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徴兵制は未来永劫ありえないか

首相「絶対」「断じて」「いささかも」断言連発の理由
2015年7月31日 朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/ASH7Z53QFH7ZUTFK00S.html?_requesturl=articles%2FASH7Z53QFH7ZUTFK00S.html
>「絶対にない」「断じてない」「いささかもない」――。安倍晋三首相が安全保障関連法案の参院審議で、こんな断定調を増やしている。法案に対する世論の不安を払拭(ふっしょく)するためとみられるが、「断定」の根拠はというと、いま一つはっきりしない。

>さらに森氏が徴兵制を取り上げ、「子育て中のお母さんと話すと、『徴兵制になるんじゃないの』という声を聞く」とただすと、首相は「徴兵制の導入は全くあり得ない。今後も合憲になる余地は全くない。子どもたちが兵隊にとられる徴兵制が敷かれることは断じてない」と繰り返した。首相は「政権が代わっても導入はあり得ない」と言い切ったが、民主党幹部は「長年の憲法解釈を変更し、歴代内閣が使えないとしてきた集団的自衛権の行使を認めたのは首相で説得力がない」と指摘する。

>そもそも、長年の憲法解釈を一内閣の閣議決定で変更したのは首相自身だ。その首相が、いくら将来のことを「絶対にない」「今後もない」などと明言しても説得力に欠ける。

 日本国憲法に徴兵制に関する具体的な記述はなく、これは「安倍政権の憲法解釈」に過ぎず、時代が変わると困ったことになるのではないでしょうか。
 「自分の解釈=憲法」と言っているようなものです。
この国会でのやりとりを見ておりましたが、まるで徴兵制をやっている国は民主国家ではない、といっているような感じを受けました。

 以前も徴兵制に関して書いた時に、未来永劫徴兵制が必要ないとは言えないと書きましたが、当ブログ転載先のBLOGOSの記事では、そんなことはありえない、というコメントが多数ありました。それは極めて近視的であり、歴史的な視点が欠如しております。

 実際問題として、10年先ですら技術の予測は難しいのが現実です。それができるならば皆大金持ちです。
 確かに現在の軍隊、特に先進国では顕著ですが、装備の高度化が進み、「志願兵=長年務めるプロの兵士」じゃないと務まらない傾向が増えています。
 ですが、それが今後、数十年先、100年も200年も続くのかは誰にも分からないことです。ところが多くの人達は未来はあたかも現在の単純な延長であるかのように考えます。

 ですが 軍事技術も、社会も現在の延長線上や我々の想像の延長線上にあるとは限らないわけです。

 先進国を中心に志願制の国が増えたのは、ソ連崩壊後、つまりここ20年ほどのことに過ぎません。その経験を元に「未来の歴史」を予言し、断言するのは極めて危険です。

 誰がソ連の崩壊を予想できたでしょうか。また60年代の未来予測では、SSTが旅客機の主力になっていたはずですが、コンコルドは退役し、SSTは影も形もありません。
 また我々は中国やアジア、旧東欧などの安い人件費の国々と競争にさらされるようになりました。これまたソ連が存在した時代には想像することが難しかったはずです。
 フランス革命の前、欧州の人間の、誰が国民皆兵の徴兵制で戦わされる、何十万、何百万の人間が動員されると想像できたでしょうか?
 30年前に現在のように皆が携帯電話を使い、メールやデータのやりとりをするなど誰が想像していたでしょうか。
 また第一次大戦であれだけ膨大な人命が消耗されると誰が予想したでしょうか?

 謙虚に歴史を見るば、我々の将来の予測能力は大したことがないことがわかります。
 それを自分は分かるのだというのは、誇大妄想的であり、自信過剰です。人間はそれほど賢くありません。


 徴兵制の是非はともかくとして、これは未来永劫ありえないのだ、と断言するのは政治家の資質を疑われてしかるべきです。
 そしてあたかも「民主国家は徴兵などしてはいけない」という思い込みを政治家が持つのは不見識です。自衛隊の活動範囲を広げれば徴兵制になると叫んでいる、我が子を戦場に送るなと叫んでいるおばさんたちと同じレベルということになります。
 またこれが目先の法律を通すための方便で、あとは野となれ山となれ、と思っているのであればそれも大問題です。

 安倍首相の軍事と歴史に関する見識は極めて低いと言わざるを得ません。

 それと、徴兵制を「奴隷的な苦役」であるとするならば、現在も徴兵制を行っている国々に対する侮蔑でもあります。前にも申しましたが、先進国で現在志願制でも徴兵制に戻せる国は少なくありません。また途上国では軍隊は教育機関であり、失業対策の側面をもった国も少なくありません。そして何より国を守ることを「奴隷的苦役」と言い切って宜しいわけがない。

 個人的には徴兵制は無い方がいいと思っておりますが、例えば遠い未来映画「ターミにネーター」みたいな世界になれば徴兵制もやむを得ないかもしれません。
 いずれにしても20年後の世界ですら我々は正確に想像できません。そのことを認識して徴兵制の議論をするべきです。
 
 また「今回の安保法制と徴兵制をリンクして議論すること」は全くナンセンスであり、野党のセンスと見識を疑います。一方で防戦する与党の軍事的な見識も極めてお寒い限りであります。まるで場末の温泉街で、剣戟時代劇の田舎芝居を見せられているような気になります。



 東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。

自衛隊は、やはり「隊員の命」を軽視している
戦闘を想定した準備はできていない<上>
http://toyokeizai.net/articles/-/78310

現行の救急キットでは多くの自衛隊員が死ぬ
戦闘を想定した準備はできていない<下>
http://toyokeizai.net/articles/-/78336

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