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資産バブルが起きると分裂する山口組

記憶に生々しい山一抗争

国内最大の指定暴力団・山口組が分裂するというニュースは英国のガーディアン紙でも報じられた。

1985年1月、山口組の竹中正久・4代目組長が対立する一和会系組員に射殺された事件に端を発する「山一抗争」。筆者は産経新聞神戸支局の駆け出し記者で、一晩に2件も3件も「カチコミ」と呼ばれる襲撃事件の取材に追われた。

抗争は計317回に及び、暴力団関係者25人が死亡し、約70人が負傷した。あれから30年の歳月が流れたが、一和会会長の山本広組長宅にダンプカーが突っ込み銃が乱射され、市街地で銃を発砲しながらカーチェイスが繰り広げられた凄まじさが思い出される。

神戸市灘区の田岡御殿(山口組本部)で大きな集まりがあるたびマイカーで取材に出かけたが、大勢の組員に取り囲まれて怒声を浴びせられたときは震え上がった。直系組長の顔を覚えて出入りをチェックし、マル暴担当刑事にぶつけて暴力団情勢を取材した。当時は、警察の暴力団対策課の当直に組員が窓からスシを差し入れに来るような時代だった。

筆者の中学校は大阪市西成区のあいりん地区にあったので、父親が暴力団に所属する同級生も何人かいた。あいりん地区とその周辺に事務所を構える暴力団は優に100を超えていた。公共工事で稼ぐ日雇い労働者の日銭があいりん地区にはうなっていたからだ。

田岡御殿を取り囲む黒スーツの組員の中に不良グループのボスだった同級生の顔を見つけ、「○○くん?」と声をかけ、隣の組員から「新聞記者が何をしとるんじゃ」と追い払われた。親分肌だったこの同級生は修学旅行で女性との性体験を教えてくれたり、中学校を休んで修行のため一人旅に出かけたりしていた。

抗争事件で市民も巻き添え

小学校の近くで起きた抗争事件で市民が撃たれて負傷、子供たちの運動会でヨーイドンのピストルが中止になり、急きょホイッスルの合図に切り替えられた特ダネ記事を書いたこともある

資金源が枯渇した一和会は解散に追い込まれた。山一抗争の集結後も各地で対立抗争の巻き添えになって市民や警察官が死亡する事件が相次いだ。暴力団対策の強化を求める世論が大きな盛り上がりをみせ、1991年、対立抗争時の事務所使用制限を命令できる暴力団対策法が制定された。

暴力団取材を続けるノンフィクション作家の溝口敦さんとその家族、暴力団の民事介入暴力を取り上げた映画「ミンボーの女」を制作した伊丹十三監督が襲撃される事件が起き、暴力団の牙は一般市民にも向けられるようになった。しかし暴力団の横暴に市民は立ち上がり、組事務所の立ち退きや損害賠償を求める動きが広がった。

武闘組織・山口組

関西系の山口組が関東系の住吉会や稲川会を凌駕する勢力を持ったのはその武闘性ゆえだ。一和会加茂田組の若頭が堅気になった後、筆者に「山口組がケンカに強かったのは、平時から敵対する可能性のある組幹部の事務所、立ち寄り先をコンピューターに入力していたからだ」と打ち明けた。

3人1組で偵察チームと実行チームをつくる。3人1組にするのは「やるか、やらないか」判断に迷わないようにするためだ。2人だと意見が分かれると決められないが、3人だと必ず意見は2対1に分かれるので「やるなら、やる」と踏ん切りがつく。

偵察チームは実行チームがきちんと襲撃するか見届ける役目も務める。実行チームには特別な山菱のバッチを与えることでエリート意識を植え付ける。特別な山菱のバッチを手に入れたい命知らずの若い組員の志願が相次ぎ、武闘派・山口組の原動力になっていた。

日本経済の停滞で暴力団も衰退

2005年には構成員2万1700人、準構成員1万9300人を擁した山口組も日本経済の停滞や時代の変化とともに衰退し、14年の時点で構成員1万300人、準構成員1万3100人にまで縮小している。暴力団全体に山口組が占める割合も05年の47.5%から昨年には43.7%まで下がっている。

警察庁データより筆者作成

バブル経済の絶頂期に起きた山一抗争と、これから勃発する恐れがある新たな山口組の分裂抗争とでは内在するエネルギーが違いすぎる。日本経済が20年間、デフレに苦しんでいる間、暴力団も下のグラフのように凋落の一途を辿ってきた。

それでも山口組のしのぎは9兆7千億円?

しかし米経済誌フォーチュンの推計では山口組の薬物密売、賭博、恐喝、紛争解決による収入は約800億ドル(約9兆7千億円)。なんと2位のロシアンマフィアの9.4倍、日本の国内総生産(GDP)の2%近くというのはいくらなんでも多すぎる。

山口組の資金源は神戸港の港湾利権に始まり、公共工事の談合利権、バブル経済の株や不動産、そして今や名古屋に移っている。今回の分裂劇は、資金力を背景に6代目組長・若頭の要職を独占する名古屋の弘道会と、神戸や大阪に拠点を置く5代目組長・若頭の山健組、宅見組の本家争いの側面がある。

山健組や宅見組は山菱のバッチを手放さないだろう。菱の看板を下ろせば、とたんにしのぎができなくなるからだ。

NHKや毎日新聞によると、組から離脱しようとした関西系13団体の組長が「絶縁」や「破門」になり、組長2人が引退したという。弘道会を中心とした山口組は約7千人、山健組など関西系は3300人。しかし最終的に勢力がどう分裂するかは分からない。

山健組や宅見組のしのぎはかつてバブル経済で高騰した株や不動産で、力づくで一和会系の資金源を奪っていった。弘道会の資金源は何なのか。内閣府の県民経済計算から地域別の総生産を見ると、関東地方が40%を占め1位。弘道会が拠点を置く中部地方は15%で3位だ。

内閣府データより筆者作成

日本一の名古屋港

弘道会の源流である鈴木組は名古屋港の沖仲仕を仕切っていた。名古屋港を拠点にする運送会社の関係者はかつて筆者に「弘道会のフロント企業だ。裏で盃をもらっている」と打ち明けたことがある。名古屋港は今や日本一の港だ。名古屋港のホームページから2014年時点で日本一の実績を拾ってみた。

総取扱貨物量2億762万トン(2位千葉港、3位横浜港)

輸出額11兆3748億円(2位横浜港、3位東京港)

貿易黒字額5兆6583億円(2位横浜港、3位神戸港)

自動車輸出台数143万3075台(2位三河港、3位横浜港)

臨港地区面積(陸域)4216平方メートル(2位北九州港、3位横浜港)

11年のデータになるが5大港の総取扱貨物量を比較したグラフは下の通りだ。

東海地方にはトヨタ自動車をはじめ世界トップクラスの技術を誇る日本の企業群が集積している。弘道会は日本の物流とともに山口組の階段を頂点まで登り詰めた。

闇の勢力は表の日本経済と密接につながっている。山一抗争のとき引退に追い込まれた直系組長は「山口組のキッシンジャー」と呼ばれ、六法全書を諳んじれるほどのインテリだった。抗争力が山口組の遺伝子だが、経済オンチではヤクザは務まらない。

安倍晋三首相の経済政策アベノミクスは株や不動産の資産バブルをもたらした。収益構造の変化が山口組の分裂を引き起こしたのか。30年前の山一抗争と類似しているのは、資産バブルが起きているときに組が分裂したということだ。

(おわり)

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