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中国海軍の募集ビデオに託された外洋進出の夢

 中国の海軍は青い海原を進んでいく。その粋な戦艦は美しい。水兵たちは厳格かつ正直で任務に忠実だ――。

 それが中国海軍による最新の募集ビデオのイメージだ。そこには世界のどこであろうと中国の国益を守ることができる強力な海軍を作るという野心が現れている。

 国防と外交政策で押しの強い姿勢を強める習近平国家主席のもとで中国人民解放軍海軍が積極的に主導的役割を果たそうとするなか、募集ビデオは先週後半に公開された。習国家主席のそうした政策は、不安を覚えた周辺諸国・地域が攻撃的な動きだと呼ぶ中国の領有権主張の行為に表れている。

 中国政府は5月、海軍の能力を向上させ、自国の海岸線から外洋に軍事力を誇示する計画を発表した。約4分半の募集ビデオには21世紀の力強い戦力が写っている。上空へ飛び去る戦闘機、海原に不規則に展開される戦艦や潜水艦、さまざまな破壊兵器、そしてストイックなポーズを決めた体格のいい水兵たち。

 「青い水のあるところであれば、世界のどこであろうと、われわれは見張りにつく」とナレーターが言う。中国が領有権を主張している300万平方キロメートルに及ぶ海域を固く守ると誓っている。

 そして「海軍は君を必要としている。大きな復活の夢をともに実現しよう」と呼びかけている。中国を世界の経済・軍事大国に復活させようという習国家主席の「中国の夢」のことだ。

 東・南シナ海で領有権を主張している島の映像の合間には、航行中の戦艦の映像が数多く登場する。その中には海軍が保有する唯一の空母「遼寧」や高度なミサイル駆逐艦などが含まれている。

 「われわれの領土・領海は広大だ。だが、ほんのわずかな国境も他国に譲るわけにはいかない」と宣言している。「海洋権益をめぐる争いは決して終わらない。われわれはほんのわずかな資源も決して譲ってはならない」

 奮起させるようなこうした言い回しに、海洋進出の野心に見合う強力な海軍を構築するという中国の決意が如実に表れていると専門家は指摘する。この野心は中国の周辺国・地域をはじめ米国を警戒させてきた。

 その目的を達成するため、人民解放軍の海軍はこの数カ月の間に、遠く離れた場所でひときわ目立つ活動を行ってきた。3月には内戦下にあるイエメンから600人を超える中国人を艦船が移送し、その2カ月後には地中海で行われたロシア黒海艦隊の演習に海軍のミサイル搭載フリゲート艦2隻が参加した。

 だがそれでも人民解放軍の海軍はまだ過渡期にあり、単なる沿岸警備隊以上の能力を備えながらも、依然として米国海軍のような真の海軍にはほど遠いと専門家は言う。

 シンガポールのラジャラトナム国際研究院のシニアフェロー、リチャード・ビチンガー氏は「(人民解放軍の海軍は)『グリーンウォーター』の海軍だ。つまり沿岸部での活動範囲からは離れつつあるが、千海里ほど離れた沖合で能力を発揮する程度にまだ軍事力が限定されているということだ」と指摘する。募集ビデオは「ブルーウォーター(外洋)での活動遂行能力があるように誇張している」と言う。

 ただ、中国の海軍がブルーウォーターの海軍になるのは時間の問題だとみているアナリストもいる。米海軍情報局は最近のリポートの中で、「次の10年間に、中国は沿岸部の海軍から世界中で複数の軍事作戦を遂行する能力のある海軍へと変貌を遂げるだろう」と記している。

 疑いの余地がないのは、この海軍の募集ビデオのように、人を奮起させるプロパガンダに対する中国の強い好みだ。募集ビデオは9月3日に予定されている終戦70周年を記念する軍事パレードの準備が進められる中で公開された。

 台北を拠点に活動する英ノッティンガム大学中国政策研究所の軍事専門家マイケル・コール氏は、急激に拡大している軍備と大量の兵器を生き生きと描いてみせることで、「(募集ビデオは)明らかにシグナルを発している。それは、地域の諸外国を安心させることが目的ではない。将来、敵対することになるかもしれない相手を怖がらせるのが目的だ。つまり、戦うことなく戦争に勝つためにだ」と述べた。

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