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役者さんが"役になりきれる"舞台を目指して〜映画美術・相馬直樹さんに聞く

映画『天空の蜂』(監督:堤幸彦、主演:江口洋介・本木雅弘)が9月12日から公開される。本作は東野圭吾氏が95年に発表した同名原作の実写化。自衛隊が開発中の巨大新型ヘリがテロリストに乗っ取られ、高速増殖炉上空でホバリング、政府に全国の原発の稼働停止を求めるという状況下で、事件の解決に挑む男たちの物語だ。

本作においてカギとなる巨大新型ヘリのデザインを担当したのが美術担当の相馬直樹氏。これまでも堤監督とのタッグで、いくつものヒット作を世に送り出してきた。相馬氏に、映画美術という仕事について話を聞いた。

ーひとつのシーンの中には、カメラのアングル、衣装、照明、役者さんの表情など、様々な要素が含まれていると思います。その中で「美術」担当とはどのような部分を受け持っているのでしょうか。

脚本の世界観を再現し、役者さんが演技をするための背景、舞台を作るということです。

もちろん観客に対し役者さんが"そこにいる"という臨場感を演出できていることが大事なのですが、僕の場合、役者さんが"撮影時に役になりきれる"舞台を作ることも目標にしています。最近ではCGと合成するため、ブルーバックの前で演技をするケースも多く、役者さんが演技をしづらいこともあると思うんです。ですから、小道具なども含め、できる限り"そこにいる"という感覚にさせてあげたいと思っています。

クランクイン前、美術担当は撮影スタッフよりも早くから準備を始めます。具体的には、まず台本を読んで、監督と何度も打ち合わせをします。予算も踏まえ、このシーンはロケにして、こっちのシーンはセットで行きたいねなど、方向性を決めて行きます。

例えば、今回ご一緒した堤監督とは『20世紀少年』や『くちづけ』でもお仕事をさせていただきましたが、『20世紀少年』では漫画の世界を再現したいというお話でしたし、『くちづけ』の場合は、もともとが演劇作品なので、その世界観も反映させたいということだったり。

もちろん、監督にも色々なタイプの方がいらっしゃいますから、かなり具体的なイメージを持って指示をされる方もいれば、スタッフ全体が向くべき方向性を指示する以外は"ほとんどお任せ"という方もいらっしゃいます。

ー現場で「あの木が邪魔だ!」みたいな事をおっしゃる方も居そうですが(笑)

黒澤明監督のように、家をどけたと、言うより建て直したと聞いた事あります。僕もそれに近い経験はありますよ(笑)

ー絵や図面を描くとなりますと、美術や建築を学んでいた方が多いのでしょうか。

多いことは間違いないと思います。ですが、必ずしも美大を出ている人ばかりというわけではありません。僕自身は、できれば絵画の道に進みたいとは思っていましたが、専門的に学んでいたわけでもなく、たまたま東宝の特撮部門でアルバイトをするうちに、助手になって…という経緯です(笑)。

ーやはり先輩の技を見よう見まねで覚えていく、というような世界ですか?

そうですね。僕の場合は師匠が手書きの人だったので自然にそうなっていきましが、パソコン上で絵を描く人もいれば、そもそもほとんど描かない人もいます。

師匠もいちいち教えてはくれないので、こっそり見ては盗んで、そして何度も失敗して(笑)。駆け出しの頃、江戸時代の建物を作るために、頑張って図面を何百枚も描いたんですけど、建ててみたら、どうも地面から軒下までの高さが"あれ、尺が違うぞ"って(笑)。

ー時代劇からSFまで、様々なシチュエーションに対応するには、絵がかけます、図面が引けますということだけではなく、教養と言いますか、引き出しの多さが強みになるようにも思います。

それが一番大事ですね。撮影、照明の方々にも「こういうことをしたい」と提案し、アシスタントと分担しながらセットや建物に関しては絵と図面を書いて、造形物に関してはデザインをしていきますが、その過程では、頭の中にどれだけ引き出しがあるかが重要になってくると思います。

ーこのお仕事ならではのご苦労はどのようなところでしょうか。

本音を言えば、やっぱり予算ですかね(笑)。

セットの中で役者さんどう動くのか、自分なりに想像を膨らませながら、監督や他のスタッフに提案するのも楽しいんですよね。"役者さんがこう動くときに、ここに机があると、どうかな"とか。

一方で、不自然さがあってもいけないと思います。例えば、室内で二人が向き合って会話するシーンで、壁よりもこっちにカメラがある、つまり観客の視点が壁よりも後ろになるとおかしい、とか。そういうことも考えますからね。

美術担当は、そういう画面では分かりにくい部分も担当しますから、こう見せたい、ここまで作りたいのに…という思いは常にあります。もちろん、制約があるからこそ、思い切ったアイデアが出てくることもあるのですが。ですから、予算よりももっと辛いのは、そういうアイデアが出てこないときです(笑)。

ー『天空の蜂』でもそうですが、民家の居間、オフィスの給湯室など、「こういう小物って置いてある!」というリアリティがありますね。

僕が作ったデザインプランに対して、装飾担当の方々がありとあらゆる手を使って集めて来るんです。

これも堤監督とご一緒した作品『イニシエーション・ラブ』は、80年代が舞台です。例えば当時のパソコンでも、起動するものでないと駄目なので、マニアの方に借りに行きました。当時は新品なわけですから、さらにそれを一生懸命磨いて綺麗にしたり。

反対に『UDON』という作品では、「エイジング」といって、大工さんに建てもらった新築の家を築100年位の風合いが出るように、外壁や室内を汚していく作業を行いました。

ー時代考証も入ってくる時代劇の場合、特有の難しさもあるのでしょうか。

今はネットがありますけれど、昔は図書館に通ったり、古い建物の取材を重ねたり。そのうちに詳しくなってくるので、だんだん楽しくなってきますよ。

時代劇は制作される本数が多いですから、意外と小道具なども残っていたりするんですよね。逆に、『イニシエーション・ラブ』のような80年代や70年代の方が難しいんです。

ーCGの技術も進歩していると思います。棲み分けはどうなっているのでしょうか。

今回の『天空の蜂』でも、やはり役者さんが触ったりするものは、僕達で作って、加工して。物語の鍵になる超大型ヘリは、全長35メートルですから、物理的に美術だけでは無理ですが、内装や一部分は作り込んで、CG・VFXと何度も話し合いなががら全体を作り上げて行きました。そのために何度も実物のヘリの取材に行きましたが、"1995年時点の最先端"という設定が実は難しいんです。2015年ではなく、"1995年当時の最先端"かつ"架空のもの"ですからね。

様々な制約の中で、CGとVFXと美術、トータルで背景を作るという意識です。この風景にもうひとつビルがほしいなと思った時、逆に、このビルは要らないなとなったとき、美術じゃできませんからね。「ここまでは美術で作るから、ここから先はこの質感を使ってCGで増やしてくれ」とか。逆に、CG・VFXのチームから、「この質感はCGでは再現できないから作ってくれ」と言われることもあります。

ですから、デザインも大事だけれど、チームプレイですから、やはり現場ではコミュニケーションが大事です。

ー表現することとチームプレイは、ともするとぶつかってしまうようにも思います。

映画美術に関しては、自分一人の力ではできません。制作の現場には得意なことも違う、性格も違う、色々な人間が居るんですよね。家のセットの中のキッチン一つにしたって、職人さんが作ることで、自分が思い描いていたものよりもすごいものができ上がってくるんです。映画の世界に入った当初、そこに魅力を感じたことが原点でもあります。

ー『天空の蜂』でのこだわりのポイントはどんなところでしょうか。

爆破シーンを見ていただきたいですね。実際のアパートを借りて、本当に爆破させました。撮影が終わったら、現状回復して大家さんにお返ししましたが(笑)。他にも、絵が生きるも死ぬもライティング次第ですから、主人公たちが意見を戦わせる対策本部室のセットでは、机の上に一個一個ライトを置いて、リアリティを追求しました。ほかにも観ていただきたいポイントはありますが、とにかく担当として、1995年当時に無かったものは使わない、という方針で作りこみました。

僕ももう50歳を超えていますけれど、まだまだわからないことがたくさんあります。撮影機材も日々進化しているので、常に可能性が広がっていっていますからね。職業柄、背景が気になると同じ映画を2回見に行っちゃいます。日々工夫と勉強です。

(そうま なおき)1964年生まれ。東宝特撮美術後、池谷仙克氏に師事。CM、映画、舞台のキャリアを積む。主な担当作品は、『海猿 ウミザル』(04)、『ジャッジ』(14)など。『まぼろしの邪馬台国』(08)、『20世紀少年』シリーズ(08〜09)、『BECK』(10)、『はやぶさ/HAYABUSA』(11)、『エイトレンジャー』(12)、『くちづけ』(13)などの堤幸彦作品も担当している。

[ PR企画 / 松竹株式会社 ]

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