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弁護士「検索」の落とし穴 

 インターネットの普及によって、一般市民の弁護士へのアクセス方法は大きく変わりました。弁護士におよそご縁がない一般市民が、弁護士を探そうと思えば、まず、いまやどの家庭にもあるPCなどからネット環境を利用するのは、当たり前のことになっています。

 それは、もちろん同時に弁護士にとっての集客ソースとしても、注目される形にはなりました。そこを「ビジネスチャンス」として推奨する側からは、弁護士に対して、インターネットがいかに「弁護士探しのツール」として、もはや無視でない存在として普及しているかについての、調査結果も示されています(弁護士マーケティング研究会アンケート調査報告)。

 こうしたインターネットが変えた市民側の対応の現実そのものを否定する弁護士は、ほとんどいません。しかし、弁護士アクセスの方向性として、現状が望ましいものなのかについては、弁護士のなかには依然として強い否定的なとらえ方があります。

 こうしたとらえ方は、とかく新たな環境変化に対応できない弁護士の古い体質だとか、現にネットを利用している同業者がいるなかで、あたかもやっかみを含んだ「負け組」の発想のような扱いもなされます。しかし、どうもここにも、弁護士側から社会に対して、伝え切れていない現実が、存在しているように思えます。業界外の人間と話していると、前記インターネットの利便性と、弁護士にとってのビジネス・チャンスという観点の前に、弁護士側にある現実的な懸念論が、いかに打ち消されてしまっているかを感じるのです。

 インターネットによる弁護士アクセスを懸念する見方がいうのは、むしろその利便性の落とし穴といっていいものです。ツールとしてのこの環境を駆使すること自体が悪いわけもありませんが、問題は現実的に検索などで上位にアップされた弁護士へのアクセスで、「弁護士探し」が終了してしまう可能性にあるといっていいと思います。

 以前、小川義龍弁護士が自身のブログで、このテーマを取り上げていました。詳しくは是非お読み頂ければと思いますが、検索サイト上位の弁護士や法律事務所の中には、広告宣伝費にお金をかけ、大手企業並みにお金をかける弁護士や法律事務所が、一般利用者にとって必ずしも望ましい弁護士へのアクセスにならないカラクリを分かりやすく説明しています。

 要するにここでいわれているのは、一般の法律事務所を基準として考えた時、その多額のSEO費用やWebサイト制作にかかる費用を捻出できる環境の柱が、「大量生産」による弁護士業務の展開にあるという点です。

 結論から言うと、ここから先のことが前記したように一般に周知されず、弁護士への批判的な論調のなかで打ち消されてきた最大の理由は、弁護士の業態への理解不足そのものにあるということになります。これまでも書いてきたように、一般的な弁護士業務においては、他の業種で考えられるような薄利多売化が難しい現実があります(「弁護士『薄利多売』化の無理と危険」)。そして、逆にその薄利多売化を可能になるためには、「定型業務」というある種の条件が満たされる必要があることを、この業界のほとんどの人間は知っているのです。

 小川弁護士は「大量生産」しやすい弁護士業務の代表例として、個人の借金問題、交通事故、残業代請求を挙げています。弁護士広告との関係でいえば、2000年に弁護士広告の原則自由化が実現しても、大きな動きを見せなかった弁護士の広告活用が、大きく広がりを見せ始めるのは、過払い金返還請求に道を開く最高裁判決が出た2006年以降という見方もあります。「大量生産」を可能にする「定型業務」という条件を満たした「過払い返還」が、ネットを含めた弁護士の広告にマッチし、そしてその拡大を後押ししたということです。

  「定型化」になじまない、多くの分野を手掛ける弁護士は、ネットなどに広告費支出してまで「大量」受注という発想には立ちにくい。逆に費用を投入してサイト上位を占める一部の大量生産・定型弁護士に目が集まり、そこで弁護士探しが終了すれば、本来、そうした分野以外で弁護士を頼りたい市民はたどりつけないだけでなく、むしろ自らに適した弁護士が市民の選択肢から外れてしまう、ということなのです。

 もちろん、前記した薄利多売化に関していえば、良識的な弁護士には、「できない」ではなく、「すべきではない」という発想もあります。「過払い」以降も「定型ビジネス」にまるで開眼したように、生き残りをかけて、その妙味を追求しようとしているようにみえる弁護士たちもいます。しかし、多くの弁護士は、むしろ「定型化」できないものを大量に処理して利を上げようとする試みの危険性の方に着目しています。あるいは依頼者にしわ寄せがいく「手抜き」以外、その先に待っていないことを知っているからです(「『手抜き』という当然の展開」)。

 前記したような弁護士の時代遅れ、「心得違い」で片付けようとする人のなかには、あくまで広告・宣伝そのものは、依頼者市民にとってのアクセス機会であるとして、その先の選択の結果については、お決まりの自己責任論をあてはめる方もいると思います。しかし、残念ながら、弁護士性善説に立たない以上、この懸念は、社会にフェアに伝えられておかなくてはならないはずです。そのうえで、自己責任論を受け入れるのかという問題になります。

 こうした現実を踏まえて、インターネットを活用した弁護士探しの注意点についても、小川弁護士はその後のブログエントリーで書いています。しかし、この大量生産・薄利多売困難の業態を前提とした弁護士と広告の関係性は、これまで十分に社会に伝えられていないばかりか、そもそも弁護士会内の広告解禁議論でも突っ込んだ議論がされた印象がありません。

 「弁護士に広告はなじまない」という根拠には、しばしば「品位」という言葉もあてはめられましたが、今にしてみればそのことが果たしてよかったのかどうか。なにがどうなじまず、そのしわ寄せは現実的にどうなって依頼者市民に来るのかについて、利便性やビジネスチャンスという言葉に引きずられずに考える必要があります。

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