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機能させないための「軽減税率」か

 政府・与党が検討している消費増税の負担軽減策が具体化してきた。一部品目の税率を低く抑える「軽減税率」は断念。飲食料品の2%分の税額を、後から消費者に還付するという。こんな複雑な制度が機能するのか、それとも機能させないのが狙いなのか。

 財務省が与党に示した「日本型軽減税率制度」は、消費者が飲食料品を購入する際にいったん10%分の消費税を支払わせ、後で申請に基づいて2%分を還付する仕組み。購入時に消費者は店頭の端末にマイナンバー制度の個人番号カードをかざし、政府のサーバーに還付する税額を蓄積していくという。

 還付の上限は一人当たり年間4000円。低所得者の年間の食費に相当する20万円の購入分まで払い戻す計算だ。世帯内で合算できる仕組みも設けるという。消費者がパソコンや携帯電話などから申請すれば、本人名義の銀行口座に振り込まれる。

 与党内で軽減税率の構想が持ち上がったのは、消費税率の引き上げへの反発を和らげるため。生活必需品である食料品だけ税率を低く抑えれば、低所得者への負担を緩和できるというわけだ。こうした軽減税率は消費税率の高い欧米諸国ですでに採用されている。

 だが、欧米型の軽減税率の最大の問題は、所得に関係なく納税負担が軽減されるという点。財政難を解消するために税率を引き上げるというのに、富裕層の税額まで軽減する必要はない。かといって店頭で所得に応じて税率を変えるわけにもいかない。

 もう一つは税率を軽くする品目をどう選ぶかという問題だ。酒や菓子、高級食材は生活必需品なのか、ぜいたく品なのか、その線引きは難しい。税率が細かく決められれば小売店への負担が大きくなるし、政治力の大きい業界ばかりが優遇される可能性もある。

 こうした課題を解決するため、財務省が考え出したというのが今回の案。低所得者の負担は押さえつつ、還付額に上限を設けることで実質的に所得制限を設定する。上限を設ければ財務省の懸念する税収の減少も抑えられ、対象品目を最も広く設定できる。

 マイナンバーカードの普及も狙いの一つだろう。政府は今年10月から国民一人一人に12ケタのマイナンバーを通知し、来年1月から運用を始める。個人番号カードの取得は任意としているが、今回の軽減税率はカードの使用が前提。「税金の還付」というアメを使い、マイナンバーカードを一気に普及させようという狙いがちらつく。

 だが、あまりにも制度が複雑だ。税金の還付にはインターネットを使って申請する必要があるが、本当に生活に困っている低所得者や高齢者にそんなことが可能なのだろうか。結局は自治体窓口で申請を受けることとなり、事務負担ばかりが膨らみやしないだろうか。

 今でもサラリーマンの特定支出控除など様々な節税策が設けられているが、手続きが面倒なため、ほとんど使われていない。「4000円くらいだったらいいか」という消費者が増え、税金の還付額が減るというのが財務省の本当の狙いなのではないか。

 こんな制度を設けるなら、いっそのこと全国民に毎年4000円ずつ配った方がよっぽど楽なのではないか。与党の主張する「軽減税率」という名にこだわるあまり、低所得者対策という本質からあまりにも遠ざかりすぎている。

 現在はまだ政府の原案の段階であり、これから与党との本格的な協議が始まる。財政再建と低所得者への配慮。この2つの目的が達成される、現実的な制度となるよう期待したい。

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