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安保法案とかの前に、イラク戦争の検証を! の巻 - 雨宮処凜

 7月29日、30日、参議院の安保特別委員会で山本太郎議員が質問に立った。

 安保関連法案を巡って、山本太郎VS安倍晋三という戦いの火蓋がついに切って落とされたのだ。日本が「戦争できる国」になるのか、ならないのか。多くの人命がかかったテーマを巡る攻防戦。文字通り「後方支援」をつとめるのは山本議員の優秀な秘書、スタッフ、そして前回書いたチームの面々である。

 2日間とも、傍聴席で手に汗握りながらその瞬間を見つめた。

 29日の質問は、山本議員お得意の原発問題が大きな柱だ。政権は安保法制とか言って「中国が!」「北朝鮮が!」とか危機感ばかり煽ってるけど、もし原発に弾道ミサイルが直撃した場合、どういう準備してるの?

 ものすごく簡単に言うと、この日の質問のメインはこういうことだ。そうして山本議員は攻めていく。

「川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル等攻撃の直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定しているか」「もしもミサイルで原発が破壊された場合、何キロ圏までの避難計画を立てているのか」
(山本議員)

 これらの質問によって、「知りたくなかったかも…」と思ってしまうような事実が次々と明らかになる。例えば、原発に弾道ミサイルが直撃した場合、どのくらいの放射能が放出されるか想定していないこと。なんの根拠があるのか、なぜか事故なんかで漏れる放射能放出量が東電福島第一原発事故の1000分の1、100分の1とかで想定されていること。原発にミサイルが直撃しても、「事態の推移」を見つつ、避難等対象範囲を決めていくということ。

 山本議員はこれらの答弁に対し、「事態の推移、要は一度被曝して頂くという話ですよ」「要はシミュレーションしていないんですよ」「また泣き寝入りですか?」と怒りを露わにする。
 
 現在、安倍政権は「A国がB国を攻撃した場合」など、「仮定の話」を持ち出して安保関連法案を強引に成立させようとしている。しかし、「原発に弾道ミサイルが直撃したら」という「自分たちにとって都合の悪い仮定」には一切目を瞑り、果ては原発の再稼働まで進めているのだから狂気の沙汰としか言いようがない。

「都合のいい時だけ想定や仮定を連発しておいて、国防上ターゲットになり得る核施設に関しての想定、仮定はできかねますって、どれだけご都合主義ですか」(山本議員)

 思わず傍聴席から「そうだ!」と叫んでしまいそうになったが、傍聴席では拍手や賛否の表明などは一切禁止。34分の質疑が終わる頃には、喉がカラカラになっていた。

 さて、翌日も質問だ。この日のテーマはズバリ「イラク戦争」。

 まずは冒頭で、名古屋高裁で違憲判決が下った航空自衛隊による輸送の実態が明かされる。航空自衛隊がイラクで活動を始めた2004年3月から最後の空輸があった08年12月までの全記録によると、輸送したうちの6割以上が米軍、米軍属。

 人道復興支援と言いつつ米軍を空輸し続けてきた果てに何が起きたのか。イラク戦争開戦直後を別にすると、07年の1年間はイラクにもっとも激しい空爆がなされ、もっとも民間人が犠牲になった年でもあったのだ。この1年間の空爆の数は1447回。そしてこの時、安倍首相は第一次安倍政権で総理大臣をつとめていた。

 質問では、安倍政権が「絆」を深めたがっているアメリカが、ジュネーブ条約など国際人道法、国際人権法違反の常習犯ということが明かされる。山本議員はジャーナリスト・志葉玲氏がイラク・ファルージャで04年に撮影した「アメリカの攻撃によって黒こげになった救急車」の写真を提示する。そこに刻まれているのは紛れもない戦争犯罪だ。そうして山本議員は、ファルージャの作戦に参加した兵士の証言を紹介する。

「武器を持つ人間を見たら殺せ。双眼鏡を持つ人も殺せ。携帯電話を持つ人は殺せ。何も持たず敵対行為がなかったとしても、走っている人、逃げる人は何か画策しているとみなし、殺せ。白旗を掲げ命令に従ったとしても、罠とみなし、殺せと指示した。ファルージャで僕たちはその交戦規定に従った。米兵たちは、ブルドーザーと戦車を使って家屋をひとつひとつひき潰し、人間は撃ち尽くしたから、犬や猫や鶏など動くものは何でも撃った。動物もいなくなったから死体も撃った」

 これらは一部のおかしな米兵が暴走してやったことではない。組織として、軍法の最高権限を持つ部隊の法務官がそう命令したのだ。そうして山本議員は言った。

「総理、アメリカに民間人の殺戮、当時やめろと言ったんですか? そしてこの先、やめろと言えるんですか? 引き揚げられるんですか?」

 これに対する安倍首相の答弁に、思わずその場に崩れそうになった。そもそもなぜ米軍や多国籍軍がイラクを攻撃したかと言えば、大量破壊兵器があったからとか、「ない」と証明しないイラクが悪いとか、そんな内容。

 しかし、誰もが知るように、戦争を始める一番の口実であった「大量破壊兵器」は、そもそも存在しなかった。しかもイラク戦争が始まる前、査察は700回にも渡っていたのに発見されていなかったのだ。国連監視検証査察委員会の委員長ハンス・ブリクス氏は、アメリカとイギリスに「大量破壊兵器は一体どこにあるのか、もし教えてくれればそこに査察に行きましょう」と提案。100カ所くらい教えられたそうだが、30カ所ほどを査察したところで戦争が始まってしまったのだ。

 こんな「間違った戦争」を、当時の小泉政権は世界に先駆けて諸手を上げて支持した。そして多くの民間人が殺戮されることに加担した。そんなイラク戦争を支持することに、安倍首相ももちろん当時、賛成した。

 イラクでは、戦争から12年が経った今も泥沼が続いている。IS(イスラム国)が台頭してきた背景にはイラク戦争があることは誰もが知る通りだ。そして私たちがこの十数年で学んだことは、「テロとの戦いは終わらない」ということだ。報復が報復を呼び、憎しみが憎しみを生み、そして犠牲者の数ばかりが増え続ける。イラク戦争開戦時から現在まで、イラクの民間人死者数は数十万人に上る。戦争から11年後の2014年の1年間だけでも1万5000人以上が爆弾テロなどで亡くなっている。しかし、戦争への「加担」を決めた人々は、誰一人責任を問われていない。はからずも7月31日、東電の旧経営陣3人が強制起訴されることになったが、イラク戦争支持の責任はまったく一切問われていない。

 そうして今、そんな間違った戦争に加担したことへの総括も検証もないまま、この国は自衛隊の活動を拡大し、集団的自衛権行使に向けて突き進もうとしている。

 イラク・ファルージャで生まれる子どもの14・7%が今も先天性異常を抱えているという。障害を持って生まれてきた子どもたちの多くは、わずか数時間で命を落とすそうだ。がんにかかる確率も他の地域の12倍以上。劣化ウラン弾など、戦争で使われた有害兵器の影響が指摘されている。悲劇は今も、リアルタイムで続いているのだ。イラク戦争に加担したこの国がすべきことは、医療支援など、まずは命を救う取り組みではないのか。

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参議院の前で。持っているのは傍聴券。

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