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【LGBTの権利と社会的結束】~ザルツブルグ・グローバルセミナー、杉山文野氏に聞く~


1947年にハーバード大学の卒業生等が立ち上げた「ザルツブルグ・グローバルセミナー」は各国、各界の分野で活躍する30代〜40代の人材を対象に、LGBTに関わるグローバルな課題の解決に向け論議の場を設けている。オーストリア、ザルツブルグのレオポルツクローン宮殿で年に数回開催されるセミナーは、その時の課題に携わるリーダー達が世界各地より集まり、およそ一週間にわたって合宿形式で交流を深め、議論し解決策を模索する。

去る6月14日から6日間に渡って行われたセミナーのテーマは、「LGBTの権利と社会的結束」。今回、日本代表3名のうちの1人、杉山文野氏にセミナーの様子を聞いた。 

参加者はヒューマンライツやセクシュアルライツの代表者等、映画監督、フォトグラファーなどといった多様な人材が世界中から招待された。課題解決のための議論をメインにした6日間の共同生活は、多国籍、異文化、異業種の壁を乗り越え、より多くの人とコネクションを作るという大義があったと杉山氏は振り返った。

スピーカーとしてセミナーに招待された経緯について杉山氏は、自分がLGBT活動家であったり、トランスジェンダーであったり、”東京レインボープライド2015年”(注1)の共同代表者であるという理由もさることながら、経営者であり、フェンシング元女子日本代表のアスリートでもある自分の多面性が注目されたからではないかと話した。

2日目のディスカッション・フォーラムに登壇した杉山氏が取り上げたテーマは、「差別による社会的経済への影響」。 自身も飲食店を数店経営する立場から、日々向き合わずにはいられない課題である。LGBTの差別や知識の欠如によりどれだけ社会的に損失があるのかという問題をプレゼンした。

一つ目の問題は、就活時や雇用時の職場での差別や、同僚や雇用側の無知だという。企業が「スタッフを雇用する時に、LGBTを中に入れないということで(良い人材の)雇用の機会を逃している。」また、「折角雇った所で職場環境がLGBTにとって働き安い環境じゃないと、結局離職してしまい、再雇用ということになり、さらにコストがかかる。」と、その負のスパイラスを指摘した。

またインタビューの際、ゲイやレズビアンとトランスジェンダーの就職時の状況の違いについて、「ゲイ、レズビアンの場合は最悪、言わなければ分からない」が、「トランスジェンダーの場合は、見た目が変ったり、戸籍の事があったりするので、言わざるを得ない」という。

とはいえ、日本ではまだトランスジェンダーが職場でカミングアウトする事自体スムーズに行く訳ではなく、結局、性別移行を済ませた上で過去の事を伏せたまま就職せざるを得ない例が多いようだ。

それに加え、トランスジェンダーが性転換手術を行う際、手術休暇の必要性や手術前の不安などの相談がし易い職場環境や、回復後に職場復帰ができる環境と理解がまだ不足していると杉山氏は指摘する。これではいくら優秀な人材でも就職先の選択範囲は狭い。

こうした中、ダイバーシティに注目している企業が増えつつある。2011年から学生向けにLGBTリクルーティングイベントを開催している金融企業の大手、ゴールドマン・サックスでは新入社員向けのLGBT研修も実施している。研修はセクシュアル・マイノリティーの人々が働き易いように職場環境を整える為であり、当事者達だけではなく、同時にストレートの社員をも教育するといった意図がある。IBMもグローバル・ビジネスには不可欠な「ワークフォース・ダイバーシティー(人材の多様性)」を重視した姿勢と取り組みを発信している。両社とも外資系ではあるが、トヨタ自動車、ソニー、日産、ソフトバンク等、LGBTをサポートする日本企業は間違いなく増えている。

セクシュアル・マイノリティーが働き易い環境や周りの理解と知識が一般企業の間でも促進すれば、カミングアウトはし易くなり、当事者達は仕事のパフォーマンスも発揮できるのではないか。スタッフが離職してしまうことを少しでも防げれば、企業側のコスト削減にも繋がるはずだと杉山氏は述べた。

もう一つ注目すべきは、LGBTマーケットに向けた商品開発のアプローチである。例えば、携帯電話の家族割引プランを同性カップルにも提供する、ティファニーの婚約指輪の広告に同性カップルモデルを起用する、といった案だ。国内人口の7.6%を占めるLGBTのコンシューマー層をターゲットにしたマーケティングにより、大きな経済効果が期待できると、杉山氏は指摘した。

最後に杉山氏は、LGBTが抱える社会的ストレスによる精神疾患と医療費の問題を上げた。社会の知識と受け入れ体制がまだ乏しいことから、当事者達のメンタルヘルスが懸念される。社会の知識とケアを改善することにより、メンタルヘルスにかかる医療費削減も後に経済効果に繋がるという見方だ。

加えて、正しい知識を社会に提供するには学校教育が重要だと杉山氏は述べた。残念ながら教科書の改定は10年に1度というサイクルの為、その実現はまだまだ先の話になりそうだが、今後LGBTの問題を教科書で扱うのは必須だという。教育する必要があるのは子供達だけではなく、その親や学校も含めての事だ。

人口の残り92.4%(注2)にどの様にアプローチするかということも差別を軽減するには欠かせない戦略の一つだと杉山氏は述べた。苦しみや辛さのアピールではなく、先に紹介したティファニーの婚約指輪の広告案などのように、ハッピーなイメージで社会の意識を変えていくことが手段ではないかというコンセプトだ。一方で、そうしたアプローチを良く思わないLGBTの人もいるという。杉山氏はそういった当事者達も含め、今回のザルツブルグ・グローバルセミナーの主テーマでもあった「社会的結束」に人々を導くことが、自身の役割であると述べた。

注1) 東京レインボープライド2015ではLGBT当事者並びにその支援者(Ally)と共に、「“生”と“性”の多様性」を祝福し、つながる「場」を提供する。主なものとして、「パレード&フェスタ」を開催し、「レインボーウィーク」というキャンペーンを実施している。
引用元:http://tokyorainbowpride.com/about-us/

注2)株式会社電通におけるダイバーシティ(多様性)課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」(以下、DDL)は、全国の69,989名を対象に、LGBTを含む性的少数者=セクシュアル・マイノリティ(以下、LGBT層)に関する広範な調査を実施した。その結果、LGBT層に該当する人は7.6%、LGBT層の商品・サービス市場規模は5.94兆円となりました。 

加えて、今回の「LGBT調査2015」では、LGBT層を支援・支持する一般層にまで広がる消費傾向が浮かび上がった。DDLではこの傾向を "レインボー消費"と名付け、今後、新たな消費の形として深掘りしていくとしている。
引用元:http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0423-004032.html

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