平和」の問題をより重視したことは間違いない。だから、沖縄を取り巻く「現実」そのものが変わっていけば、つまり「基地もなく、豊かな沖縄県」という「理想」に近づいていけばいくほど、両者の距離が接近してくるのは、ある意味で自然なことだ。

米ソ冷戦の終結後、基地返還の可能性も見えはじめ、しかも経済振興によって基地への依存度も徐々に減っていったことから、保革がともに基地経済からの脱却と基地の整理縮小を現実の課題として射程内に入れ始め、両者の距離は事実上接近してくることになる。そうした沖縄内部の変化をまずはおさえる必要がある。

経済と基地の交換に固執する本土政府

遠藤 日本政府は、ずっと保守政権が続いてきた。沖縄復帰に向けてエネルギーを注いだ保守政権は、沖縄復帰後、基地問題そのものを解決するよりも、基地を引き続き沖縄に引き受けてもらう代わりに経済振興に取り組むという方法を採用してきた。基地固定化の代わりに行う経済振興の受け皿としての沖縄の保守勢力に肩入れしてきた。戦後日本を牽引してきた開発主義を沖縄に関しても集中的に展開する時に、沖縄にも保守勢力が必要だったということだ。

現状を見るならば、翁長雄志(おなが・たけし)新知事は保守で、翁長支持者も本来的には保守勢力という点に注目する必要がある。そして、沖縄の中の保守勢力が新基地反対を主張している現状は、「経済振興策を展開するから基地の問題では辛抱してね」という方法論が行き詰まっていることを示している。

経済面で見ると、例えば、沖縄を観光地として売り出し、リゾート開発などを行ってきたわけだが、一方で、基地を辛抱してもらう代わりに注ぎ込んだ資金でできた公民館のような箱物は、一時的に建設業界を潤すかもしれないが、結局のところ維持費がかさんで自治体財政を圧迫するし、経済的に見て持続的な開発にはつながらないことが明らかになった。そして、リゾートとしての沖縄が価値を高めていくと、基地の存在そのものはむしろ沖縄の経済的発展や自立にとって障害となるという理解が広がっている。

実際、基地跡地が返還されたところでは、新たな商業機会が生まれ、雇用が生まれるなど、プラスの経済的波及効果が大きいことが統計的にも実証されてきた。基地から得られる地代所得は波及効果が小さいのに対して、跡地を有効に活用すればその数倍の利益を生み出すことができる。つまり、基地に依存して何とかやっていくのではなくて、基地がなくとも繁栄できる、あるいは基地をなくした方がより大きな利益が得られることが示されてきたわけだ。こうした実例を基礎にして考えていけば、基地受け入れと開発の交換ではなく、基地返還と開発の両立でより大きな利益が得られるという点で、沖縄の人たちがまとまってきた。つまり、保守と革新の間には以前ほど強い対立がないということになっている。それが今の沖縄の姿ではないのか。

つまり、沖縄では、復帰以降の開発主義体制を脱した新しい方法の模索を、実績に基づいた形で展開しようとしてきた。そうした潮流が翁長知事の下で顕在化してきた。したがって、現在の沖縄が、純粋に基地問題として、海兵隊基地の撤去を求めているのみならず、経済的な利益の観点からも基地を障害と捉え、経済と平和という両方の観点から基地なしでやっていきたいと言っているのは、それなりに強固な基盤がある。

それにもかかわらず、本土の側は依然として、基地受け入れと開発の交換という古いやり方でいけば沖縄は黙らせることができるという姿勢でいる。そして、沖縄に定着してきた新しい潮流には耳を貸さないという姿勢を取っている。

つまり、沖縄の中で保守と革新が一体化していくプロセスが進行しているのに、本土の政府のやり方は全く変わらない。本土の旧来の論理は、もはや説得力を失っているということに気づきもしない。あるいは気づいていても、気づかないふりをして力で突破しようとしている。こうした形で本土と沖縄との関係が行き詰まってきたのだと考える。

ターニングポイントとなった少女暴行事件

宮城 おっしゃるように、構造的に行き詰まっていたものがあると思う。結果としてその「瓶の蓋」を抜いたのが、少女暴行事件であり、その後の普天間飛行場返還であった。普天間についていえば、もちろん返還はされたほうがいいのだが、一番の難題であるはずの「代替施設」について詰めないまま劇的なトップダウンで決定という「演出」が採られた。これは決定した橋本龍太郎首相自身、非常によく分かったうえでの一種の賭けだった。

沖縄県内での移設は本当に難しい。那覇軍港(那覇港湾施設)のように、何十年たってもそのままというのはごろごろしているわけで、橋本氏ほどの政策通の人ならそのことを熟知していただろう。しかし当時は大田昌秀知事の土地収用契約延長の代理署名拒否があったので、あのままいくと翌年には嘉手納をはじめ不法占拠状態が発生するという中で、沖縄の空気を変えるような劇的な手段が必要だと考えた上での決断であったといえよう。

一方で、橋本首相・モンデール駐日米大使による96年4月の普天間返還発表時には、「代替施設」については、沖縄の既存の基地内へのヘリパッド建設と部隊の本土などへの移設分散という話だった。それがどのような力学によるものか、瞬く間に長大な滑走路という話に拡大し、それをどこに持って行くかで橋本首相は悩んだ末に、海上浮体構造物という案に乗ったりした。

従来の日本政府の「沖縄政策」が潜在的に行き詰まりつつあったわけだが、それが普天間移設という非常に個別具体的な問題によって、一挙に全面化してしまった。

鳩山発言「最低でも県外」の衝撃度

遠藤 大きな問題にしてしまったのは、民主党政権の鳩山由紀夫首相だと思っている。それまでは、沖縄内部に、基地移設も期限をつけるなどいろいろな留保をした上ではあるが、最終的には受け入れようという勢力があったが、鳩山発言が触媒になって、もう県外でやっていけると本土だって言っているじゃないか、それならそうしてもらうべきだということになった。

宮城 今の話だと、鳩山首相については否定的な評価か。

遠藤 ポジティブ、ネガティブという言い方で評価するのはなかなか難しいが、鳩山首相の「最低でも県外」という発言が、沖縄の中にあったいろいろ異なる方向性を、1つの方向に束ねる役割を果たしたのだと思う。

私自身は、海兵隊の普天間基地は返還されるべきで、しかも県内移設なしでやっていく方法を模索したほうがいいと思っている。それは、既に述べたように、この点で沖縄の人たちの声が1つになっており、それに揺らぎがなさそうだと考えるからだが、そうした揺らぎのない声は、意図的だったかどうかは別にして、鳩山首相の発言を触媒として成立したと思う。

宮城 沖縄からすると、鳩山発言に対し、本土がこぞって「うちも嫌だ」「うちも嫌だ」「なぜ沖縄じゃ駄目なんだ」と思っていることが明らかになってしまったという、もう1つの意味がある。

遠藤 確かに、本土ではだんまりを決め込んで、結局、移設先はどこにも見つからなかった。それで、本土と沖縄の対立がはっきりしてしまったというか、差別の仕組みが見えるようになってしまったということか?

宮城 差別と言うかどうかは別として、「今まで沖縄にあって慣れているのだし、これまで同様、沖縄で引き受けてくれればいいじゃないか」という本音のところが可視化されてしまったというのはある。

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