前ツイの三菱地所のニュースリリースには「東京の新たなランドマークとなる高さ390mの超高層タワーや東京駅前の新たな顔となる約7,000㎡の大規模広場等を整備…」とあるけど、こんなに特色のない無個性な建築デザイン(ビジネススーツビル)で本当に「新たなランドマーク」となるのだろうか。
— 未発育都市 (@mihatsuikutoshi) 2015, 8月 31
…という話は以前に僕はよくツイートしていたけど、資本主義(市場主義)の建築の行き着く先がこのような単一解の建築デザインだとしたら、都市はますます退屈になるのではないかと思われる。
— 未発育都市 (@mihatsuikutoshi) 2015, 8月 31
その一方、民主主義の建築(公共施設)は「新国立競技場」問題であらわになったように、もはやローコストでシンプルな建築デザインでしか建てられなくなってしまった。前ツイと併せて、建築デザインの未来は完全な袋小路状態である。
— 未発育都市 (@mihatsuikutoshi) 2015, 8月 31
当該開発が、ノエル氏の主張するように「無個性であるかどうか」に関しては私のコメントは控えておくとして、そこに続く同氏の論評というのは非常に面白いですね。世の中には「東京の街は無個性で…」といった主張が多く存在するのは事実でありますが、私としては如何に「ランドマーク」を主張したとしても、民間が開発するものはあくまで彼らの持つ経済合理性の範囲内のものであって、それを超えるような公共性を持ちえないし、民間事業者にそのような公共性までもを求める事自体が無理な話であると思います。
一方で、昨今巻き起こっている国立競技場問題に立ち戻ると、「前世紀の遺物」ともいえる久方ぶりの大型公共開発が、あれ程までに見事にトラブって大問題化したことの影響というのは、今後の公共開発の世界で徐々に出始めるであろうと思います。特に今回、国立競技場価格の高騰を招いたのが「ザハ氏提案のデザインのせい」と大きく世間に認知されてしまった事は非常に重篤であって、結果的に白紙撤回した後の入札が建築家によるデザインを争うモノから、ゼネコンによる建設計画を総合的に争うモノ(デザインビルド方式)に変更された点は、非常に大きいでしょう。
【参照】「凝ったデザイン不要!」「カネかけるな!」ネットアンケートに国民の声集まる
http://www.sankei.com/sports/news/150805/spo1508050017-n1.html
本件に関しては、これまでのエントリで何度も述べてきたとおり、当初「キールアーチ一本500億、二本で1000億」などと建築界の一部から主張された「デザイン悪玉」論は全くもって間違い。フタを開けてみれば案の定、天井の開閉構造を断念し、当初計画では8万席とされていた客席数を6万8千まで落とし、それでもまだ足りないので併設される予定だった各種機能をスポーツに限定し…と、各種開発要件を切り捨てまくってもまだ970億円の圧縮にしかなっていないという、「あの壮絶な『ザハ叩き』は一体なんだったんだ」状態になっているわけであります。
一方、国民の評価は未だ当初の「デザイン悪玉論」で止まってしまっているワケで、このような形でデザインコンペが帰結してしまえば、今後、積極的に同様のリスクを抱えるような開発方式を採用する公共主体は居ないでしょう。今後の公共開発は建築家ではなく、ゼネコンが応札の主体となるデザインビルド方式にほぼ収束してゆくのであろうな…と思うところです。ま、実をいうと私自身はそのようなデザインビルド方式を容認するスタンスの人間ではあるのですが、一方で今回のデザイン悪玉論を牽引した代表論者、森山高至氏などに対して、同業の建築家界隈から「日本の建築デザイン産業を殺した」などと大きな批判が集まっているのも無理のない話だとは思います。
一方で、私の専門性に話を展開するのであれば、冒頭のtweetでノエル氏が主張する「建築デザインの未来は完全な袋小路状態」の出口が、統合型リゾート開発に向かって行っている世界的な風潮も自然な流れなのかなと思うところ。そもそも、上記のとおり民間の開発にそのような公共性を期待する事自体が無理ですし、多額の公財源を大きな開発に投ずることの批判というのは我が国にもかつてあった高度成長期に丁度差し掛かっている一部の国々を除いて世界のどの国にも存在しているワケで、その唯一の「逃げ道」となるのは公民連携事業、すなわち公が主導しながら民間に出資をさせるような開発事業になるワケです。
但し、そのような事業が成り立つのは、1)公が独占的に営業許可権を握りながら、2)一方で民間がどうしてもその事業を運営したい、という非常に限られた開発のみであり、その代表格がカジノ産業と統合型リゾートの開発となるワケです。
2005年に行われたシンガポールの統合型リゾートの導入において、シンガポール政府は「新しいシンガポールの都市景観のアイコンとなる建築デザイン」(マリーナベイの開発)という要件を設け、入札評価の中で大きな評点としました。その結果出来上がったのが世界を代表する統合型リゾートの一つであるマリーナベイサンズであり、港湾を囲んでマーライオンと対峙するその姿はシンガポールの都市イメージを代表する風景となりました。
本統合型リゾートは、我が国においてもSMAPメンバーが出演するソフトバンクのCMで採用されるなど、世界の多くのメディアで象徴的に流され利用されています。このような都市を象徴するアイコニックなデザインが、巡り巡って同国の観光産業の振興を裏支えしているのです。
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