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中国経済「減速」を日本経済の経験から読み解く 成長移行の道筋に乗る一方、将来的にバブル不安もありうる - 中島厚志 

中国経済の減速は、値動きの荒い上海株価や人民元切り下げなどとともに世界経済の懸念材料となっている。相次ぐ金融緩和措置や通貨切り下げなどで、中国政府も景気を支えなければ今年の成長目標7%達成が危ぶまれかねないとの危機感を持っているとも窺える。

 確かに、最近の中国経済はあまり芳しくない。今年4-6月期のGDP成長率は、1-3月期と並んでリーマンショック直後以来最低の7%成長に止まった。また、鉱工業生産や小売売上高の伸びは相対的に鈍化しているし、消費動向指数も低位にある。

 しかし、中国経済が大きく減速しているとしても、異常な事態に陥っているようには見えない。中国経済が移行期にあることがその理解の大きな鍵となる。日本が高度成長期から安定成長期に移行した当時と現在の中国経済は類似しており、比較することで見えてくる部分がある。

5%程度の安定成長に向かう中国経済

 中国経済が移行期にあることについてはWedge Infinityの拙文(「世界経済は停滞していない~潮流変化の元はアメリカ・中国の新たな経済構造~、2014/10」)で示したところだが、世界一の工業生産国そして輸出国となった中国が、今後とも投資や輸出主導で10%以上の経済成長を果たすのはもはや困難となっている。この点を踏まえ、中国政府も量から質を重視し、7%程度の成長を目指すと言明しているところでもある。

 では、現在の中国経済はどの程度の成長力があるのか。図表1は、中国の購買力平価での一人当たりGDPを日本、台湾、韓国と比べたものである。このグラフから、現在の中国の一人当たりGDP(購買力平価ベース)は85年当時の日本、93年当時の台湾、96年当時の韓国と近い水準であることが分かる。

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【図表1】一人当たりGDPの推移(購買力平価ベース)
(出所)IMF
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 85年当時、日本はすでに高度成長が終了して5%程度の安定成長に移っていた。93年の台湾、96年の韓国でも、高度成長期は終了し、5%の安定成長期に移行途上の時期に当たっていた(図表2)。

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【図表2】台湾と韓国の実質経済成長率 
(注)平均成長率は1972-89年、1990-96年、1997-2008年、2009-2014年それぞれの年平均 
(出所)台湾行政院(DGBAS)、韓国銀行
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一人当たりGDPを購買力平価ではなく、名目ドル建てで見ても大きな方向性は変わらない。現在の中国は日本の78年当時、台湾の89年、韓国の91年と同程度の水準にあるが、やはり日本は安定成長期入りしているし、台湾・韓国もその途上に入りつつある時期に当たっている。

 日本の場合、高度成長期と安定成長期の成長力の差は投資と個人消費の減速にある(図表3)。台湾と韓国の場合も基本的には同様だが、日本と違うのは移行期の90年代に通貨が割安に動いていたことである(図表4)。

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【図表3】日本:実質経済成長率の内訳
(出所)内閣府, OECD
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【図表4】円・ウォン・台湾ドル:実質実効為替レートの推移
(注)下が通貨安、上が通貨高
(出所)日銀、JPモルガン
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 これは、ちょうど対米貿易摩擦に超円高が加わって日本企業のアジア展開が一段と加速した時期に当たり、アジア諸国がその恩恵を享受した時期に当たる。そのため、移行期といっても韓国・台湾では高度成長的な成長が長く続き、アジア通貨危機まで投資と個人消費とも高い伸びを維持していた。

 日本、台湾、韓国の高度成長から安定成長への移行を確認した上で中国経済を見ると、現在は輸出・投資主導から内需・消費主導の経済成長への移行期にあるとともに、10%台の高度成長期から5%程度の安定成長期に向かう移行期にもある。

そして、この見方を元にすれば、現在の中国経済「減速」は意外ではない。むしろ、大幅所得増を背景とした消費堅調と過剰投資縮小を伴う投資減速の中で、製造業の設備投資は1割弱伸びており、小売売上高も10%以上の伸びとなっている。いままでの大幅増からは鈍化しているとはいえ、基本的には消費主導の安定成長への道筋から外れていないと見ることができる(図表5)。

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【図表5】中国:実質経済成長率の内訳(単純平均)
(注)各需要項目の寄与度は、該当期間における四半期別需要項目寄与度の単純平均。2015年は第2四半期まで
(出所)中国国家統計局
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不安がある金融・不動産バブル

 もっとも、経済成長が安定成長への移行期に乗っているとしても、金融・不動産市場の今後の展開に不安はある。

 現在の株価は一時の高騰からは大きく下がっているし、過去5年間高成長にもかかわらず株価が低迷してきたことを勘案する必要がある。また、株価収益率なども際立った水準になく、今の水準を異常な高値と捉えることはできない。

 それでも、株価が乱高下を繰り返すことは好ましくない。しかも、市場が中国経済の構造的な成長減速を十分に織り込まないままに、積極財政政策や金融緩和そして原油安といった外部経済環境の好転を過度に囃すことがあれば、金融バブルにならないとも言い切れない。ちなみに、これらの条件は80年代後半日本で不動産バブルが起きたときの背景でもある。

 同じことは不動産市場についても言える。中国の不動産価格は政策的な下支えもあって直近回復に転じている。そして、リーマンショック後の、金融緩和を受けた不動産価格高騰時まで含めた過去6年あまりで見ると、中国の不動産価格上昇幅は日本の不動産バブル期に近づく状況となっている(図表6)。

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【図表6】中国:不動産価格と日本のバブル期における不動産価格

(注)日本は商工業、住宅を含む6大都市(東京都区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)不動産価格。中国は商業・住宅の主要5都市(北京,広州,上海,深圳,天津)平均不動産価格
(出所)日本不動産研究所、中国指数研究院
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現状では、必ずしも事態を深刻視するには当たるまい。それは、中国の所得増が年率10%以上と大きいため、仮に現状がバブル的でそれが弾けたとしても、年収が増えて住宅価格との倍率差は数年で低下し、長期の不動産・経済低迷には至りにくいからである。

 これは、失われた20年につながった80年代後半の不動産バブル期に次ぐ不動産価格高騰があったにもかかわらず、深刻な不動産不況や長期の景気低迷につながらなかった日本の70年代前半の状況に似ている。

 しかし、安心はできない。不動産市場でも、金融市場同様、将来的に中国経済の安定成長移行を織り込み切れないままに不動産市場下支え策等に過剰に反応することになれば、80年代後半の日本のような深刻なバブルを招く可能性はある。

バランス良く安定成長に至るかがポイント

 中国経済が減速しているとは言え、主要国と比べれば高成長が続いている。また、金融・不動産市場も発展途上にあり、成熟した先進国市場と単純に比べることはできない。中国経済を見る際には、なお日本経済や先進国経済とは異なる視点が欠かせない。

 このことは、移行期にある中国経済の景気減速を最近の経済指標から読み解くだけでは不十分ということを意味している。とくに、成長移行期にある中国経済では、先に高度成長期から安定成長期に至った日本や台湾・韓国などの経緯が参考となる。

 かつての日本経済では、高度成長から安定成長に至る過程で、成長移行の成功と不動産バブルの失敗などがあった。その経験を元にすれば、現在の中国経済は、成長移行の道筋に乗っている一方、金融不動産市場の乱高下が将来にも内外経済に悪影響を与えたり、バブルが生じて弾ける可能性もあると言える。

 その上で、今後の中国経済については、金融・不動産市場にくわえて為替相場の安定の中で投資と消費がバランスよく成長する状況に落ち着くことができるかがポイントであり、これが中国経済ウォッチに欠かせない視点でもある。

 足元の中国経済・金融は激しく動いている。しかし、経済・金融が揺れ動いている現状だからこそ、その分析に長期的な道筋を見極める視点も欠いてはならない。

画像を見る 著者
中島厚志(なかじま・あつし)
経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

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