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王貞治、荒木大輔、清宮幸太郎! なぜ、早実は「怪物1年生」を上手に育てるか - プレジデント探検隊【13】

フリーライター 清水岳志=文

早実入学3日後にレギュラー獲得、その時、先輩は

その太めの体型の一塁手はベンチ前で先輩にお尻をポンポンと叩かれ苦笑いをした。

今夏の甲子園、話題の中心は西東京代表の早稲田実業だろう。スポーツ紙は連日、1年生の清宮幸太郎選手の一挙手一投足を一面で伝えている。

清宮の父親は昨年度、日本選手権で優勝したラグビートップリーグのヤマハ発動機の監督、清宮克幸氏。清宮監督のラグビー歴がまたすごい。高校ジャパンのキャプテン、早稲田大学でも入社したサントリーでも選手、監督として日本一になっている。2019年の日本でのラグビーワールドカップでは「監督をしたい」と言ってのける。そのカリスマを父に持つのが幸太郎なのだ。

以前、アメリカで行われたリトルリーグの世界大会に出場。史上最長94メートルのホームランを放ち、現地のメディアに「和製ベーブ・ルース」と言われた。投げても、127キロを記録してチームを「世界一」に導いた。早実中等部に在学していた13歳の夏のことだ。この時すでに身長183センチ、94キロだったというからまさしく「規格外」だ(現在は184センチ、97キロ)。

そして、名門の調布シニアを経て今春、早実高等部に入学した。

冒頭のシーン。西東京大会予選、早実の2戦目だった都府中西とのゲーム。一塁を守っていた清宮の前に打球が飛んだが、ゴロを取り損ねてエラー。得点を許してしまう。チェンジになって、苦笑いをしながらベンチに返ってきた清宮に主将で捕手の加藤雅樹が「ドンマイ」と尻を叩いてはっぱをかけたわけだ。

あとで聞いたら、加藤は「気にするなよ」と声をかけたのだそうだ。清宮は前日の試合もエラーをしていて、「ベンチに戻ったら、ほっぺたをつねられた」と語っている。お尻もほっぺも、上級生にかわいがられている証拠だろう。

清宮本人は入学当初に早くもこう話していた。

「周りの上級生がやりやすい環境を作ってくれる。気負わずのびのびやれている」

立川の多摩川河川敷にある球場にはまだ、桜が咲いていた。

入学式から3日後、背番号19ながら1年生がいきなり3番一塁でスタメンに起用された。企業で、入社式を終えたばかりの新入社員がいきなりプロジェクトのサブリーダーに指名されるようなことはないだろうが、やり手の20代若手が抜擢されることはある。それが組織・チームに与える影響力は小さくはない。一か八かの方向転換。手堅くそれまでのレギュラー(ベテラン社員)を「スタメン起用」するほうが結果が出る可能性もある。

そんな周囲の不安やざわつきをよそに本人は堂々として臆することなく、また上級生も特に1年生だから、という過剰な意識をしているような雰囲気には見えなかった。この日、和泉実監督はインタビューにこう答えた。

「慣れるためにたくさん、打たせたかったので3番で使った。先輩と馴染んでやっていた。上級生がフォローしていて温かさを感じた」

加藤が言う。

「自分が1年生の時、やりやすい環境を作ってもらった。今は自分がそういう環境作りをしてる。(清宮は)落ち着いてやっていたと思います。自分はおどおどしていた。いい仲間が入って、自分のモチベーションにもなってる。普段は1年生らしくかわいい。気を遣うな、盛り上げて行けよと言ってます」

王貞治、荒木大輔……なぜ、早実で1年が活躍するか

加藤も1年の春から公式戦に出場し、2試合目から4番を打った。2年前にも同じような状況があったのだ。早実では素質のある選手が下級生からゲームに出ることは少なくない。かつての王貞治、荒木大輔しかり。

「力が同じだったら下級生を使う。次の年にも経験が残ってチームが繋がっていく」(ある早実OB)

そんな伝統が受け継がれているのかもしれない。早稲田大学の校歌ではないが、早実野球部の監督には代々「進取の精神」があるのだろうか。

荒木大輔も雑誌(週刊ベースボール9月1日号増刊)にメッセージを寄せている。

「伝統的に学年の分け隔てがない。責任は上級生が背負うから1年生は甘えていい立ち位置にいる。清宮は私や王さんと同じ、1年から甲子園出場の機会を得た、自分のプレーに集中すればいい」

王は1956年の1年夏、荒木が1年生でデビューしたのは1980年。その時代から1年生がレギュラーとしてゲームに出て、力を発揮できる土壌が早実には作られていた。

清宮への対応は学校、連盟としても難しい問題だった。地方大会中、監督、加藤主将と清宮の3人のインタビューを特別に部屋をセッティングして行った。大阪の本大会中も混乱が予想されるため、宿泊ホテルを警備しやすいホテルに変更する、など異例づくめだ。

特別扱いとなれば多感な年ごろでもある。ナインとの距離も出来て、組織はギクシャクしてもおかしくない。そうならための事前の組織づくり、相互理解が重要だろう。

清宮自身、自分の置かれた立場をよく理解している。チーム内でチヤホヤされるヒーローなら敵も生まれるものだ。しかし、早実にそんな空気は感じられない。

「1年なのに3番を打たせてもらっている。出られない3年、2年生のために打ちたい。物おじせず先輩を引っ張っていきたい」(清宮)

受け答えは加藤に比べたら、敬語が抜けたり生意気に聞こえたりすることもある。1年生らしさがあまりなく、ややふてぶてしくて生意気な印象を受ける、といった声も確かにある。

でも、練習や試合の都度、行われる会見では嫌な顔ひとつせず対応する。これは、1年生には案外難しいことだ。受け答えは、基本、はにかんだ笑顔。囲み取材はいつも彼の漂わす愛嬌によって、なごやかな感じになる。まだ上手には言えないものの、監督や先輩に対する感謝やリスペクトの気持ちも感じられる。

怪物1年生という「異物」でチームに化学反応

西東京は日大三高が優勝候補だった。

早実は予選のはじまりのゲームでは投手が打ち込まれ、エラーも出た。それが準決勝では日大三高に完封勝ち、決勝は5点差逆転勝ちだった。清宮もタイムリーヒットを放っている。

和泉は優勝後の会見で言った。

「清宮が入ってチームが変わった。清宮に引っ張られたところもあった。あっけらかんとして子供っぽいところもあるが、3年生中心に周りが彼を活躍させる環境を作っている」

予選の決勝。5点差をひっくり返した8回、シングルヒット、四球を積み重ねた回だった。

「あのイニングはチームになった気がする。個人も大切ですが繋がることが大事。清宮も感じたはずなんです、そんな気持ちを。今年の早実にはあの意識は大切だった」(和泉)

1つの秀でた個が加わって、化学反応を起こす。目標が定まって日々を過ごし、経験を重ねて強固な組織を作っていく。1試合ごと、早実は成長し西東京を勝ち抜いた。

全国大会が始まってから今年で100年目の夏の甲子園。その第1回に出場した早実が1世紀を繋いで今年、何を残してくれるだろうか。そして、怪物・清宮がどんな暴れ方をしてくれるのか。同校に定期的に出現する「1年生スター選手」の元祖、王貞治は、西東京予選で大活躍する後輩の怪物1年生についてコメントしている。

「(清宮は)やっぱりすごいね。打てる人は打てるんだよ」

※文中敬称略

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