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東芝不正会計の温床は、「選択と集中」にあり - 大前研一の日本のカラクリ

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成

刑事事件として立件されるかどうかが焦点

インフラ事業に端を発する東芝の不正会計問題は、パソコン、テレビ、半導体などの主要事業でも利益の水増しが判明して、社長以下の組織的関与が明るみに出た。第三者委員会の調査報告書によれば、2008年4月から14年12月までの約7年間に行われた利益の過大計上の総額は1518億円。

「チャレンジ」と称して、経営トップが定例会議の席で各事業部門に目標達成や収益改善を過剰に求める利益至上主義の実態も報告された。

当初、財界におもねる新聞や経済紙は「不適切な会計処理」などと表記していたが、そんな生やさしいレベルではない。「飛ばし(自社の損失を他社に移すこと)」による不正会計が発覚したオリンパスの粉飾額1178億円を上回るのだ。

経営判断として行われたなら立派な「不正」であり、有価証券報告書に虚偽の記載を行ったのだから完全に「粉飾」である。少なくとも「善良なる管理者として負うべき注意義務」を怠ったのだから、取締役全員が民法の善管注意義務違反に当たる。

第三者委員会の報告を受けて、東芝は田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3社長と取締役9人の引責辞任、役員の報酬カットなどの社内処分を発表した。再発防止策やガバナンスを検討する経営刷新委員会を設置して議論を重ね、9月下旬の臨時株主総会で新体制を正式にスタートさせるという。

歴代社長の責任問題がさらに遡ることはなさそうだ。西田氏の2代前の社長である西室泰三相談役は今秋に上場を控える日本郵政の社長であり、安倍晋三首相とも非常に近い関係にある。強力な防波堤になるだろう。

しかし東芝再生の道のりは非常に厳しい。辞任した田中社長は記者会見で「東芝140年の歴史で最大のブランド毀損」と語っていたが、粉飾の全容解明が進めばブランド毀損どころか東芝という企業に対する信頼が地に墜ちて、企業解体の危機に追い込まれかねない。

海外が注目しているのは検察の動きで、刑事事件として立件されるかどうかが焦点だ。ライブドアの不正会計事件でホリエモンこと堀江貴文氏は懲役2年6カ月の実刑判決を受けたし、粉飾決算から破綻に追い込まれた米エンロンのCEOのジェフリー・スキリング氏は24年の禁固刑を言い渡された。同じく粉飾会計で破綻に追い込まれた米ワールドコムのバーニー・エバース氏も禁固刑に服している。東芝経営陣に対する追及が緩くなるようでは、当局の自浄能力、さらには日本の上場企業の信頼性が問われる。

原発大手の米ウェスチングハウスを買収するなど、東芝はアメリカでも巨大な事業体として活動しているわけで、今回の不正会計やそれに伴う内部統制の問題で米司法省やSEC(証券取引委員会)から追及される可能性は高い。すでにアメリカでは個人投資家が不正会計による株価下落に伴う損害賠償を求めて東芝を提訴、他の株主にも参加を呼び掛けて集団提訴に発展している。日本でも株主代表訴訟などが予想され、この先のプロセスは東芝にとって長く辛いものになりそうだ。

ちなみに第三者委員会の調査報告書には「本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われたものである」という唐突な一文がある。これは先々に待ち受けているアメリカの司法当局とのやり取りや訴訟の山を多分に意識したものと思われる。

アメリカの裁判には厳しいディスカバリー(情報開示)プロセスがあって、あらゆる企業情報を相手方に開示しなければならない。その意味では報告書の内容は不十分で、たとえば「経営トップの関与」に関して、東芝内部でどれほど醜い葛藤が生じていたのか、などが具体的には書かれていない。会計監査事務所(会計監査の最大手である新日本有限責任監査法人。オリンパスの粉飾事件も同法人)との関係についても踏み込んでいない。

非公開を条件にヒアリングした内容もあるはずで、それらの開示を迫られた場合に備えて、第三者委員会といいながらも独立公正な調査報告ではなく、あくまで東芝のためのものであることを明記したのだろう。

原発と半導体2事業への経営資源集中

私は仕事の付き合いもあったからよく知っているが、かつての東芝は不正会計が横行するような会社ではなかった。

田舎者の日立に対して、東芝は東京育ちのお坊ちゃんというイメージ。お坊ちゃんだからリスクを取るようには育っていない。それが仕事にも反映されて、どちらかといえばリスクを怖がる臆病な体質の会社だった。財務担当の役員はお金の面倒を見ていた旧三井銀行からしばしば派遣されていたから、会社の都合で会計に手心を加えるような仕掛けや慣習はなかった。社員もそこは神聖な領域と考えて事業に専心できていた。

そんな東芝が変わってきたのは西田元社長のあたりからで、「選択と集中」と盛んに言い始めたのだ。海外パソコン事業で頭角を現した西田氏は、05年の社長就任後に「選択と集中」を実践して経営資源を原発と半導体の2事業に集中させた。その一方で、東芝セラミックスや東芝EMI、東芝不動産などを売却し、第3世代の光ディスクであるHD DVD事業から撤退した。これが内部抗争の原因になる。

08年のリーマン・ショック後に半導体価格が急落して半導体事業は大きな赤字を記録。そこで原子力畑でウェスチングハウス買収に功績のあった佐々木氏が09年に社長に就任した。だが、11年3月の福島第一原発の事故で原子力事業も壁に突き当たる。それらの責任を巡って西田氏と佐々木氏の抗争が激化、それが各部門の利益の水増しにつながったのだろう。

東芝は典型的な事業部制の会社で、何でもありの総合経営、百貨店経営を長らくやってきた。そこに突如として「選択と集中」が持ち込まれて組織は変容してしまう。自分が担当している事業が選択・集中されるならいい。しかし、選択されなければお家が取り潰されるようなもので、社内浪人になるしかない。そうした選別は社内に「怨念」を残しやすいのだ。「選択と集中」によって生き残りをかけた派閥抗争が激しくなり、「選ばれる」ための利益至上主義が蔓延した結果、利益の水増し、粉飾さえも生き残りの手段として正当化されてしまったというのが、東芝の不正会計問題の本質だったように思う。

禍根が残らない選択と集中は、どうやるか

経営資源を効果的に振り向けるという意味では「選択と集中」は重要な企業戦略のテーマである。しかし、一方で「選択と集中」から漏れた事業や社員をどう処遇していくかという重い課題がついて回る。「選択と集中」を行うための準備や手法というのは、すぐれてEQ(心の知能指数)の問題なのだ。

「あなた方には3つの選択肢がある。1つ目は3年の猶予期間を与えるので、小さくてもいいから収益を挙げて会社に貢献できるようにターンアラウンド(再生)しなさい。2つ目は自立を諦めて合併する。社員もハッピーになれるパートナーを見つけてきて、うまくいくことを示しなさい。3つ目は売却。最良の売却先を選んで売却の準備をしなさい」

このような選択肢を与えて、結果で納得させるような「選択と集中」であれば、禍根もあまり残らないだろう。ただ利益を積み上げる数字合わせの努力ではなく、経営努力をさせる時間的猶予が必要だ。

「選択と集中」の本家は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ氏である。彼は年間15%の社員のクビを切り続けた。そうすることで自分も緊張するし、会社も緊張して締まる。だから時間が空いたらクビにすることだけを考えていたという。

「そんなに人を切って恨みを買わないのか」と直接聞いたら、彼は嬉々として答えた。

「恨まれるどころか、感謝されているよ。俺がCEOになってから株価は18倍になった。エブリワンハッピーだ」

GEの従業員の企業年金である401kは過半数がGE株だ。つまり、「選択と集中」で株価が上がれば、切られた従業員もそれを持って退社するのでハッピーなのだ。GEをクビになっても徹底的に仕込まれた経営スキルで引く手あまた。大枚を持って辞めるからエンジェル(創業間もない企業に投資する個人)としても尊敬される。GE出身者がリタイアして田舎に行けば、商工会議所会頭の椅子ぐらいは簡単に回ってくる。

「GEを辞めたヤツは皆ヒーローになる。誰も俺を恨んでないね」

これがGE流の「選択と集中」の要諦なのだ。しかし、「これからは選択と集中の時代」と日経新聞に煽られて飛びついた日本企業の多くはそんなことは知らない。準備不足のまま安易に「選択と集中」に突っ走り、いまだに迷いの森を彷徨っている。

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