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TPP・総論賛成各論反対の応酬

ハワイで行われたTPP交渉での「大筋合意」は見送られました。このような多国間が関わる物事は、自国の報道だけ見ていると木を見て森を見ずということになってしまうので、他国のニュースサイトも見てみました。そのうえで主要国のお家事情を見てみたいと思います。

まずアメリカです。元々TPPはシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヶ国間で2005年に調印し翌年発効した地域協定ですが、アメリカはこのTPPに目を付けたわけです。アメリカが目を付けるということは、世界覇権のためのツールとして「使える」と思ったわけで、TPPは中国を牽制しつつ、かつアジアのマーケットに参入出来る機会だと捉えたことでしょう。

そのアジアのマーケットに日本が入っていることも言うまでもないことです。日米FTAが前に進まず、WTOでは日本に提訴されて幾つかアメリカも痛い目に遭っているので、TPPで他国を巻き込みながら日本に対するアクセスも強めるという一石三鳥的な思惑があったわけです。

WTOは、戦前に各国がブロック経済と呼ばれる市場囲い込み戦略をやってしまい、それが植民地化による支配と資源争奪戦に発展したという反省も踏まえて、そうした囲い込みは止めましょうねという反省のもとでGATTという協定を作り、それが発展してWTOという機関に発展したのですが、なんだか結局時計の針が元に戻ってるよという正しいツッコミの声がもっと欲しい気がします。

結局、中国の成長と連動していて、中国にアジア市場を独占されてたまるかという危機感も強いのと、中国が最近アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、よもやイギリスが寝返って参加してしまうという事態に及び、オバマ大統領としては益々中国を牽制するためにもTPPの妥結は政治的成果として欲しいところでしょう。

オバマ大統領は、イランとの核廃絶の動きやキューバとの国交正常化に向けた動きなどの成果も上げていると思いますが、平和が進むという清々しさだけでなく、「実利」を伴う成果が欲しいと思うのは自然な成り行きでしょう。また、TPPに関しては共和党も妥結を望んでいて、TPP交渉を後押しする貿易促進権限法(TPA)も上下両院で可決したということもあって、成果を出しやすい状況にもあるでしょう。

長々とアメリカのことをお節介に書きましたが、要は今回の合意見送りで一番痛手を受けているのはアメリカだと言いたいのです。

この点、なぜ妥結出来なかったかと言えば、各国のニュースを比較して見ると、乳製品、砂糖、知的財産などが主要争点として浮かび上がっています。もちろん交渉が秘密なので詳細は分からないのですが、多方絞り込まれていることは伺えます。

日本の記事を見るとニュージーランドが乳製品でゴネたというような印象の記事になっていますが、ニュージーランドの新聞記事を読んでいると、薬に関する知的財産権がキーであることが分かります。ニュージーランドやマレーシアなど、自国で薬を作っていない国にとっては、安価で薬が手に入ることが死活問題になります。

一方でアメリカにとって製薬業界は巨大なロビーストの一つであり、毎年100億円以上もロビー活動に資金を投じ、政治家に対しても多額の献金を行っています。アメリカは新薬の最大の開発国であり、特許期間が長ければ長いほど新薬の利益が高くなるという構造にあり、ジェネリックなどが出回られては堪らないという事情があります。

たとえばニュージーランドにおいても、乳製品は重大関心分野の一つではありますが、薬の価格上昇は全ての国民に影響する問題であり、とても国内の議会を通過出来るとは思えないという感触があるのでしょう。私は、最後まで揉めるのは結局ここではないのかという気がしてなりません。

で、一方の日本ですが、既に農業分野ではわかっているだけでもかなり譲ってますね。ハッキリ言って「聖域なき関税撤廃」に近いのではないかと思いますが、最終的に交渉が妥結してその内容が明るみになった場合、国内を説得し切れるのでしょうか?民主党政権時代にあれだけTPP反対の狼煙を上げて怪気炎を上げていた自民党が、最後はどう説明を付けるのでしょう?

私はTPP推進論者ですが、無理な妥結は禁物だと思っています。各国ともにエゴをむき出して脅し透かし口八丁手八丁で交渉しているわけです。域内貿易の推進は不可欠ですが、TPP一本槍は危険です。WTOを軸として、日中韓FTA、日欧FTA、RCEPなどの他の枠組みとも両睨みになりながら、一歩引いた目で慎重に考えても良いと思います。

たとえばオーストラリアに関しては自由連合のナショナルズ(国民党)はTPPの内容に強い不満を持っていて、造反をほのめかす議員もおり、最終的に国内で批准される確実な見込みはありません。

くれぐれも安保法制のように前がかり、前のめりにならないように。今でこそ安保法制が注目されてTPPのニュースが小さく扱われてますが、いざ合意されたらてんやわんやになることは間違いありません。もちろんその時は安倍政権に対し徹底的に突っ込みを入れますが。

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