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頭がいい生き方充実した人生を送るにはどうしたら良いか? 『子どもの頭を良くする勉強法』伊藤塾塾長の伊藤真弁護士インタビュー - 中村宏之

司法試験の受験指導を長年続けてきた伊藤塾塾長の伊藤真弁護士が、このほど『子どもの頭を良くする勉強法』14歳までに教えるべき「生きる術」を上梓した。子供が自分の力で考えて「賢く生きる武器」を身につけ、充実した人生を送るにはどうしたら良いかということを問いかけた本だ。伊藤さんに本書に込めた執筆の思いなどを聞いた。

――司法試験の受験生を教える伊藤さんが、子供の教育の本を執筆した動機はどんなところにあったのでしょうか。

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『子どもの頭を良くする勉強方 14歳までに教えるべき「生きる術」』(伊藤真、ベスト新書)

 私は司法試験や公務員、俗に言う「文系のエリート」と呼ばれる人たちの学習指導をずっとやってきました。試験ですから合格する人がいる一方、不合格の人もいます。圧倒的多数は不合格です。でもそれ以後、どんな人が幸せになるかといえば、試験に合格したからといって幸せになる訳でないし、逆に試験に不合格になったから不幸になるということでもない。

 その後のいろいろな話を聞いていると、試験に合格しなかったものの、民間企業で活躍してこんなに幸せになっているとか、ベンチャーを立ちあげてこんなに頑張っているとか、試験という人生の一時点における一つの能力だけで、人の幸せなんて測れないということが、30年以上やっている中で、実感としてひしひしとわかる訳ですね。ところが大学生ですら、何か目の前の目標だけですべてが決まってしまうかのごとく、恐怖におびえたり、不安を感じたり、中には精神を病んでしまったり、視野狭窄というか物の見方がすごく狭い感じがするんですね。

 どうしてなのか考えて見たときに、小さい頃から優秀といわれる人たちは試験という試験を乗り越えてきた。もっといえば、学校の成績という価値基準が余りにも大きすぎて、そのモノサシにばかりに振り回されている。成績のよい子には、成績さえ良ければ成功するという間違った刷り込みが入り、もうひとつ成績があげられなかった子供たちはだから自分なんかだめだと。司法試験やって弁護士になろうというのは無理な話だと最初からあきらめてしまったりする。一つのモノサシだけで物事を判断してしまうことのもったいなさ、危険性がここにはあります。

 司法試験は文系の試験のいわば究極ですから、今はだいぶ楽になったといいますが、それでも難しい試験です。試験の最終ゴールにたどり着いた人と、最初からあきらめてしまう人と、両方極端にみていて、いろいろな幸せの基準があっていいのではないかと思ったのですね。結局は幸せに生きるためには何を学ぶのかということなのでしょう。そして学びを通じて、自分の幸福感を改めて親子で考えてみようという機会を持ってもらったらいいなと思ったんですね。

 私は憲法を専門にしていますが、結果にたどりつく過程に価値があるというのが憲法の基本的な発想です。結果も重要かもしれないけど、結果以上に、むしろそこまでの過程やプロセスに価値がある。イコール生きてゆく過程、生きるプロセスに大切な価値があるというのが、憲法の基本的な考え方ですから、自分なりの価値観や視点をもって、自分の足でしっかりと生きてゆくことができれば、生きてゆく過程そのものが幸せにつながってゆくのだろうなと思ったのです。

 ですから、そうした生き方をする術を身につけることが勉強だろうと思います。また自分の頭で考えて、自分の価値観や視点をちゃんと持って、自分の足で歩んでゆくことができる、そのことこそが私は頭がいい生き方だと思うんですね。

――少子化社会でも学歴重視の日本独特のカルチャーは変わっていませんか。

 変わっていないし、むしろ強くなっているのではないでしょうか。価値観が多様化している中でも、本音ではまだまだいい大学に行かせたいとか、少子化だからこそ思いが一人の子供に集中していることがあります。今まで子どもは二人とか三人に分散していていたのが、一人の子供に集中すると、余計に子供は負担を感じるような感じになってしまう。親の方も子供が一人なので、この子には成功してもらいたいという思いがより強く出てくる。さらには親だけでなく、おじいさん、おばあさんの期待もある。世帯によって違いますが、塾の費用を出してくれたり祖父母の期待まで集中してしまいます。

――伊藤さんの本を読んでいて「地頭の良さ」の必要性を連想しました。自分で考えて、発想して、行動できる力を涵養しようという思想が本書では貫徹しているような感じがします。

 いまおっしゃった「地頭」の定義は、勉強に関する地頭だけではありません。大学受験で「地頭がいいやつは勉強ができるよね」と良く言いますが、もっと広いニュアンスです。勉強に限らず、周りをちゃんと見る力だとか、人との関係性だとか、相手の立場を想像したり、共感したりする、そういうことも含めての地頭、つまり、知性、理性、感性、すべての総合力みたいな地頭のイメージでしょうか。そうしたものを鍛えてゆくのは重要で、学校の勉強という一部だけをとらえて頭の良さとみるのは非常に残念なことです。

 地頭の良さを、バランスのとれた成長に結びつけていったら、様々なことに対処できる。変化の激しい今の時代、ますます予想外のことが起こります。自然災害もそうだし、事故もそうだし、経済の変化もそうかもしれない。それにどう対処してゆくのか、ということが求められてくると思うんですね。その時に何があってもうまく対処していける力、というのがとても重要だとおもう。変化や多様性に対応できる力と言ってもいいでしょう。ダーウインでないが、大きくて力が強いことよりも変化に対応できることが生き残るために重要なことであり、種の保存だけでなく、一人の個人の人生において、うまく幸せな人生だったと思えるために大切なことだと思うんですね。

 私は人生の成功者になってもらいたいと学生に言いますが、自分が幸せだと思うのと同時に社会の幸せの総量を増やす。私のもう一つのこの本のポイントは、自分がそうなることを通じて、社会に貢献する。社会の幸せの総量を増やすことに貢献してもらえたらうれしいなと思うのです。社会とのつながりを意識できる人間、そこがもう一つのポイントです。これは私の価値観で、みなそれぞれあると思いますが、社会とのつながりが何かを意識できると、私にとってはそれが幸せにつながるんですね。押しつける訳ではありませんが、そういうことも意識してもらえたらうれしいです。

――本書でもう一つ感じたのは、子供の教育のことを説きつつ、同時に親も成長してゆくのだよ、という伊藤さんのメッセージです。

 まさにその通りです。最初この本を作ろうと思って出版社に相談した時に、子どもがどうして「単線の価値基準」になってしまうのかなという問題意識がありました。やはりそれは親のモノの考え方が投影されてしまうところが大きいのだろうと思います。親は子どもがいい大学に入って、いい企業に入ってそれが幸せなんだと期待してしまう。子供は素直ですから、親の期待に応えようと頑張る。本書は子供の頭を良くすると言っていますが、実は親の話でもあります。

 そういう意味で、子供と一緒にいつまでも大人が成長してゆくプロセスの大事さを訴えたつもりです。人間はいつまでも成長できる。14歳までと書きましたが、ちょっと何か学びたいと思った時がチャンスです。自分の人生にとって一番若いのがいまこの瞬間です。これから何年生きるかわかりませんが、きょうこの瞬間が一番若いわけですから、今ここで何を考え、何を行動するのかが大事です。ここから先はいくらでも変えて行けるし、幸せになれるはずです。

 子供とともに成長すると同時に、親にも楽になってもらいたいなという思いもあります。「子供のことはすべて親の責任」と言われたり、「子供がいい大学に入れるかどうかは、お母さんの責任」なんて言われたりもします。親が子育てに責任を感じなくてはならないことはもちろんありますが、親が責任を感じることを少しでも楽にしてあげたいなと思ったのです。

 大人だって、親だって、まだまだ未熟だし、成長過程にあるのですから、子供の前で完璧である必要はない。時に弱みだって見せていい。そういう親の気持ちを楽にして応援したい。特にお母さんなどは一生懸命になっちゃって、かえって子供にプレッシャーになったりする。「お受験」などといわれたりして。もっと肩の力を抜いてもいいんじゃないでしょうか。子供が離れて、場合によって夫婦だけになったりした時に、親は親で自分の人生をこれから先どう生きてゆくかも重要です。多くの会社でも自分が定年を迎えて、ここから先の自分の人生をどうするか。仮に金銭的になんとかなったとしても、気持ちの上で何が幸せなのか。考えることは大事です。

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伊藤真(いとう・まこと) 伊藤塾塾長、弁護士。1958年、東京都生まれ。81年、東大法学部在学中に司法試験に合格。以後、司法試験の受験指導に携わる。著書に「夢をかなえる勉強法」など。

 親子の関係といえば、本書で「親子の関係は、どちらかが死ぬまでずっと続く」と書きました。親子関係は一生続き、仮に夫婦が離婚したって親子の関係はずっと続く。そしてそれはいつまででもいい関係を築くことができる。

 「14歳までに」と書きましたが、それにこだわるということではありません。大人同士になった親子だって、何かあってもいいと思います。実は書いた後、死んだ後も続くと思い直しました。「おやじは生きていた時、こんなこと言ってたよな」などと気付くことってあるじゃないですか。自分が成長することによって、実はもう亡くなった相手から学べること、気付くことはたくさんあると思うんです。親子の関係は死んだ後も続く。お互い学びあえる関係はずっと続くのだと思います。

――最後に、最近の司法試験の状況をどのように見ていますか。制度の変化も大きいようです。

 現場の受験生は本当に気の毒だと思いますが、変化に振り回されて欲しくないと思います。法律家は自分の信念をもって、ゴールに向かってやりたいことを淡々と進めてゆく。情報の価値について、気にすべき情報と、気にする必要のない情報を峻別する能力も、いい法律家になるためには求められている。制度が変わろうが、変な雑音が入ってこようが、自分なりのモノサシがあって、明確な方法論さえあれば、周囲がどう騒ごうと関係ありません。もっといえば、制度の変更は、変化に対応できる力をトレーニングする試練として与えてもらっていると前向きに受け止め、変化をチャンスとして捉えて欲しいと思います。

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