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日銀の異次元緩和策の波及経路

日銀が進めている「量的・質的金融緩和」のメカニズムについて、2015年7月の中曽日銀副総裁の講演要旨を参考に確認してみたい。

 2014年4月に決定した「量的・質的金融緩和」では、物価上昇率を勘案した実質金利の低下を主な波及チャネルとして想定している。つまり2%の「物価安定の目標」に対する強く明確なコミットメントと、これを裏打ちする大規模な金融緩和によって「予想物価上昇率」を引き上げるとともに、巨額の国債買入れによってイールドカーブ全体に下押し圧力を加えることによって、実質金利を引き下げることが政策効果の起点となる。

 ここで注意すべきは「予想物価上昇率」とは何であるかということになる。物価連動国債の利回りから算出する予想インフレ率「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」を使って岩田副総裁などが説明をするケースもあった。しかし、日本の物価連動国債の市場規模が小さいことや、予想インフレ率が安定しているはずの欧米でもBEIが低下していることを理由に、岩田副総裁自らBEI指標としての信頼性に疑問を呈した。予想物価上昇率は具体的に数値で示すことは、要するに私たちの物価観でもあり、かなり困難である。そのとらえどころのないものを引き上げようとすることは果たして可能なのか。

 日銀による巨額の国債買入により、国債のイールドカーブには下押し圧力が掛かった。しかし、それでも超長期と呼ばれる長い期間の国債利回りの低下は限られている。

 予想物価がとらえることが難しいため「実質金利」も具体的には示すことが困難となる。実質金利低下により民間需要が刺激されることで景気が好転し、需給ギャップが改善するとの日銀の見方にも疑問が残る。

 単純に金利の低下だけで民間需要が盛り上がるものなのであろうか。企業の投資活動などは金利だけを見ているものではないはず。いろいろな要因が重なり合って需要が盛り上がり、その際に金利が低ければその需要を刺激することは可能であろう。しかし、名目だろうと実質だろうと低金利自体そのものが需要を生むわけではない。

 需給ギャップの改善は実際の物価上昇率を押し上げ、実際の物価上昇率が上昇すれば、人々の予想物価上昇率がさらに押し上げられるとの中曽副総裁の説明についても疑問が残る。結果として需給ギャップが改善すれば実際の物価上昇率を押し上げるかもしれないが、異次元緩和から2年が経過しても物価が前年比ゼロ近傍にいること自体、需給ギャップがそれほど改善されていないことを示すことにはならないのか。物価が上がらなかったのは原油価格の下落や消費増税の影響との説明ではあるが、そもそも日銀が大量の国債を買ってマネタリーベースを一気に倍加させると我々の物価上昇期待が強まり、物価も上がるという前提そのものに問題はなかったのか。波及経路に問題があるというより、この前提も検証すべきものではなかろうか。

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