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著作権法の未来を占う一つの論稿。

8月の真ん中くらいの時期、というのは、仕事もさすがに落ち着いてきて、比較的、時間的な余裕を持ちやすくなる。

仕事のペースが落ち着くと、その分、自分の処理ペースも連動して落ちてくるから(苦笑)、忙しい時に思っていたほどには、何も片づけられずに終わってしまうことも多いのだが、それでも、溜め込んでいた文献やら論文やらに、ちょこちょこと目を通すくらいのことはやっておかねば・・・というところだろうか。

そんな中、先月発売されたL&Tに、慶応大学の奥邨弘司教授が書かれていた、「クラウド・サービスと著作権」という論説に接した*1

昨年度、文化審議会著作権分科会「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」で議論されていた内容を中心に解説が加えられているのだが、法学の世界ではこの分野の第一人者である奥邨教授が書かれているだけあって、コンパクトな構成ながら、説明は極めて分かりやすい。

また、混沌とした状況の中でとりまとめが行われたこともあって*2、不完全燃焼感が強かった前記小委員会の報告書の内容*3についても、ところどころで記述の背景にある考え方も補いながら解説されており、特に、サービス提供者側の立場で読むと、比較的安心できる内容となっているといえるように思う。

ただ、自分がもっとも印象に残ったのは、この論文の最後に記された、「権利制限規定の拡充」に関するくだりであった。

奥邨教授は、権利制限規定の拡充問題に関連して、米国の事例がよく引き合いに出される、ということに言及し、「情報通信技術を利用した新しいビジネスやサービスにおける著作物の利用を、フェア・ユースと判断した裁判例が一定数存在する」こと、そして、「その意味では、わが国よりはずっと、著作物を利用した新規ビジネスなどに優しい」といえることを指摘した上で、以下のように述べられている。

「ここで重要なのは、結果を比較するだけではなくて、それらをフェア・ユースと判断することを正当化した理由にも注目することではないだろうか。たとえば、新規ビジネスの促進自体は、フェア・ユース正当化の鍵とはなっていないのである。そうではなくて、正当化の鍵をなっているのは、問題の利用がtransformativeであること、すなわち、変容力が存在すること(代替的・派生的な利用ではなくて、新しい目的や異なる性格づけを伴った利用であること)である。」

「米国の経緯を踏まえるなら、一見遠回りではあっても、まずは、多くが納得する、わが国らしい権利制限の本質的な正当化の論拠を探ることこそ、将来につながる解決への近道であるように思われる。」(奥邨・前掲33頁)

これまで何度も繰り返され、“クラウド・サービス”をめぐる議論の文脈の中でも展開された決して建設的ではないやり取り・・・

そこで「なぜ議論がかみ合わなかったのか」ということに対する答えと、そういった状況を打開するための鍵となるポイントが、上記の短いコメントの中に凝縮されているように思えてならない。

個人的には我が意を得た感も多い内容だけに、この場でご紹介させていただくとともに、自分も、余裕のあるうちにもう少し考えを深めてみようかと思っているところである。

*1:奥邨弘司「クラウド・サービスと著作権」L&T68号25頁(2015年)。

*2:経緯については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150202/1423298716のエントリー参照。

*3http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/cloud_chosakuken_2702.pdf

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