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ネットで生み出される、実体験なき憎悪

 「全国のラブライバーを一人残らずこの手で殺します」という殺害予告を包丁の写真と共にツイートした、富山県の男子高校生が逮捕された。(*1)
 男子高校生は「「ラブライブ!」は好きだが、ファンが嫌いだった」などと供述し、容疑を認めているという。
 「ラブライブ!」とは、女子高生たちが「スクールアイドル」と呼ばれるアイドル活動を通して、仲間たちとの友情を育んでいくストーリーで、当初は雑誌の読者参加型企画として始まり、後にマンガやアニメ。ソーシャルゲームなど、幅広い展開をすることとなった作品である。
 そして、この作品のファンがネット上などで「ラブライバー」と呼ばれている。
 では、容疑者はどうして1作品のファンにすぎないラブライバーを「殺す」と書くほどに憎むに至ってしまったのだろうか?

 ラブライブ!の企画が開始されたのは2010年。しかし、Googleトレンドで「ラブライブ!」を検索すると、その人気は2013年から急上昇している。(*2)
 じわじわと人気が上がったというよりも、一気に人気が沸騰して爆発的にファン人口が増えたことから、何かと注目されやすいコンテンツであった。また、新しいコンテンツであるから、ラブライバーには比較的年齢が低いファンが多い。
 このことをうまくサイトのアクセスにつなげたのが、いわゆる「まとめサイト」であった。
 まとめサイトは爆発的に増えた年齢の低いラブライバーファンのうち、極々一部の行き過ぎた行為を「ラブライバーの迷惑行為」として積極的に取り上げ、面白おかしく騒ぎ立てた。
 例えば、「主人公の家のモデルとなっている和菓子屋に上がり込んで騒ぎ立てた」とか「舞台の1つとなっている神社に座り込んで、ラブライブのソーシャルゲームを大音量でプレイしていた」とか「ライブが終わった後に、駅のホームで赤色のサイリウムを振っていた」とか「前売り特典がもらえなくて、映画館のチラシをバラマキ、それを踏みつけながら暴れていた」とか「ラブライブ!の声優さんに迷惑をかけた」などなど、要約しても書ききれないほどの悪行がまとめサイトによって伝えられている。
 中には、画像や映像付きの事実関係がハッキリとしているものもあれば、伝聞でしかないあやふやなものも山ほどある。こうした事の大小を問わないラブライバーによる迷惑行為が、毎日のようにまとめサイトで伝えられた結果「ラブライバーはマナーが悪い」というのが「ネットでの常識」として通用するようになってしまった。
 今回逮捕された高校生は富山県に住んでいるということだが、それならば彼が実際にラブライバーの悪行に巻き込まれた可能性は極めて低い。彼は自らの実体験からラブライバーを憎んだのではなく、こうしたまとめサイトの記事を見て、ラブライバーを憎むに至ってしまったのだろう。
 いわば、今回の事件は「仮想の悪に対する正義の暴走」と言えよう。

 こうした、「ネット上での情報によって、ある属性の他者に対して、実体験と何ら関係のない憎悪を抱く」という流れは、すでに日本中で発生している。代表的なのは在日の韓国や朝鮮の人たちに対する憎悪だろう。
 「韓国は反日国家で、在日は日本に入り込んで反日工作を繰り返し、実質的に日本を支配している」。そのような陰謀論とも言えないような雑な嫌悪が、ネット上で共有され、デモなどでそうした主張を繰り返す政治団体が一定の支持を得たりしている。
 しかしこうした嫌韓も、元々は2002年日韓ワールドカップ時の「ネタ」に過ぎなかった。このネタが「冬のソナタ」の日本での人気をきっかけに、韓流ブームを仕掛けだしたメディアに対する反発と共に増長し、政治的主張としての強度を持つまでに膨れ上がった。
 ラブライバーに対する憎悪がさすがに政治的主張に変わるとは思えないが、それでもネットを介した憎悪の醸成という点で共通点は多い。
 憎悪を持つのは人それぞれで勝手だが、そのことが特定の属性に対する排除や犯罪に繋がってしまう。それを何とかする必要はあるのだが、短絡的に「特定の属性を排除する人たちや、その表現を排除せよ」と主張してしまうのでは、単に憎悪がループしているだけであり、何も変わらない。
 それを変えるためのヒントは、多分そのことが「ネットで伝えられた実体験と関係のない憎悪」であるということだろう。実際には決して傍若無人ではないラブライバーや、反日工作などしていない在日の人たちと実際に話をし、ステレオタイプ的なイメージを固着させないことが、単純一直線の憎悪に向かわない人間をつくり上げるのではないだろうか。

*1:殺害予告で富山の高1逮捕 威力業務妨害容疑(北日本新聞)
*2:Googleトレンド(Google)

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