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韓国におけるMERS流行の総括 - 外岡立人

韓国のMERSは事実上流行が終息している。間もなく流行終息宣言が公的にWHOの了解のもとに発表されるのを待つだけとなっている。

韓国のMERSが終息を迎えることは大変喜ばしい事なのであるが、問題が全て解明されたとは言いがたい。  

・なぜ韓国でこれだけの大流行が起きたのか?
・この大流行はどのように対処することで終息に向かうことが出来たのか?

上記2点が総括されなければ、韓国のMERS大流行は日本はもとより世界にとって何の教訓を残さなかったことになる。

以下私見をまとめた。
参考になれば幸いである。

大流行が起きた理由として、韓国政府による情報の遅れと、そのための各病院、特にサムスン病院の感染予防対策の不手際が上げられている。

確かに韓国保健省の各病院へのMERS情報の伝達は不十分で、病院当局もMERSという感染症を十分把握していなかった。

しかしMERSコロナウイルスは容易に人には感染しないとされてきた。それは流行の発生地であるサウジアラビアの事例で確認されている。

2012年以来1000例を越える感染者が出ているサウジアラビアでも、市中での人から人への感染は非常に少ない。

しかし狭い、閉鎖的空間にウイルスを飛沫する感染者がいると、空間内のウイルス粒子濃度が高まり、周辺の人々に感染する可能性はある。

ウイルスは人に感染しにくいといっても、吸い込まれるウイルス粒子の数が多いと感染率は高まるのである。

全ての感染者が大量にウイルスを排出するわけではなく、スーパースプレッダーといわれるウイルスを大量に飛沫する感染者がいると、医療機関内での集団感染が起きるようである。サウジアラビアでもこれまで数件の大きな院内集団感染が報告されていた。  

狭い、閉鎖的空間は医療機関内では外来や急患室が相当する。

サムスン病院では空調が十分完備されてなく、室内の換気状態が悪かったようだ。空気が淀む閉鎖的室内にウイルスを排出する感染者が長時間いると、室内の空気中に存在するウイルス濃度が上がる。

サムスン病院等多数の感染者がでた韓国の病院では、スーパースプレッダーが長時間、室内の換気が不十分で、多くの人々が待機する急患室に存在していたようだ。 問題は、こうした状況は日本の一般病院でも同じように起こりえるということである。

すなわちスーパースプレッダーが、何の予備知識も得ていない病院に現れ、そのまま診断されることなく多数の病院を回ったことが、韓国MERS大流行の原因とされているが、それは日本でも起きうることとして認識する必要がある。

一方、なぜサムスン病院での集団発生は6月中旬をピークに終息へ向かって行ったのか?  

多分答えは、感染疑い者の徹底的隔離と、急患室と病室の換気を改善したことだと考えられる。すなわち病室の換気を改善し、室内の空気が院内に回る状態を回避し、フィルターを使用して外気と入れ替えを行ったと考えられる。

重要なのは換気である。

MERSウイルスは現時点では市中感染を起こさない程度の感染力しかない。感染者が室内にいても十分な換気を行えば、周辺に存在するウイルス量は減少し、周辺の人々が吸い込むウイルス量は非常に少なく、発症させるだけのウイルス量にならない。

韓国のMERS流行から我が国が学ぶべき事は、感染症が疑われる患者、特に呼吸器感染症を外来で診察する場合、十分換気されている室内(個室)で行い、大勢の患者がいて室内の換気がなされていない場所にそうした患者を待機させてはならないということである。

インフルエンザをはじめとして、咳、くしゃみなどの呼吸器感染症の症状をもつ風邪などの患者に対しても、そのような配慮が必要とされる。

韓国のMERSの終焉で何を我々は学んだのか、何が我々に未だ不明となっているのか。そうした総括を行い、今後我が国にも到来する可能性の高いMERSに備える必要がある。

  【参考】
・「韓国はMERS流行から何を学んだか」 Xinhua(中国、新華社)

・「サウジアラビアで新たなMERS流行」 New York Times(米国)

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外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

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