- 2015年09月07日 17:56
大津いじめ事件・女性市長の改革 / 『教室のいじめとたたかう』著者、越直美氏インタビュー - 島田昌樹
1/4平成24年1月、大津市長に就任した越直美氏は、市長就任前に起きたいじめ事件の対策へ取り組むことになる。立ちはだかる教育委員会の壁や、第三者調査委員会の設置……市長の改革に荻上チキが迫る。(構成/島田昌樹)
大津いじめ事件の経緯
荻上 今回は滋賀県大津市の現役市長である越直美さんとの対談をお送りします。越さんは、平成23年10月11日に起きた大津いじめ事件のあと市長に就任し、前の市政を含めて改革する立場からいじめ対策に取り組みました。
また、ご自身もいじめられた経験を持っていると著書にあります。以前の市政を客観的にチェックするというだけでなく、ひとりの当事者として問題と向き合うところがあったと思います。
越 はい。今回、私が本を出したのは、3年が経ちましたが、亡くなった中学生のつらさや無念を忘れてはいけないという思いからです。大津いじめ事件の教訓を共有して、悲しい事件が起こらないようにするための歩みを止めてはならないと思っています。
まず、事件の経緯からお話ししますと、平成23年10月11日に、いじめを受けていた市立中学校2年の男子生徒が自ら命を絶たれました。私は翌年1月に市長に就任したのですが、最初はこの件について報告がまったくありませんでした。
そして、平成24年2月末に、ご遺族が大津市を相手に訴訟を提起されました。それまでは学校と教育委員会がこの問題に対応していたのですが、直接、教育委員会を相手に訴訟を起こすことができないため、市が訴えられる形になりました。
荻上 形式的にそうなるんですよね。著書で初めて知りました。
越 後にご遺族の方とお話した際、ご遺族の方も学校と教育委員会を訴えたかったのに、市を訴えることになりびっくりしたと仰っていました。この時初めて、教育委員会から報告がありました。事件後、私が市長になる前に学校と教育委員会が調査した結果、いじめがあったことは判明したが、いじめと自殺との因果関係は分からなかったという内容でした。本当に十分な調査をしたのか何回も聞いたんですが、ちゃんと調査した、と。
7月に自殺の練習が行われていたのではないかと新聞で大きく報道され、全国的なニュースになりました。それから滋賀県警の強制捜査が学校と教育委員会に入り、段ボール10箱もの資料が押収されました。それまで、教育委員会から市長部局には全く提出されていなかった資料です。そこで、県警から資料のコピーをもらい、私も自分で資料を見ました。
「生徒が亡くなるまで、いじめに気付かなかった」と学校は言っていました。でも、「いじめか?」と書かれた教員のメモなど、少なくともいじめの疑いがあったことが分かる資料が出てきました。愕然とする思いでした。教育委員会の調査は全くいい加減な調査だったと気付いて、調査のやり直しを決意しました。
私の前職は弁護士で、企業のコーポレート・ガバナンスの仕事をしていたのですが、企業で不祥事が起きたときは内部で調査することはあまりありません。外部の弁護士などに任せます。専門性の問題もありますが、株主や消費者に信用してもらうためには第三者による調査を行う必要があるんですよね。
これにならって、外部の専門家による第三者調査委員会を作って再調査をしようとしたのですが、教育委員会からも強い抵抗がありました。今考えると、この時が一番大変でした。
再調査への抵抗
荻上 どういう抵抗があったんですか?
越 「“教育的配慮”から再調査はするべきではない」と、教育委員会から言われました。「教育村」と言われることもあるように、教育委員会って、中の人しか分からない言葉を使うんですよ。「“教育的配慮”って何ですか」と聞いてみたら、「事件を蒸し返すことになり、子どもが傷つく」ということでした。
でも、本当は違いました。押収された段ボールには、「亡くなった生徒のために真実を明らかにしてください」「死を無駄にしないように、原因をつきとめてほしい」と同級生が回答したアンケートがありました。
実は、私もいじめられた経験がありました。この事件に比べたら私の受けたいじめは大したものではありませんが、亡くなった生徒のことを思うと、徹底的な調査をしなければならないと決意しました。
そこで、教育委員会ではなく、市長の下で再調査を行うことにしました。もう教育委員会には任せられないという気持ちでした。
荻上 第三者調査委員会に遺族推薦の人物を入れたんですよね。それに対しては、どういう反応がありましたか?
越 5人(のち6人)の委員のうち、3人をご遺族推薦の委員にしました。これにも反対する声が多かったですね。
荻上 その理由は?
越 「大津市が作る委員会なんだから、遺族推薦の人物を入れるのはおかしい」ということでした。
荻上 うーん……。遺族の方は大津市民ですよね。で、市民が当事者として市政に要望するのはいたって真っ当です。人数の問題はありますが、そもそも意見を聞かないというのは謎ですね。
越 あと「遺族推薦の人を入れたら、公平な調査ができない」という反発もありました。
荻上 「遺族が推薦する人物を入れたら、遺族に有利なバイアスがかかるだろう」というロジックですか。それは直ちに、「行政が推薦する人物だけなら、行政に有利なバイアスがかかるだろう」って跳ね返ります。
越 そうですよね。ぜんぜん理屈になってないんです。
荻上 こうした検証は、第一義的には当事者のために、第二義的には秩序を改善するために行われるものです。これには専門性・信頼性、さらに客観性・透明性も必要です。
当事者の推薦した人物が入ることで信頼性が築かれますし、調査委員会のメンバーが客観性と専門性を持っていれば問題はないはずです。なおかつ、そのあと民間に戻る人物がいれば、その人達の口はふさげないので、社会に対する透明性も担保されます。
このようなサイクルで、第三義的にはメディアや啓蒙活動を通じて社会全般を向上させることも期待されます。
今回のように当事者が推薦した人物を入れることで、本人や市民に信頼してもらえる仕組みを作ることは、第三者委員会としては当たり前のことにように思えるんですけどね。
越 遺族推薦の人物を入れるために夜中まで何度も議論した時には、ご遺族の言葉が支えになりました。
7月に教育委員会と学校のずさんな調査について、ご遺族に直接謝罪したんです。その時、「市長を信頼して、息子の件を市長にお任せします」と言っていただきました。その言葉が私の支えとなって、同時に責任の重さを感じ、ご遺族の思いを裏切りたくないと思いました。
結局、弁護士の経験から、中立・公正に調査を行うことを約束する就任承諾書を出してもらうことなどを提案し、なんとか、遺族推薦の半数の委員を入れることができました。大津市の推薦委員も市が勝手に選んだものではなく、日本弁護士会などに推薦してもらった専門家です。委員の皆さんは、遺族推薦や市推薦の区別なく、全員が、亡くなった生徒のために、本当に熱心に活動してくれました。



