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日本とアメリカの教科書では、太平洋戦争をどう教えているか?【2】

東洋哲学研究所研究員 大島京子=解説 田端広英=構成 遠藤素子=撮影(教科書)

戦後70年目の夏を迎え、太平洋戦争についての関心が例年以上に高まっている。かつての交戦国・日本とアメリカでは「あの戦争」をどのように語り継いでいるのか? 両国の高校歴史教科書を手がかりに検証してみたい。

※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/16088)

比較2:日系人強制収容

アメリカ人から良識と正義感を奪った。真珠湾攻撃後の「ヒステリー」

……第2次世界大戦は、多くのエスニック集団のアメリカ社会への同化を加速させた。……痛ましい例外が、太平洋岸に集住していた約11万人の日系アメリカ人の苦難だった。その約2/3はアメリカ生まれの米国市民であったにもかかわらず、日本の侵攻があった場合に工作員として働く可能性を恐れるワシントンの最高司令部は、力尽くで彼らを強制収容所に駆り集めた。……この厳しい予防措置は不要であり不公平でもあった。しかし、西海岸における反日偏見の長い歴史に裏打ちされた真珠湾攻撃後のヒステリーの波は、多くのアメリカ人から一時的に良識と正義感を奪った。

抑留キャンプはこれらの家を追われたアメリカ人から尊厳と基本的人権を奪い、抑留者はまた数百万ドルの財産と得るべき利益を失った。戦時中の最高裁は1944年の「コレマツ対米国裁判」で日本人の強制退去の合憲性を支持した。しかし、40年以上後の1988年、アメリカ政府は公式にその政策について謝罪し、収容所の生存者に2万ドルの賠償金の支払いを認めた。(『アメリカン・ページェント』)

●日本の教科書では?

……アメリカの世論は「リメンバー=パールハーバー」(真珠湾を忘れるな)との標語のもとに一致し、日本に対する激しい敵愾心に火がついた形となった。カリフォルニア州をはじめ、西海岸諸州に住む12万313人の日系アメリカ人が各地の強制収容所に収容されたが、ドイツ系、イタリア系のアメリカ人に対しては、こうした措置はとられなかった。アメリカ政府は、1988年になって、収容者に対する謝罪と補償をおこなった。(『詳説日本史』)

どこが違う? なぜ違う?
「1988年にアメリカ政府が公式に謝罪して以降、戦時下の人権抑圧の問題として、日系人部隊の献身とあわせて、ほとんどの教科書で掲載するようになっています。日本の教科書でも脚注で触れていますが、日本史の観点からはあくまで外国の出来事。自由と民主主義の国を任ずるアメリカにとって、日系人強制収容は国内史の汚点として意識されています」(大島氏)

比較3:原爆投下・終戦

原子爆弾のきのこ雲のなかで歴史上最も悲惨な戦争は終わった

1945年7月、……(ポツダム)会議の出席者たちは、日本に対して「降伏か、さもなくば破滅か」という、断固とした最後通告を出すべく話し合った。……アメリカは途方もない奥の手を持っていた。……1945年7月16日、ニューメキシコ州アラモゴード近くの砂漠で、専門家たちは最初の恐るべき原子装置を爆発させた。日本はまだ降伏を拒否しており、……1945年8月6日、アメリカの爆撃機は、日本の都市・広島に原子爆弾を投下した。目のくらむような死の閃光のなか、煙突状の雲が現れ、約18万の人びとが死亡、負傷し、行方不明となった。……原爆による破壊に直面しているにもかかわらず、狂信的に抵抗する日本人はまだ降伏しなかった。8月9日、アメリカは長崎に第2の原子爆弾を投下した。この爆弾は、8万人もの人が亡くなるか、行方不明になるという酷い犠牲をもたらした。

日本は、もはやこれ以上、もちこたえることはできなかった。8月10日、日本政府は講和を求めた。その条件は、眼鏡をかけた神の子ヒロヒトが、名だけの天皇として世襲皇位にとどまることが認められるというものだった。8月14日、連合国は「無条件降伏」の方針だったにもかかわらず、この条件を受け入れた。日本は、面子は失ったものの、地位の高い支配者と自分たちの国土を残すことはできた。1945年9月2日、劇的な力によって戦争は正式に終結した。……原子爆弾のきのこ雲のなかで、歴史上最も悲惨な戦争は終わり、同時にアメリカ国民は、異常な興奮のなか、ビクトリー・ジャパン・デーを祝った。(『アメリカン・ページェント』)

●日本の教科書では?

……ポツダム宣言に対して、「黙殺する」と評した日本政府の対応を拒絶と理解したアメリカは、人類史上はじめて製造した2発の原子爆弾を8月6日広島に、8月9日長崎に投下した。……陸軍はなおも本土決戦を主張したが、昭和天皇のいわゆる「聖断」によりポツダム宣言受諾が決定され、……8月15日正午、天皇のラジオ放送で戦争終結が全国民に発表された。9月2日、東京湾内のアメリカ戦艦ミズーリ号上で日本政府および軍代表が降伏文書に署名して、4年にわたった太平洋戦争は終了した。(『詳説日本史』)

どこが違う? なぜ違う?
「ほとんどの教科書でマンハッタン計画(原爆開発計画)の詳細が書かれています。犠牲者数が不正確で少なめに記載される傾向がありますが、投下直後の広島・長崎の状況も書かれています。1977年の被爆問題国際シンポジウムで確定され、その後国連等で採用している1945年までの推定死没者数は、広島で約14万人、長崎で約7万人(ともに誤差約1万人)です」(大島氏)

原爆投下は「正義」か?
それとも「人種差別」?「ホロコースト」?

画像を見る
アメリカの教科書は原爆投下について大きくページを割いている。写真の『アメリカン・オデッセイ』では本文のほかに「Case Study」として4頁をあてて、原爆投下の背景や賛否両論の意見を紹介し、生徒に考えるきっかけを与えている。

アメリカはかつて戦争で核兵器を使った唯一の国であり、原爆が有色人種の人びとに落とされたという事実に人種差別の要素が見いだせると主張する批評家もいる。……一部の研究者は、広島と長崎における核のホロコーストは第2次世界大戦の最後の一撃ではなく、冷戦の最初の一撃だったと言及し……日本は1945年の夏にはすでに敗退の色濃く条件付きの降伏を準備しようとしていたが、トルーマン大統領は、これを無視して、彼の新しい残酷な兵器への使用をついに決断したと述べ、それは日本を降伏させるだけでなく、ソ連を脅すためでもあったと述べている。

「原子爆弾の使用は避けられなかったのか?」。……アメリカの指導者はできる限り早く戦争を終わらせたかった。ソ連を威圧することは、日本に対する原爆投下の「ボーナス」であったかもしれないが、ソ連の行動に影響を与えることは決して破滅的な意思決定の主たる理由ではなかった。アメリカの軍事戦略家は、常に原爆が使用可能になったらすぐに投下することを想定していた。その瞬間は、1945年8月6日にやってきた。第2次世界大戦の原爆投下の決定についての疑念と自責の念は、アメリカ人の良心を悩ませ続けている。(『アメリカン・ページェント』本文枠外コラム)

どこが違う? なぜ違う?
「本文以外の枠で、『戦争を終わらせるために、原爆投下は必要だったかどうか考えなさい?』『日本に原爆を使用すべきだったか、否か?』など、ほとんどの教科書で、生徒に考えさせるための問題提起や討論のための素材を掲載しています。『人種差別』『核のホロコースト』など教科書に載せられた政府見解とは異なる多様な見解からは、決してアメリカ人のすべてが原爆投下を肯定しているわけではないことが伝わってきます」(大島氏)

出典:『詳説日本史』山川出版社.David M. Kennedy, Lizabeth Cohen, Thomas A. Bailey.The American Pageant. Houghton Miffl in Company. Gary B. Nash. American Odyssey.Glencoe Division of Macmillan/McGraw-Hill Publishing Company.

東洋哲学研究所研究員 大島京子
青山学院高等部、東洋英和女学院中高部、創価大学の非常勤講師等を経て現職。論文・著書に「日米比較──歴史教科書の中の原爆投下」(『平和研究』)、『世界の歴史教科書──11カ国の比較研究』(明石書店)

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