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大津いじめ事件・女性市長の改革 / 『教室のいじめとたたかう』著者、越直美氏インタビュー - 島田昌樹

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大津いじめ事件後の大津市行政の動き

荻上 大津市はじめ、国や他の自治体のその後の動きはどうですか。

越 大津市のことをお話すると、大津市ではいじめ防止対策推進法ができる前に、第三者委員会の報告書が出て再発防止策の提言がありました。これと、大津市議会で策定したいじめ防止条例の2つに基づいて、平成25年4月から大津市では新しいいじめ対策に取り組んでいます。

これまで、いじめ防止策は教育委員会や学校だけがやってきましたが、市長部局でも「いじめ対策推進室」を設けました。4~5人の市の職員以外に、常勤の相談調査専門員として臨床心理士や弁護士を4人ほど雇用しました。それと、「大津の子どもをいじめから守る委員会」という常設の第三者委員会を設けました。これにも、外部の弁護士、臨床心理士が入っています。

これにより、今まで行き場のなかった子どもの声を聴く窓口ができ、子どもを中心とした解決方法を提供できるようになりました。例えば、加害者の謝罪だけで片付けられてしまった事案についての相談が来たりしています。

子どもが相談する相手は小学生なら親、中学生なら友達が多くて、先生は一番じゃないんですよね。なぜ先生に言いにくいのか、子どもたちに聞くと、「帰りの会などで勝手に言ってしまうから」と話していました。そういうことをすると信頼関係は築けません。

「いじめ対策推進室」と「大津の子どもをいじめから守る委員会」では、子どもの秘密を守るようにして、まず子どもの声を聴くようにしています。

学校への働きかけが必要な場合は子どもの了解をとったうえで、「いじめ対策推進室」の専門相談員や「大津の子どもをいじめから守る委員会」の委員が学校に行き連携を取るようにしています。今までの学校とは違ったアプローチや解決ができている点で意義があると思います。

荻上 学校側の論理だけで動くと、やはり限界があります。今、注目されているのは、学校と行政との橋渡しになる「スクールソーシャルワーカー」ですね。学校のことを外部に伝えたり、当事者に対して学校の外側でやれることについて情報相談するはたらきが期待されています。

それから、経済的にハンデがある子ども、障害のある子ども、セクシャルマイノリティの子ども、外国出身の子どもなど、いじめの対象になりやすい児童は多い。いじめを単独の問題としてとらえるのではなく、差別や貧困、人権の問題と連携しながら、他のNPOや行政などと協力することも期待されています。このような動きは学校だけでは難しいですから。学外との取り組みはどうですか?

越 学校の外に機関があることには、意味があると思っています。「いじめ対策推進室」のような活動を広めると、学校とは別の価値観で子どもにアプローチできるかと思います。

大津いじめ事件後の学校、教育委員会の変化

越 教育委員会と学校も変わらなければいけません。大津市では、事件の後、教育委員会の委員を大きく入れ替えました。先ほどもお話しましたが、今の制度上、市長は教育に直接関与できません。市長のできることは、教育委員を交替することなんです。

教育の素人が教員委員になるという考えもありますが、いじめ事件のときの大津市の教育委員は、教育委員会事務局の言いなりになり、形骸化していました。そこで、第三者委員会の委員をした人、専門の大学教授を新しく委員に選任しました。そのことで、意思決定できる組織になりました。

また、以前の活動回数は他の教育委員会同様、月1~2回でしたが、今は、教育委員が月7、8回活動しています。教育委員会の会議以外に、月に2回は市長と教育委員会の協議会を行っています。教育委員が学校現場に行く「スクールミーティング」も行うようになり、校長やいじめ対策をしている教員に直接話を聞くようになりました。

また、教育委員会の事務局に、「学校安全推進室」ができました。「学校安全推進室」には指導主事だけでなく室長や行政職が入っていて、いじめ、事故などを扱っています。加えて、重大な事案については、弁護士、臨床心理士、大学教員で構成された緊急サポートチームも対応します。

学校では、全ての学校に「いじめ対策担当教員」を配置し、また、「いじめ対策委員会」を設けました。第三者委員会の報告書では、学校側の反省点として、教員がいじめについての情報を一元化できていなかったことが挙げられていました。複数の教員が暴力を見たのに、学校全体で対応することができなかったんです。

「いじめ対策担当教員」には担任を持たず専任で、いじめの情報を集めたり、いじめ対策を行います。そのために、各校に教員を増やしました。新しいいじめ対策を行うためのs平成25年度の予算、3億4千万円のうち、2億3千万円をこのために使っています。

学校現場からは、「教員が増えることで余裕が生まれ、普段から見回りなどできるようになった」「学年が変わった時も同じ教員に情報が届くため、生徒に対して継続的な対応ができるようになった」という声を聞きました。

荻上 学年会議、主任会議、職員会議などの場所じゃないと報告できない、いじめの話で会議を長引かせたくないという風にならないための窓口を設ける必要がありますからね。

越 それから、いじめ、もしくは、いじめの疑いがあったら24時間以内に報告する「24時間ルール」を設けました。事件以前は大津市すべての小中学校でも月に1、2件しか報告がないことさえあったんですが、今は150件ちかく報告があることもあります。これまでまったく何もできていなかったに等しいのですが、いじめの疑いも含め早期発見できるようになりました。

発見されたいじめは、ABCにレベルを分けて対応しています。Aの場合、「いじめ対策担当教員」と他の管理職による各校の「いじめ対策委員会」が対応、Bの場合はそこに外部の専門家に入ってもらいます。不登校など事態が深刻化しているCの場合は、教育委員会と「緊急サポートチーム」で対応します。

組織のあり方は、この2年弱で大きく変わりました。でも、いじめの問題が無くなったわけではなく、今でも学校が変わっていないという手紙が私のところに来ます。一番大事なのは、教員ひとりひとりの意識を変えることです。いくら制度を整えても、教員がいじめに鈍感では何も変わりません。亡くなった生徒の無念を忘れず、これからも、地道にやっていかなければなりません。

いじめ対策における教員

荻上 インフラ面、ソフト面で考えると、人数を増やすのは必須です。なぜいじめに対応できないのか、教員にアンケートをとると「忙しい」「時間がない」という理由が第1、2位にあがります。教員に相談した事例では7割ちかく改善しているが、そもそも約6割の生徒は教師に相談できていません。

このための前提として、まず教師と生徒を繋ぐための通報用のアドレスを教えなくてはなりません。大学だったら、入学時点でセクハラ担当の教員がアナウンスされるし、パンフレットも配られます。問題を掘り起こすために、通報手段の通知は必須ですね。

越 大津市では、いじめ対策推進室などの連絡先を書いたカードやチラシを全ての小中学生に渡しています。今年は、切手を貼らなくても送れる封筒を全員に配布したのですが、子どもたちからたくさん手紙が来ました。これは、私が学校に行ったときに、子どもから「切手がないから、手紙が送れない」と聞いたので、始めたのですが、子どもにとってのアクセスのしやすさは大切だと思います。

また、PTA総会の際に「いじめ対策担当教員」が、保護者の前でどんなことをしているのか説明するようにすると、保護者からも連絡が来るそうです。

荻上 生徒だけでなく、保護者へのアナウンスも必要ですね。僕はそもそも、1クラスに2人以上の大人がいるべきだと考えています。副担任性以外にも、いくつかの自治体では、介助員のパートを教室に配置しています。

大津市では、教員の増員をひとまず進めることができた。行政との連携も進んできた。しかし、教員の意識はまだ変えられていないんでしたよね。制度が変われば、意識は自然と変わるものです。でも、日本には、トラウマ的な事件が起きてから「なんで活用されなかったんだ!」と制度を再発見するようなところがあります。

 そうですね。

荻上 いじめの問題では、そうなってしまっては遅い。リマインドするための研修会が欠かせませんが、教師はあまりに忙しくてその余裕がないので、いずれはサバティカル制度を与えられるような環境が作れたら理想的だと思います。研修を行い、他の学校を見に行ったりできれば、教員のスキルアップやリフレッシュ効果が望めると思うのですが……現実的には、財源の問題がありますね。

越 結局は、そこに行き着きますね。

荻上 もちろん倫理面や実際的なニーズからの提言ですが、徴税期待を考えると、不登校の児童を減らすことなどには、長期的な税収増の効果があると思います。少子化時代にあってこそ、短期的なコストがかかっても、ドロップアウトする児童を減らせれば先行投資としての意味はあると思います。

越 大津市でも複数担任制までは行きませんが、担任をサポートする臨時教員を雇ったりしています。担任の教員が授業をしている間でも生徒を見ることができますし、人員を増やすのは重要ですね。

荻上 「少人数学級」に注目するのと、「教師一人当たり児童数」に注目するのとでも、議論は違うんですよね。日本はこれまで、少人数学級を目指そうという議論は強かったのですが、これは直ちにはいじめ減少には効かないというデータもある。でも、そもそもOECD各国と比較して、日本は教師1人あたりが見る児童の数が多い。教室に関わることのできる人を増やしつつ、教室以外の選択肢も生徒に用意する。教室の質を向上させ、他の選択肢も拡充するという政策が求められます。

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