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それぞれの創生期

こういう仕事をしているので一流の人の創生期を目撃することがある。

最初に思い出すのはビートたけしさんである。デビュー当時は、無口で黙々と仕事をこなす人だった。そのうち「オレたちひょうきん族」や「天才・たけしの元気が出るテレビ」でお笑いの頂点に達した頃は、特番の打ち合わせの四谷三丁目の寿司屋でも迫力と緊張で私は一貫も握りが食べれなかった。

そして1986年講談社のフライデー事件。あの行動に対する論議は色々あるだろうが、取り囲む山ほどの報道陣を逆に睨み返すビートたけしは迫力があった。あの位の迫力が無いと、新しい時代の笑いを造り、欽ちゃん・ドリフの牙城を崩せなかったのか。あの時ビートたけしが事件の釈明会見なのに報道陣に向かって「表現の自由とか言っているが、個人のプライバシーはどうするのか?」と言ってのけたのには度肝を抜かれた。自分は芸能界に二度と復帰できないと腹を括っていたのだろうか。

そう言えば、1988年僕が初めて会った明石家さんまもとても気軽に近づける雰囲気なんて微塵もなくて、ピリピリしてて、1年位、声を一つもかけられなかった。若いころは二人ともトンデモなくおっかなかった。
やっとの事で実ったさんまさんの新番組の一回目。スタジオの横の打ち合わせ室に演者・スタッフがみんなでいると、さんまさんが入って来て、「最初何から撮る?」と聞く。あるコントの説明すると3秒ほど考えて「あ、それいらんわ。」控室に沈黙が走る。それは前の週、打ち合わせ済みのコントだった。・・・横のKスタジオには800万円程で作った照明もバッチリの巨大セットがある。すぐプロデューサーが目配せしてくる。「え、俺が?」と思いながら、スタジオの美術さん照明さんに土下座した。放送作家さんによると上り調子のフジテレビ「ひょうきん族」ではよくあることだったと言う。でも、日本テレビではそのルールは通じない。美術さんが「ボツにしてもよいから、撮るだけ撮ってくれ。」というので、仕方なくさんまさんにこわごわ報告すると「放送せんものを撮ってもしゃあないやんか。おもろないんやから」とのこと。私はこれ以上、何も言えなかった。そのあと、さんまさんは「テレビは空気が大事なんや。」と何度もいわれた。確かに、「面白くないとその時感じたものは面白くない。」というテレビの本質を示した言葉だった。

というわけで、お二人とは、一緒にエレベーターにも乗るのも怖くて、打ち合わせなんて1秒でも終わらせて早く楽屋を出たかった。こっちはそこらへんの大学を出て数年後の「お笑い」について深く探究もしていない青二才であり、二人は若いころから才能が有り余っていて、命がけで時代を変えようとしている人達であり、妥協は許さなかった。でも、後年、二人とも本来はとても優しい人であることが分かる、しかし、本当に怖かったなあ。昇りつつある人たちは、こんなヒリヒリした雰囲気を持っているのだろうか?

我田引水だが、不肖私もスタッフに

「吉川さんが会議室に入って来ると、明らかに空気が変わるんですよ。」と言われたことがある。私もヒリヒリしていたのかも知れない。

一方、1992年「紅の豚」公開後にある仕事のために吉祥寺時代のスタジオ・ジブリで初めて行ったときである。髭をはやして眼鏡をかけて煙草をくゆらすプロデューサーの鈴木敏夫さんは熱された蒸気機関の様なエネルギーの塊で、あの時は鈴木さんの前で一体何をしゃべったら良いのかが全く分からず困り果ててしまった。私が出会った人の類型に全くいない類の人物だった。私の全て人格が特殊機器で走査され、見透かされている様な気がした。

さらに途中ふらりと現れた宮崎駿さんは物静かだが古代生物のマンモスみたいな重量感のある迫力と深い知性を感じさせる人だった。二人とも言葉が丁寧で紳士的で怖くは無かったが、何とも言えぬ興味深い人物であり、この場所から時代が変わってゆくのだな~と思わせる雰囲気と気迫が吉祥寺にはみなぎっていた。

私は当時ジブリの物凄いファンという訳でもなく、お二人についてもあまり深い知識はなかったが、お二人に会った私は深夜、家に帰ってもなかなか興奮が収まらない。自室でムラムラしながらロックのバーボン・ウイスキーをたくさん飲まなければ眠れなかったのを覚えている。
こうやって、一流の人に触れる機会が今の若い人にもあればいいと思う。まあ、私は偶然恵まれていたわけだけど。それぞれの創世記(ジブリはこのあと爛熟期を迎えるのだが)を見られたことが、私にとってこの上ない僥倖であったのは言うまでもない。・・・そしてお蔭様で、近くに川上量生という何とも形容しがたい才気あふれる人物がいるが、彼を身近で観察し、共に仕事が出来ることがいまのところ、最高の楽しみである。 (了)

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