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シェールガス革命と日本の新エネルギー政策の課題

(1)アメリカで発生したシェールガス革命

 アメリカで2012年にシェールガスの開発が商業化に成功し、この導入がエネルギー事業に恵まれないわが国の革命的新エネルギーになるとの過大な期待がもたれているようだが、果たしてこれが本当に経済合理性や地球自然環境保全にも有益なクリーンエネルギーで、将来を展望した自立的で、再生可能や不滅の恒久的に安定供給が可能なエネルギー(Energy―Independence)の確保政策としての正しい選択となるであろうか?

 シェールガスとは、アメリカの中規模の独立ベンチャー系石油開発企業ミッチェル社のジョージ・ミッチェルが20年ほど前から未知・未開の新しい石油ガスエネルギーの探求を目ざす苦労を10年余も重ね、地中の頁岩(けつがん)層から産出される天然ガスを発見し、1998年に水圧破砕や水平採掘という採掘やガス抽出の技法や機械を発案し、ようやく商業化への道を開き、成功を見たものである。

 存在箇所や採掘方法など生産様式は異なるが、ガスとしての品質は従来のガスとほぼ同じ「天然ガス」であるが、生産効率が高まった現在では従来のLNGより割安なものとなっており、市場では従来の天然ガスと一緒に取り扱われており、特別に「シェールガス」という商品はない。

 アメリカでは100年余も前から、地中の奥深い部分の頁岩層に石油ガスがあるということには気づいていたが、硬い貝殻の堆積で生じた頁岩層の小さな隙間に散在しているため、採掘技術やコスト面から経済効率が悪く、従来の石油の方が容易に獲得しやすく商業ベースに合致するエネルギーとされ見過ごされてきたが、近年の未開の資源活用熱の高まりや、開発技術や機器の進歩もあり、また輸入原油価格の不安定さなどから、上記したような商業化の目処が立つようになり、国策的にも国際的にも、改め注目を集め、シェールガス革命とさえいわれるようになった。

 頁岩層から産出される天然ガスだけが脚光を浴びているが、ここからはガスだけでなくオイルなども採取・生産されているので、「シェール・ガス」革命というよりシェール全体の開発が重視される「シェール革命」と捉えた方がよかろう。

(2)シェールガスは将来の世界エネルギーの主体となり得るか?

 シェールガスが生産される頁岩層の地質はアメリカだけでなく、ロシア、中国、アルゼンチンにも存在し、わが国でも積極的に探索を進めれば存在するかもしれない。

 とはいえ、現在のところは限られた比較的に狭い範囲に偏在し、しかも少量が散在しており、資源材としての一定量の存在は認められるが、生産技術や経済採算コスト、投資効率などを加味した商業ベースに合致する埋蔵エネルギー資源量としては些か心もとなく、アメリカならこその成功例といえなくもないので、わが国もとの糠喜びは慎み、将来性、恒久性などを多角的に考量した総合的エネルギー政策の一環としての是非を検討する必要があろう。

 このように、資源材としての存在や量と、実用エネルギーとして埋蔵資源の質や量とは全く異なる概念として考える必要があるのだが、シェールガスについてはこれが混同されてブームとなった感じがする。

 シェールガルの商業化に成功した背景には、アメリカならこそといった要因があり、直ぐに世界のどの国でもというわりには行かない。

 それは、アメリカは広大で豊かな資源に恵まれた領土を有し、わが国や先進ヨーロッパ諸国より未開発な地域も多く、潜在発展力がまだまだ秘められていること、それゆえに商業採算がとりやすいシェールガスの広大な埋蔵地域と埋蔵量に恵まれたこと、国民性として失敗を恐れぬ開拓者魂やベンチャー起業魂が旺盛なこと、彼らを支援するベンチャー・キャピタルや投資家が存在すること、国や特定の権力者が独占的に採掘権や売買取引を支配する他の多くの産油国と異なり、地下資源の所有・売買権がその土地の所有者にあり、自由に活用できること、新大陸開拓当初の歴史的背景からも、地下埋蔵資源の探索・開発知識や技術力に優れ、そのため優秀な機材開発力があったこと、商業化を可能にする先物取引など、開かれた取引市場が整備されていたこと、国際的な各種市場相場の主動・形勢力を支配していること、従来の石油・ガスの既存輸送パイプラインや販売ルートがそのまま活用でき、新たな専用設備の新設を必要としなかったこと、創案主の知的所有権や特許権益が国内・国際的に法的にがっちりと保護されていることなどであり、これらは今すぐ簡単に何処の国でもまねできるというわけにはいかない要素が多分にある。

 アメリカとしては、このシェールガスを新エネルギーの発見、エネルギー革命であると宣伝し、これで輸入に頼らないエネルギーの自国内需要・供給体制の完備という念願の自立エネルギー国になれたばかりか、余力のLNG輸出、開発技術の輸出、特許権益の獲得、海外生産基地進出が可能となり、イスラム圏の石油に左右されない確固たる国際戦略の優位性確保と発揮、世界制覇さえ可能になると沸き立ったのも当然であろう。

 しかしながら、シェールガスの埋蔵地域や、資源量、埋蔵量にしても、現在のところは各国がそれぞれなりに資源量について推計や調査・試掘をしている段階で明確な数値は得られておらず、実用エネルギーとしての埋蔵量については不明確といった状態であり、シェールガスの国際的統括・管理機関もない。

 シェールガスの埋蔵量についてアメリカは、自国だけでも160年分、全世界では700年分はあるだろうと発表しているが、その根拠は不明確で、多分に経済戦略、商業政策的宣伝効果を狙った面があろうことは、石炭、石油、原子力発電の場合もそうであったように容易に推察できる。

 いずれにせよ、石炭や石油よりは埋蔵地域も埋蔵量も限定され、まだ少量・稀少でること、これらと同様に、永久・無尽蔵に存在するものでなく、有限で再生不能な天然埋蔵資源であること、完全無公害でクリーンなエネルギーではないことには間違いなく、地中奥深いだけに生産コストがかかり、技術的にも高度さが要求されるので、それだけの環境や生産能力レベルが整った国でないと、経済採算をとれる実用的エネルギーとしての普及は難しいものであろう。

 石炭でも石油でも、発見、開発の当初は、無限で豊富な低コストエネルギーであるかのようにいわれてエネルギーの主座を得てきたのだが、実際は、普及して需要が拡大するにつれ、逆に採掘地点が露天掘りから地中の奥深く、更には海底にまで及ぶに至り、経済生産性が低下してコストが高くなり、市場取引相場価格も釣り上り、自然界の乱開発が進み公害が多発し、資源枯渇化が深刻化し、花形産業としての企業寿命が短縮、国際的な資源の独占的確保競争も激化してきたし、原子力発電に至っては、再生可能なエネルギーとはいえ、その原子核燃料の保管や再処理施設の整備が追いつかず、万一の事故発生の場合の拡散した放射能汚染の処理・解消技術も未開発なままで急速に開発がされた悪しき前例もあったのだから、優越的な先進大国が宣伝する甘言に踊らされる惑わされることなく、慎重に割り引いて是非を評価・判断し、各国なりの事情に応じた冷静で適切なエネルギー政策の選択が肝要といえよう。

 付言すると、世界の有識者の見解では、現状のままで採掘や消費状態が進めば、世界的な人口の爆発的増加もあるので、石炭の埋蔵量は後約20年、原油の埋蔵量は後約70年で枯渇してしまい、地球環境は後約100年以内で、平均気温が3~5度高まり、大気汚染で人類が健康・快適に生存できない危険水準になると予見されている。

 また、日本の現政権は、原子力発電の再稼働を促進する下心もあってか、太陽熱、風力発電と共に原子力発電まで再生可能エネルギーと称するまやかし表現をしているが、これらの自然エネルギーは再生可能でなく、無公害で永遠不滅のクリーン・エネルギーであり、原子力発電とは峻別して対処すべきと考える。

(3)シェールガスは本当に安いエネルギーの救世主となるか。

 前記したアメリカのような要件を満たす恵まれた国ならともかく、その要件を備えられず恵まれない国が、これを輸入し活用したからといって、直ぐに同時限で、安いエネルギーの安定供給の救世主になるとは到底思えない。

 新たな有益なエネルギーの積極的探求といった理念や思考、挑戦努力は見習うべきだが、下賎な例えではないが、人の褌で相撲をとってボロ儲けとはならず、アメリカ国内でこそ、従来の石油などより安く、邦貨換算で1kwh当たりたったの6円程度のコストで提供出来、石油の約10円、風力の約20円、太陽光発電の約30円より格安で、Co2の排出量も石炭の4割、石油の1割減という商業ベースに合う魅力的なエネルギーになったというが、これは生産者段階のシェールガスだけの価格であり、実際の消費者市場段階では、これだけで商品として提供されることはなく、生産源は異なれと同質の天然ガスエネルギーということで、従来のガスと混合し同じ商品として突っ込み取引されるので、販売市場の相場で価格が高められて決まり、生産業者だけが大儲けといった仕組みになっているようであり、さすがに狡猾で抜け目のない自由資本主義、資源メジャー天国、戦略的情報宣伝活動が得意なお国柄といえそうだ。

 アメリカのシェールガスは今のところ安く、今後10年ほどは安値で推移するであろうとの予測が取引市場の主流となっているようだが、将来も永劫にこれが持続するかは神のみが知るということと、常に相場を主動する大手機関投資機関や資源メジャーが有利で、一般投資家や消費者はカモにされるというのが自由市場経済の通例である。

 その上に、産出地の国内での取引価格と、それを輸出する場合の価格、逆に輸入する国の場合とでは当然輸送コストが係るので異なってくる。しかも天然ガスを輸送するには、ガス状のままで移送できる陸地続きかあるいは海底を通ることがあってもパイプラインが通じている場合と、パイプラインが通じていない遠隔地への輸送の場合とで事情は異なり、このような場合、ガス状態のままでの移送は不可能だからLNG(Liquefied Natural Gas=液化天然ガス)とし、つまり一旦天然ガスを低温で加圧し液化して、さらに主成分のメタンを都市ガス用と工業用に加工して輸送する必要があるので、その分のコストが転嫁されることとなる。

 したがって、輸出・入する当事国間・環境的・地理的条件で事業が大いに変わり、海上に孤立するわが国のような場合は非常に高価な輸入価格となりかねないのである。現在の天然ガスの取引市場は、大きく北・南米大陸、ヨーロッパ地域、日本を含むアジア大陸の3地域に分立し、それぞれで地域性に見合った独自の価格が自ずと形成されているのである。

 地政学的・経済戦略的見地から、ヨーロッパ諸国は、陸続きでパイプラインが結べる産出地でもあるロシアとの繋がりを深め、ロシアはEUと日本を含めたアジア大陸市場とのパイプラインで繋いだ結びつきを強めようと画策し、アメリカは対抗上、そのなってはならじと日本を抱き込み、アジア市場進出への中継・橋脚拠点にしたいと願って画策、出遅れた中国も、アジア大陸の生産拠点としてユーラシア大陸市場の覇者の地位を獲得したいと躍起になっているのである。

 こういった背景があるので、石油市場を主導するアメリカは、目下、シェールガスも含めた石油エネルギー価格の3地域連動性には非常に神経質になっている。

 エネルギー資源価格の今後の推移は、シェールガスや石油の価格だけでなく、太陽光や風力、地熱、潮力などの天然エネルギーやその他の新エネルギーの新開発と、多様なエネルギーの適切な組わせ活用戦略と、3大地域市場間の連動性の如何、地球総体の需要と供給関係の調整と健全化、永年にわたる世界政治の課題である地域・各国の経済、エネルギーの生産と消費の自立性確立に大きく影響されることとなろう。

 故に日本は、アメリカ一辺倒の属国であってはならず、こういった国際情勢の裏事情や動向を深読み洞察し、独立主権国として矜持をもって、巧みな国際外交戦略で立ち回り、その存在価値を高め影響力を強めて、資源の安定確保の面でも優位で万全な体制を固めるべきである。

(4)わが国の将来を決定付けるエネルギー政策が指向すべき道

 急速な物質文明の進展に伴い、地球規模の自然環境破壊が進み、温暖化の異常気象で天然災害が増発するようになり、砂漠面積が増大する一方で、世界人口は、経済・文明先進国では少子高齢化で減少傾向、後進地域では逆に爆発的ともいえる人口増加があり、差し引きでは近い将来、地球の供給力からの受け入れを許容し得る限界人口70億人を突破、その需要を考えると、世界的な需要と供給の関係が人類の有史以来初めての「需要>供給」に逆転することとなり、食料資源、産業エネルギー資源の枯渇化が深刻な世界共通の急務の課題となった。

 そうなると、エネルギー資源と食糧資源は、特定の恵まれた環境の優越的生産国だけの資源賭して特権的に裁量しえるものでなく、地球全人類が共有すべき自然の恵みであり、人類生存の基礎的生命エネルギー資源と考え、世界的な管理下で有効に共有、活用すべきものと考える必要があり、各国それぞれの自国だけの都合や目先の利害・損得だけで、原子力発電が経済的で有利だ、シェールガスが安いから今後のエネルギーの主役になるなどといった時限で将来のエネルギー政策を考えるだけで良しとする時代ではなくなり、全世界、全人類の将来を展望し、っその共生・共存を考えた上で、各国なりの特性や環境条件も深慮し、検討、判断し決定すべきと心得ねばならない。

 地球の、全人類の生存と幸福を深慮した未来永劫のエネルギー資源としての要件を満たす要項は、先ず第1に、未来永劫に枯渇することなく不滅で、持続的・安定的に供給可能なエネルギーであること、第2に、そのためには全世界・全人類・全産業の生存需要に応えられるだけの無限の供給量があること、第3に、世界の特定地域に限って産出・供給されるものでなく、地球上の何処でも存在し、遍く享受・共用し得るものであること、第4に、生産・入手に専門的で高度な知識や技術を必要とせず、誰でもが容易に活用し得るものであること、第5に、生産・入手コストが安く、維持・安全管理費用も軽微であること、第6に、人畜無害、大気汚染や産業公害を輩出せず、万一の天災や事故発生の場合でも絶対に安全・無害であることであり、産業優先のための人間生活犠牲がないこと、第7に、地球の自然環境を破壊せず、その保持にも有益であることなどである。

 石炭・石油・原子力発電など現在の主要エネルギーは、いずれもこれらの条件に反する各種公害発生、大気汚染、自然破壊の典型といえ、従来の殖産振興、経済優先、人間生活犠牲の考え方は本末転倒であるから好ましくない。

 これらの条件を全て満たす最適エネルギー資源となれば、やはり大宇宙大自然の恵みである太陽光、風力、潮力、地熱などであり、これら人類共有の貴重な財産ともいうべき天然エネルギーの他には無いということに帰結する。

 これなら、国土が狭く天然埋蔵資源も乏しく、資源を輸入するにも島国であるから輸送コストが嵩むので不利とされるわが国にとっても、自然環境なら豊かで恵まれているが故に、逆にむしろ有利であり、積極的に有効活用できるものあろう。

 問題や災害が実際におきてから、その解消・復元に係る費用や努力は、それを事前に予防するための安全安心対策にかかる費用とは、比較にならないほど高くつく。

 「資源の自立的安定確保を制するものが世の中を制する」ということを肝に銘じ、日本が、全世界が、地球の人類の将来に向けての正しいエネルギー政策の選択を誤らないことを祈念して止まない。

著者プロフィール

経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)

幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。

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