記事

リーダーシップは研修で身につくか?

東京大学 大学総合教育研究センター准教授 中原 淳 構成=井上佐保子

どの山に誰とどうやって登るのか

リーダーシップは、チームで仕事を成し遂げるために、そして会社で昇進、昇格していくためにも不可欠な能力です。企業のトップはしばしば「これからは君たちがリーダーシップを発揮してほしい」などと社員に熱く語りかけますし、多くの企業、組織で、「リーダー研修」「リーダーシップ研修」が行われています。

しかし、これほどリーダーシップが求められている割に、求められているリーダーシップの中身がなんとも曖昧です。「あの人、仕事はできるけど、どうもリーダーシップに欠けるんだよな」などと、業務遂行能力とはまた別の能力、人間力や資質のようなものだと思われている節もあります。組織内で活躍していくためには非常に重要な能力であるにもかかわらず、その能力を測る方法も特にないようです。

いったい、リーダーシップとはなんでしょうか? そして、リーダーシップは研修で身につけることができるのでしょうか。今回は、リーダーシップについて考えたいと思います。

学問的には様々な定義がありますが、僕が最もしっくりきた定義は、ヤフーの宮坂学社長が、かつてお使いになっていたメタファです。曰く「リーダーシップとは山登り」である。宮坂社長の慧眼に敬意を表し、この記事では「山登り」のメタファでリーダーシップを考えてみましょう。

例えば、仲間と「今度、山登りに行こうよ」という話になったとき、あなたはどうしますか? まずは「初心者が多いから新緑を楽しみながら標高の低い高尾山に登ろう」とか、「山岳部の仲間たちと、本格的な装備を持って槍ヶ岳に挑戦しよう」など、プランを考え、ルートやスケジュールに落とし込むでしょう。つまり、

●どの山に登るのか
●誰とどう登るのか

を、検討し、計画し、実行に移すというわけです。

リンク先を見る
図を拡大
リーダーシップとは「山登り」である

このとき、「どの山に登るのか」を決めるのが、「目標、課題設定」であり、「誰とどう登るのか」は「ネットワーク構築」です。これらについての意思決定を行い、仲間を巻き込み、ともに山登りをするのがリーダーシップというわけです。

「どの山に登るのか」を決めるときは、高すぎると無謀なチャレンジになりますし、低すぎても満足感、達成感がありません。一緒に登る人のスキルや天候なども考えあわせて、適度な高さの山に設定することが大切です。

「いやいや、会社の中では、『どの山に登るのか』を考えることは、ほとんどない。目標も課題も上から降りてきますから」という人もいるかもしれません。確かに経営の意思決定を行う経営層ならばいざしらず、多くの現場のマネジャーにとって、少なくとも「どの高さの山に登るのか」は、「前年比売り上げ120%達成」などと、あらかじめ決まっている場合が多いものです。しかしながら、その目標、課題をどうやってクリアするのか、「新商品発売直後に思い切ったPRを仕掛ける」「担当エリア内の店舗への営業を強化する」など、具体的に登る山を決めて示すのはやはりリーダーの仕事です。

「誰とどう登るのか」についてですが、これもまた「誰と登るのかは、チームメンバーが決まっていて選べない」という場合が多いでしょう。ですが、チームメンバーのスキルを把握し、そのレベルに合わせて、どのコースで登るのか、休憩は何回取るのかを考えたり、誰にどんな役割を任せるのか、といったことを決めたりするのはリーダーの役割です。

「カリスマ型」を10年続けるのは難しい

実際に山に登り始めた後は、メンバーをがんばらせて動かすのもリーダーの仕事。リーダーと聞くと、一般的には「自ら先頭に立って人を導く人」といったイメージがあります。自らの思いと実現したいビジョンを情熱的に語り、「エベレストを目指すぞ! 俺についてこい!」と先頭に立って旗を振るような、熱意とやる気に満ちたリーダーは、多くの人が思い浮かべる理想的なリーダーのイメージです。こうしたリーダーシップスタイルを「カリスマ型リーダーシップ」といいます。

しかし、そうした熱量の高いリーダーがグイグイ引っ張るリーダーシップは、一過性のイベントやベンチャーの立ち上げ時など、勢いの必要なときにはよくても、10年、20年と続けていくにはしんどいかもしれません。

また、リーダーの熱量だけが高く、フォロワーとなるチームメンバーがついていけない状況では「グイグイ」引っ張っていたつもりのリーダーが「登らないと、ただじゃおかないぞ」と「オラオラ」系(!?)になってしまい、目標達成ができないだけでなく、ブラックな状況が生まれる危険性もあります。

「リーダーシップとは山登り」をすることだとすれば、「グイグイ」引っ張るだけがリーダーシップというわけでもありません。最終的に山登りという目的を達成できるならば、どんなやり方でもいいわけで、リーダーシップにも様々なスタイルがあります。

ビジョンを示して導くリーダーシップ、自ら模範を示すリーダーシップ、みんなの意見を聞き調整するリーダーシップ、近年はメンバーを励まし支援するようなスタイルの「サーバントリーダーシップ」もよく知られています。

様々なスタイルが登場していて、自分はどのリーダーシップスタイルを採るべきか、と迷う人もいるかもしれません。しかし、同じ山登りでも、登る山と登るメンバー、そして当日の天候などによって、採るべきリーダーシップスタイルは変わります。初心者が多ければ、励ますスタイルが適しているかもしれないし、悪天候に見舞われたら、とっさに引き返す判断をする際は独断的なスタイルが必要なときもあるでしょう。リーダー自身のキャラクターもあります。そう考えると「リーダーシップスタイルは状況にあわせて無数にある」といってもいいかもしれません。ちなみに、学問の世界では、そのことを「コンティンジェンシー理論(状況依存性)」といいます。

「360度評価」はリーダーの資質を改善するために有効

リーダーシップスタイルは無数にあるとすると、いったいリーダーシップというものを研修で学ぶことができるのでしょうか。一般的に行われている階層別のリーダー研修では、課題設定、計画立案のやり方を学ぶほか、ネットワーク構築、つまりチームメンバーを動かすためのコーチングやコミュニケーションの研修が中心に行われています。リーダーシップを発揮するときに、「オラオラ」系に陥らず、どのようにチームメンバーとコミュニケーションを取って勇気づけたり、メンバー同士助け合う関係をつくるか、といったところに主眼が置かれているのです。

こうした研修は、山登りをする前に、「山登りの基礎知識」と「山でのコミュニケーション術」を身につけるという意味ではとても効果的ですが、やはり山登りを学ぶためには実際に山登りをして、振り返って学ぶ機会が最も重要です。

そこで最近では、実践型の研修を行い、実際に課題に取り組み、振り返ることでリーダーシップを開発するというアプローチが採られています。

そのアプローチの方法としては、リーダー個人の資質を改善する「個人の開発」と、実際に仕事をするチーム内に「リーダーシップ現象」が生まれるよう促進する「チームの開発」の2つが存在します。

「個人の開発」とは、リーダー個人が自分の仕事や職場を振り返りながら、自分の強み、弱みや課題などに気づき、リーダーとしての資質を獲得していく、というアプローチです。よく行われているのは、対象者を上司、部下、同僚、顧客などの関係者が多面的に評価する「360度評価」です。「360度評価」は人事考課における評価となっている場合もありますが、こうした他者からのスパイシーなフィードバックの機会を通じて、リーダーとして己を振り返ることが求められます。

それに対して「チームの開発」は、「リーダー個人」に焦点化するのではなく「リーダーシップ現象を生み出したいチーム全員」を対象にして行われます。こちらのアプローチでは、チームで与えられた課題に取り組み、その後、チームで何が起こったのかを振り返り、役割分担や意思決定が適切であったかを考えていくことが行われます。多くの企業、組織で行われている「チームビルディング研修」などは、これにあたります。考えてみれば、各メンバーがチームに貢献することで、「山登り」ができさえすれば、リーダーがいてもいなくてもよいわけです。チームで成果を出す「リーダーシップ現象」を生むための働き方を学ぶのが「チームの開発」のアプローチです。

メンバー全員で、チームを動かすリーダーシップ

本連載でご紹介したヤフー、インテリジェンス、アサヒビール、日本郵便、電通北海道と北海道美瑛町による異業種コラボレーション研修「地域課題解決プロジェクト」は「個人の開発」と「チームの開発」の双方を取り入れたリーダーシップ研修でした。(「アサヒビール、電通、ヤフー……エース社員研修に潜入」http://president.jp/articles/-/15734)各社の次世代リーダー人材が集まり、美瑛町の社会課題解決に取り組むことをテーマにしたプログラムでしたが、研修の最終日には、全プロセスとチームの状態について徹底的に振り返る時間を設けました。また、全チームメンバーから甘口、辛口のコメントをもらうなど、自分自身の強み、弱みを知る「個人の開発」の機会もつくりました。

このような異業種のチームビルディング型のリーダーシップ開発プログラムが行われるようになってきたのには、ダイバーシティが進み、ビジネスの場で多様な人と協働する必要性が増しているという背景があります。様々な属性を持った人が集まったチームで課題の設定から解決までを行うためには、もはや一人のリーダーが全員を率いていくようなリーダーシップではなく、チームメンバー全員でチームを動かしていく形のリーダーシップが必要になってきているという側面があるのです。

「自分はグイグイ人を率いていくリーダーシップとは無縁」と思っている人でも、メンバーの一員としてリーダーシップは大事なものです。今後、その傾向はますます強まるでしょう。リーダーシップは誰にでも他人事ではないと、まずは認識することが大事なのではないでしょうか。

あわせて読みたい

「リーダーシップ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    賭け麻雀合法? 宗男氏声荒らげる

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    役満狙った黒川氏 イカサマ失敗

    毒蝮三太夫

  3. 3

    裏に電通? 怪しいコロナ業務委託

    青山まさゆき

  4. 4

    黒川騒動で賭け麻雀モラル崩壊へ

    木曽崇

  5. 5

    森法相の迷走 元凶は安倍首相

    猪野 亨

  6. 6

    769億円で「幽霊法人」に発注か

    文春オンライン

  7. 7

    新検事長は安倍政権の不正に迫れ

    天木直人

  8. 8

    解除後初 都内で集団感染発生か

    ABEMA TIMES

  9. 9

    コロナで「おさわり」も禁止せよ

    幻冬舎plus

  10. 10

    戸惑う居酒屋 解除後も恐る恐る

    BLOGOS しらべる部

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。