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人工知能を語る前に知っておくべき『デジタル技術革命』の本質

▪デジタル技術革命の本質

前回のエントリーでは、昨今の人工知能のブーム(バブル?)に関して、真贋と時期の見極めが重要であることについて思うところを述べたが、これについて、もう少し付け加えておきたいことがある。

人工知能の理解の仕方はそれでいいのか? - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る

前回も述べたように、人工知能に対する大きな勘違いの一つに、既存の組織やビジネスモデルをそのままにして、そこに人工知能を棒つなぎすれば、まるで魔法がかかったようにすごいことが起こる、というような安易な認識があって、残念ながらこの程度の認識の人がすごく多い。だが、人工知能が機能するためには、そのためのお膳立てが必要だ。そもそも情報がデジタル化されて利用できるようになっていなければ、その第一歩を踏み出すことさえできない。もちろん、ただデジタル化され、蓄積されただけではだめで、それをどう利用するかグランドデザインを持つことが肝心であり、その上で最新のデジタル技術やデジタル技術が可能にした成果物の特性を最大限生かすべく組織もビジネスモデルも変えていく必要がある。

自社ではインターネット等のICT技術関連に大規模な投資をして、SNSやクラウドサーバーの利用も他社に先駆けて取り組んできたと胸をはっておきながら、しばらくすると、SNSなど会社に何の利益ももたらさず、クラウド分析など役に立たず、所詮はまだ話題先行だ、などと宣う企業も少なくない。というより、そういう企業が実はマジョリティというのが現実なのかもしれない。となると、人工知能のことがわかっていないという以上に、今足下で起きている『デジタル技術革命』の本質がまだあまり理解されていないということになるのだろう。

ただ、思えばそれも無理はない。鳴り物入りで話題になったICT関連技術も、先ず大抵は話題先行で、市場ニーズはまだそれほど盛り上がっておらず、しばらくすると幻滅のうちに話題にもされなくなり、場合によっては再び復活することもあるが、そのまま鳴かず飛ばずになってしまう技術も少なくないからだ。米国の民間調査会社であるガートナー社の『ハイプ・サイクル』*1など、技術と市場の受容について、一種の法則があることを図示していると言える。だが、そんな個別の技術の盛衰の背後に今、大きな胎動があることを見過ごしてはいけない

・『大停滞』を吹き飛ばす『飛躍型企業』のビジネスモデル

経済学者のタイラー・コーエンは、著書『大停滞』*2で、米国は1970年以降技術革新の大幅な鈍化に直面していて、その理由として技術革新の停滞があると述べる。すでに技術は飽和していて、容易に収穫できる果実は食べ尽くされてしまったのだという。これは米国だけの現象ではなく、先進国全般にあてはまり、20世紀の高度成長の背景となっていた技術革新にはもはや期待できないと論じる。しかも、直近の20年の技術革新の象徴であるインターネットについても、それを活用したサービスの多くは無料をベースにしていて、GDPへの貢献度は低く、検索エンジンやEコマースなどの成功したビジネスモデルも、雇用を生み出す力は小さいとして退けている。

日本の経済学者の水野和夫氏などもっと徹底していて、単なる長期停滞ではなく、資本主義自体の終焉の始まりであると主張する。昨今の世界経済を見ても、ギリシア危機が象徴するEC崩壊の危機、原油下落に伴う資源国経済の停滞、世界経済の牽引役が期待された中国のバブルの破裂、米国等の先進国の雇用の停滞(まさにICT技術の進展による雇用減も見られる)等、世界不況、悪くすると、世界恐慌さえやって来かねないという不安に包まれている。

だが、2015年の半ばを過ぎた現在の技術革新の最新の状況を正味に評価すれば、そのような停滞論を吹き飛ばすような胎動が明らかに起きている。この胎動を象徴する企業としての先頭ランナーは、前回の記事でも例としてあげた『飛躍型企業』(少人数で短期間に指数関数的な急成長を実現し、その企業が現れた市場における旧来の企業はいかに優良企業/大企業であっても、あっというまに駆逐されたり、苦境に追いやられてしまう。著書『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法 ビジネスを指数関数的に急成長させる』*3をご参照)と呼ばれる、ウーバー、テスラモーターズ、エアビーアンドビー等が該当する。ただ、これらの企業は、先行する『飛躍型企業』であるGoogleやFacebookのように『雇用をあまり産まない』企業に連なる事例であることは確かで、タイラー・コーエンを初めとする『大停滞』派にはあまり説得材料にならないかもしれない。しかしながら、この先行企業の『競争行動』は今後世界全体に波及することが確実であり、それが行き渡った市場では、連鎖的な技術革新が多発することが予想される。

・飛躍型企業の特徴

『飛躍型企業』の特徴につき、特に以下の4点に注目しておく必要がある。

・アナログからデジタルに完全移行していて『ムーアの法則』に代表される指数関数的な技術進化の恩恵を享受できること。

・SNS、オープンソース、クラウドファンディング等、外部経済の爆発的な動員力や他者のアイデア等の恩恵を最大限享受できるビジネスモデルを設計していること。

・多種多様なモジュール(装置/機械/システムを構成する、機能的にまとまった部分。ソフトウエア、ハードウエアを問わない)やサービスを組み合わせることにより『組み合わせ型イノベーション』*4*5((no title))を追求していること。

・全ての工程で大量のデータを収集/蓄積するようビジネスモデルを設計してデータ分析による価値を最大限引き出すことを志向していること。

そして、このような企業は、生起しつつある、人工知能のような『飛躍型技術』(飛躍型企業の急進を後押しするデジタル技術群)の恩恵を最大限享受できることになる。特に全行程で大量のデータが収集できるビジネスモデルは、人工知能の機械学習による効果を極大化できることを意味する。しかも、『飛躍型技術』には人工知能だけではなく、画像認識、ソーシャルテクノロジー、画像加工/編集、機械学習、データマイニング、3Dプリンター、AR等、まさにこれから急成長が期待できる様々な技術が数多くあり(『ムーアの法則』を享受する技術群でもある)、これらの技術を組み合わせることでさらなる『組み合わせ型イノベーション』を実現する可能性も広がる

このような『飛躍型企業』がそれぞれの市場に現れると、あっという間に旧来の企業を駆逐することになるから、今後の企業の競争は、いかにこの発展型企業として生き残るかが鍵となるのは確実だ。そういう意味で、狭義のICT業界の枠を越えて、全産業に普及する競争モデルになるはずだ。

しかも、既存のICT 技術発展の恩恵はすでに世界中に及んでいて(今後さらに及ぶことが期待できて)、優秀なアイデアを発案できる人材は発展途上国を巻き込んで世界規模で急増しており、インターネットによって繋がっている。上記のような競争モデルは、このような優良な外部のアイデアが増えれば増えるほど盤石になる。そして、さらなる『組み合わせ型イノベーション』の出現が促進されることになる。

これは、前著『機械との競争』*6で世界的に話題になったMITのコンビ(エリック・ブリニュルフソン、アンドリュー・マカフィー)の新著『;ザ・セカンド・マシン・エイジ 』*7で扱われるストーリーとほぼ重なるが、語り口こそ違えど、同種の未来を想起する人は急増している。本書が定義するファースト・マシン・エイジの主役は産業革命を起こした蒸気機関だが、遠からず臨界点を迎えて爆発し、産業革命クラス(おそらくそれ以上)のインパクトを及ぼすと考えられるデジタル技術革命を総称して、『セカンド』の名を冠している。興味深いことに、『大停滞』の著者であるタイラー・コーエン自身、新著『大格差』*8では、人工知能をはじめとする技術進化が、自身が主張してきた、停滞を打ち破る可能性があることに言及している。

・深い理解に基づく智慧が不可欠

ただ留意しておくべきは、人工知能等の技術が既存の雇用を大規模に代替していくことについては、誰も異論がない点だ。労働者一人あたりの生産性は爆発的に増大することは確実であり、世界全体の富を増大させることもまた確実だが、労働者一人一人に恩恵が及ぶかどうかは別の問題だ。今のままでは社会が壊れてしまう恐れも多分にある。そうなると、消費は停滞し、供給はあっても需要がなければGDPは拡大せず、世界経済(特に先進国経済)が停滞する恐れもある。いずれにしても、旧来の枠組みでは対処できない事態になることは間違いない。

企業経営者としても、企業に雇用されるビジネスマンとしても、政治家も、官僚も、それぞれの立場で考えるべきことは多い。人工知能等の技術を忌避して、背を向けている場合ではない。技術の恩恵は最大限生かしていくこと、自分が生き残っていくこと、社会を安定させること等、すでに起きている現実を深く理解し、備えておくことは誰にとっても重要な課題となる。どんな立場の誰にとっても、聞きかじった中途半端な知識ではなく、深い理解に基づく智慧が不可欠になることを肝に銘じておく必要がある


*1ハイプ・サイクル - Wikipedia

*2
リンク先を見る 大停滞
  • 作者: タイラー・コーエン,若田部昌澄,池村千秋
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2011/09/22
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*3
リンク先を見る シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法 ビジネスを指数関数的に急成長させる *4成功に欠かせない技術的アイデアとは?組み合わせ型イノベーションの時代

*5成功に欠かせない技術的アイデアとは?組み合わせ型イノベーションの時代

*6
リンク先を見る 機械との競争
  • 作者: エリック・ブリニョルフソン,アンドリュー・マカフィー,村井章子
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2013/02/07
  • メディア: 単行本
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*7
リンク先を見る ザ・セカンド・マシン・エイジ
  • 作者: エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson),アンドリュー・マカフィー(Andrew McAfee),村井章子
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2015/07/29
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*8
リンク先を見る 大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

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