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まねできることと、まねできないこと

 佐野研二郎氏の事務所は「クリエイトする空気」ではなく「コピペする空気」が漂っている――と、マンガ家の江川達也氏は宣いました。これが諸々のパクリ疑惑が浮上する前であれば慧眼なのでしょうけれど、大勢が決まった後の段階になっての発言なものですから、むしろ逆に江川氏が冷ややかな視線を向けられていたりもするようです。今になってからそういうことを言っても、世間に追従しているだけにしか見えませんからねぇ。

 それはさておき、"元"2020年東京五輪公式エンブレムのデザイナーである佐野研二郎氏、使用中止が正式に決まったエンブレム以外にも、探してみれば剽窃と疑われる代物が次から次へと見つかったものですから、大いに叩かれてもいるわけです。こうした中の一つが上述の江川氏ですが、まぁ個人で名声を得ている類のデザイナーなんて、そういうものなのかも知れません。(オリンピック絡みで言えば「おもてなし制服」とかも、昭和のお笑い芸人みたいな印象で恥ずかしいなぁと思ったりしますが、近年はWindowsのメトロUIのようにレトロ調が流行だから仕方がないのでしょうか。)

 ともあれ佐野研二郎氏(事務所含む)のデザインには倒錯の疑いを向けられても仕方が無いような代物が目立つわけです。だから、「コピペする空気」云々とも言われるのでしょう。とはいえ、コピペは誰にでもできることですけれど、佐野氏のように社会的に成功したデザイナーの座に収まるのは、決して誰にでもできることではないはずです。真似できることもあれば、真似できないこともあるのです。

 この佐野氏と似たような形で時の人となった小保方晴子氏の場合はどうでしょう。確かに実験結果を捏造して画期的な発見をしたと喧伝することは、誰にだって可能かも知れません。しかし、小保方氏のように理研に就職して、若くしてユニットリーダーという地位を手にすることができるかと言えば、それは極めて難しいことです。論文不正は誰にでもできますが、理研のユニットリーダーは誰でもなれるわけではありません。論文の作法を理解していないのに理研のユニットリーダーに就けるってのは、ある種の領域において小保方氏が有能だったからでしょう。

 会社の経営を傾かせることは簡単ですが、誰でも社長や役員にはなれません。しかし世の中には会社の業績を深刻に悪化させ顧客を流出させてもなお、他社から新社長として招聘される「プロ経営者」と呼ばれるような人だっています。その手の人の何が凄いのか――経営手腕の面で劣っていることは実績から明らかであるにも関わらず、それでもなお経営を任せたいと考える会社が絶えないとしたら、それは「経営能力とは別の何か」において秀でているからとしか言い様がありません。

 そこでまぁ私が前々から提唱しているのが「出世力」あるいは「昇進力」などの「世に出る力」ですね。本当にオリジナリティのある優れたデザインを創り出す能力を持っているかどうかよりも、まずは何より「出世力」です。有名デザイナーとして自らを飾り立て、審査員と仲良くなってお互いの権威を守り合うサークルに入るには、純粋にデザインの能力だけでは足りないのだと思います。まず先に問われるものがあって、それに秀でているのが佐野氏である、と。佐野氏よりも良いデザインができる人は多いかも知れませんが、佐野氏のような地位を得られる人は、そう滅多にいるものではないでしょう。

 デザイナーとしての資質はさておき、ある意味で佐野氏は有能なのです。私の勤務先の部門長だって、あれだけ会社の業績がガタガタに落ちているのに自身の責任問題には微塵も発展させないどころか社長からの揺るぎない信頼を勝ち得ている辺り、それはそれで凄いと思いますね。私が部門長と同じ立場だったら、業績悪化の責任を問われて左遷させられているに違いありません。己の地位や権威を保つ能力において私と部門長はまさに雲泥の差があるな、と。ともあれ、佐野氏にせよ小保方氏にせよプロ経営者諸氏にせよ「我々の社会で評価の基準となっている何か」において高度なものを有しているからこそ地位や名声を得ているわけです。この評価基準が適切であるかは、読者所の判断に任せますが。

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