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消費者契約法改正をめぐる暗闘の始まり?

これまで、あまり世の中の注目を浴びることもなく、ひそやかに進められていた消費者契約法改正の動きが、突如として日経紙の「社説」で取り上げられた*1

「副作用大きい消費者契約法改正の再考を」

と題するこの社説は、ほぼ、タイトルから想像できるとおりの中身となっており、

「消費者保護の強化を狙うあまり、事業者に過大な負担を強いる法改正を進めるのではないか、と心配だ。経済への副作用が大きすぎる規制強化は再考してほしい」

と、これまでこのような動きがあることを知らなかった産業界関係者が読めば、不安で夜も眠れなくなるのではないか・・・と思ってしまうくらい、思い切ったトーンの論調で貫かれている。

書き出しから、現在この問題を議論している消費者委員会の専門調査会(消費者契約法専門調査会)が、「中間報告」*2をまとめたことを契機に書かれた社説であることは分かるものの、当の「中間報告をまとめた」というニュースは、日経紙の一般の記事の中ではまだ報じられていないし*3、それどころか、「消費者契約法改正」の動きがあることさえ、過去にきちんとした形で記事になっていることを目にした記憶はない。

数少ない関係記事として、7月10日付の朝刊に「新経済連盟が消費者契約法の見直しに関する意見書を消費者相に提出した」*4というベタ記事を載せた程度だった日経紙が、これだけ過激な論調で、いきなり「社説」で改正の動きを批判する、ということは、裏で何か動きがあったのかなぁ・・・と勘ぐられても不思議ではない状況だと言えるだろう*5


自分の場合、仕事の中身がこの法律の動きと決して無縁ではない、ということもあって、昨年11月に専門調査会が始まって以降、何が議論されているのか、といったことくらいは、一応フォローはしてきた。

そして、こと進め方に関して言うと、上記社説が「経済界の不満」として紹介しているように、

「事業者の意見を十分に聴いていない」

という批判が出ることも避けられない展開になってしまっていることは否めない、と思う。

専門調査会を構成するメンバーの中に、経済界の声を代弁できる関係者はほんのわずかしか入っていないし、具体的な改正の方向性に関する議論が本格化した3月以降、広い分野の事業者から意見を聞くためにヒアリングの機会が設けられた、というような痕跡もほとんど見当たらない。

消費者契約法が「消費者の利益の擁護」を一義的な目的として掲げる法律である以上、改正論議においても主役はあくまで“消費者”であり、“事業者”が「規制される側」として受け身的立場になることは避けられないのだが、同法が、単なる行政規制的な規律に留まらず、契約の成否や有効性にも影響を与える規律を含む法律であること、そして、民法に比べれば適用場面は限定されるものの、消費者契約に広く適用される一般法として様々な取引の本質にかかわるものであることに鑑みるならば、5年、とは言わないまでも、もう少し慎重に意見を聞いて、じっくりと議論しても良いはずだ。

それが一気に「中間まとめ」まで行ってしまった、ということで、様々な批判を受けることは、やはり避けられない。

一方、上記社説の改正内容に関するコメントについては、少々勇み足のように思える。

というのも、少なくとも「中間とりまとめ」(案)の段階*6では、議論のある論点の多くは、消費者、事業者双方の意見を併記する、という“まとめ”にとどまっており、まだ明確に方向性が打ち出されているとは、到底言えないような状況だし、「方向性」に関する表現も、極めて謙抑的なものにとどまっているように思えるからである。

例えば、上記社説では、「インターネット取引の普及などを背景に、消費者が誤認に基づいた契約を取り消しやすくする」という改正の方向性をやり玉に挙げ、

「『消費者の利益になることだけを言い、不利益になることを故意にいわなかった』という要件の緩和」

「契約を取り消せる『勧誘』の対象を『特定の取引を誘因する目的をもってした行為』に広げ、不特定多数に向けられた広告も場合によっては含める」

という2つの規制が重なることによって、

「事業者にとってはビジネスに大きな影響が出る公算が大きい。」

と書かれているのだが、前記「中間とりまとめ(案)」によると、「勧誘」要件のあり方については、

「事業者が、当該事業者と消費者との間でのある特定の取引を誘引する目的をもってした行為については、それが不特定の者を対象としたものであっても、それを受け取った消費者との関係では、個別の契約を締結する意思の形成に向けられたものと評価することができると考えられる。そこで、事業者が、当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をしたと客観的に判断される場合、そこに重要事項についての不実告知等があり、これにより消費者が誤認をしたときは、意思表示の取消しの規律を適用することが考えられるが、適用対象となる行為の範囲については、事業者に与える影響等も踏まえ、引き続き検討すべきである。」 (10頁)

と本質的な部分については完全にペンディングになっているし、そもそも「特定の取引を誘引する目的をもってした行為」は、「不特定の者に向けた広告等一般を指すものではな(い)」ということが注記されていたりもする。

その後に続く「不利益事実の不告知」に関する記載と併せて読んでも、

「事業者が・・・注意書きを限りなく載せる必要が生じる」(上記社説)

というコメントをしなければならないほど踏み込んだところまで話が進んでいるとは到底思えないのである。


冒頭でも言及したように、基本法に関する大きな法改正や、他の消費者法制(景表法等)に関する改正への対応に追われている中で、「消費者契約法が改正されようとしているなんて知らなかった」という人は決して少なくないはずだから、そういった人々に今起きていることを伝え、危機感をもって情報をキャッチアップしてもらうことで、次の段階での広範囲な意見集約につなげる、という発想はあり得るだろうし、将来に向けて、今、予防線を張っておくことの意義も十分理解できるところではある。

ただ、個人的な印象としては、やっぱり、今、審議されている内容の現状をなるべく正確に伝えていただいた方が、先々には良い結果につながると思っているし、必要以上に突っ込んだ意見を載せたことで、かえってそれが“言霊”となってしまわないか(予期していた最悪のシナリオの方に流れが傾いていったりしないか)という心配もある。


最終的にはなるようにしかならん、というのが法改正の世界の常であり、今回の消費者契約法も当然例外ではないと思うが、できることなら、ここから先、少しでも実りある議論がなされることを期待したいところだけに、今後の議論を追いかける上でも、なるべく誤導にならないような報道等がなされることを、自分は期待してやまない。

今回の「社説」を皮切りに、今後、メディアのアドバルーンを駆使した様々な水面下の“暗闘”も予想されるところだけに、なおさら冷静な議論を、と思うのである・・・。


*1:日本経済新聞2015年8月10日付朝刊・第2面。

*2:正確には「中間とりまとめ」である。

*3:おそらく、8月7日に開催された専門調査会において決定した、ということなのだろうが、週末の紙面に、それを伝える記事は掲載されていなかった。

*4:提出された意見書の内容は、http://jane.or.jp/upload/topic423/topic_1.pdfのとおり公表されているが、この種の意見書にしては極めて強いトーンで「改正の方向性に反対」する意向が示されている、という点で、非常に印象的なものになっている。

*5:特に自分はうたぐり深いので、あの線か、この線化、等々、いろいろ考えてしまう(笑)。

*6:直近の専門調査会に資料として提出されている、http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/other/meeting5/doc/150807_shiryou1_1.pdfをひとまず参照のこと。

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