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日本の国民皆保険制度の悪用を狙うアメリカ -高額なアメリカの薬を保険対象にし、医療費を上げる-15.8.12-

アメリカの日本改造の策謀は、前号の特許期間やデータ保護期間の延長にとどまらない。日本の健康保険制度も自らの儲けのタネにしようと虎視眈々と狙っている。

<高いアメリカの薬を日本の健康保険制度の中に移植する>
 一時、日本でも国民皆保険を崩されるのではないかと相当懸念が広まった。年次改革要望書で郵便局の郵貯と簡保が攻撃され続け、小泉郵政改革でアメリカの要求通りになってしまったからである。ところがいつの頃からか小康状態となり、郵便局ほどには文句をつけなくなった。
 カトラー次席代表は、TPPでは混合診療、営利医療企業も含め公的医療保険制度を扱わないと明言した。あまりの日本の抵抗にアメリカが譲ったと思われているようだが、真意は他にある。日本のきっちりした国民皆保険制度(WHOが「健康達成度総合評価」で世界で最も公的医療制度を評価している)の中に、アメリカの高い医薬品をビルトイン(はめ込み)、そこから恒常的保護(つまり政府の補助)を受けて使わせようと方針を変えたのである。つまり、高いアメリカの医薬品を健康保険対象の薬(医療機器も薬事承認と同様のプロセスで保険収載されると、日本でも保険対象となる)として、国のお墨付きをもらい暴利をむさぼろうというのだ。

詰まる所、日本人特に団塊世代の老後は、アメリカの投資商品にされてしまったのである。

<アフラックの次に医薬品メーカーが日本を席巻>
この手法は、アフラック(アメリカンファミリー生命保険)の急変と酷似してくる。アメリカは政府の信用が背後にあるかんぽ保険が、民間の保険会社を圧迫し、更に外国企業の参入を妨げる非関税障壁だ、とさかんにクレームをつけた。一転アフラックの保険を2万の郵便局に扱わせ、政府の信用で日本国民に買わせるという厚顔無恥な結果に持ち込んだのと同じである。今回はアフラックで日本は何でも受け入れてしまうことを学習したのか、文句を言うのをやめて、はじめから活用しようと方針を変えたのである。
なぜならば、大改革のように思われているオバマ・ケアは、実は保険会社が造り上げ、保険で自動的に高い薬を使わせるように仕組み、まんまと成功しているからだ。だからアメリカの医療費が世界一高くなり、医薬品メーカーがほくそえむことになる。フォーチューン誌の選ぶグローバル500企業のうちに名を連ねる薬品メーカー10社の収益が、残り480社の合計に匹敵するという。アメリカの医薬品メーカーにとってはアメリカの医療制度は天国であり、それを日本でも再現しようとしているのだ。困るのは国民であり国家財政である。


<薬価決定の場にアメリカが入り込むおそれ>
 アメリカの図々しい侵入はこれぐらいのことではすまされず、もっとひどくなることが目に見えている。米韓FTAでも両国の医療保護制度が衝突した。私は最近のことはフォローしていないので確かではないが、アメリカは、ひと頃韓国の薬価を決める審議会に、アメリカ薬品企業の代表を入れることに執着していた。最終的には薬価でもめた場合の調整のための独立機関を造らせ、そこにアメリカの医薬品メーカーを入れて言い分が通るようにしてしまった。
 世界の国々はアメリカを除き、何らかの形で医療には国が援助している。どこの国も医療支出(すなわち財政支出)を増やさないため、薬価の決定には国が関与して薬価を低く抑えようとしている。ここで各国と医薬品メーカーの利害が真っ向から対立することになる。そこでアメリカ企業が内部に入り込み高薬価を維持しようとしたのである。
 在日アメリカ商工会議所のトップは元USTRの日本担当だったチャールズ・レイクであり、特許がらみで手を組んだ日本の医薬品メーカーを通じて薬価を高くするために暗躍することが目に見えている。08年アメリカは中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会にアメリカ医薬品業界の代表を入れるように要求してきており、この流れは強まっている。アメリカのやり方はこのような情け容赦ないやらずぶったぐりなのだ。

<もともと薬好きの日本につけ込むアメリカ>
 日本は医療支出に占める医薬品支出の割合だけは20%とOECD加盟国1位であり、5位の12%のアメリカを大きく凌ぐ。つまり、日本人は他の国と比べ、もともと薬代に多額の支出をしているが、これにますます拍車がかかることになる。ところが、日本では多くの人に身に覚えがあると思うが、薬をたくさんもらっても多くを飲まずに捨てている。TPPが成立し、日米の仕組みが変えられてしまうと、この壮大なムダが更に増えることになる。
 日本の医療費は12年で約36兆円、うち公的保険給付は26兆円、国民の自己負担は10兆円、15年は多分40兆円を超えていることになるだろう。ところがこの膨らみ続ける医療費の多くがアメリカの医薬品・医療機器メーカーに行ってしまうことになる。このままいくとアメリカの医療機器で検査を受け、日本の医者に診断してもらい、再びアメリカの医療機器で手術を受け、日本の看護師に診てもらい、バカ高いアメリカの医薬品を飲み続けることになる。こうしてかさむ医療費が長時間勤務をして苦労をしている日本の医師や看護師に行かず、アメリカの医薬品・医療機器メーカーばかりに行ってしまうことになる。
 その前に前号でアメリカの日本への輸出で医薬品・医療機器の分野が1位(8,325億円、11%)になると書いたが、食料品・農畜水産物(穀物類1位、肉類6位、魚介類4位、大豆13位、果実14位)を合計すると1兆2,646億円(全輸出額の17%)と最大となる。食と医をこれだけアメリカに頼るとなるとアメリカに命を預けてしまったと同じである。原中勝征前日本医師会会長はこのからくりに気付きTPPに大反対しているが、大半の医師たちも国民もこの危険に気付いていない。
<国民保険制度瓦解の恐ろしいシナリオ>
  医薬品に占めるジェネリック薬品の割合は、米9割、独8割、英7割、仏6割に対し、日本は僅か4割にすぎない。国境なき医師団」(MSF)によると、エイズの治療薬は特許のない国で製造されて約100分の1の価格になり、800万人以上のエイズ患者が救われている。だから他の国は、先進国も発展途上国も少しでも安いジェネリック薬品にしようと汗をかいているのだ。5,000万人も無保険者のいるアメリカでは薬代が高くて払えない人もいるというのに、日本人はがっちりした国民皆保険に守られて、高い薬に無頓着になっている。
 ただ、これに乗じて、政府がTPP交渉でも医薬品特許で国益を追求しようとしないのは不届き千万である。なぜなら高い薬価によりこの保険制度がいとも簡単に瓦解するおそれもあるからだ。
 まず薬価がアメリカの思ったとおり高くされると医療費が上がり、財政負担が増すことになる。すると当然財務省は出し渋る。総枠は増やせないので人件費が削られることになる。そこでかねてからのアメリカの要求である混合診療が認められるようになる。医師も人の子、儲かる(保険のきかない)自由診療に走る。すると自由診療が増え、多くが民間の医療保険に向かい、アフラックが最終的に大儲けすることになる。かくしてアメリカと同じひどい医療体制になっていく。


次回も、引き続きこの問題について取り上げたいと思う。

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