記事
- 2015年07月29日 17:40
日本の名誉と信頼を回復するための提言
2/33.慰安婦問題をめぐる事実関係
日本は、このように人権を尊重する平和国家として歩み続け、先の大戦への痛切な反省とともにひたすらに自由で民主的な国家を創り上げてきた。にもかかわらず、近年、慰安婦問題等を利用して、客観的事実に基づかず、一方的な主張のみを取り上げる政治目的のキャンペーンにより、日本の名誉と信頼が著しく損なわれている。これに対し、以下に述べるように我が国として誤りを正し、国際社会の正しい理解を促し、正当な評価を得なければならない。(1)朝日新聞による誤報とその放置
朝日新聞は、昭和57年9月、朝鮮人慰安婦が「強制連行された」と報じ、済州島で「慰安婦狩り」を行ったとの吉田清治氏の「証言」を紹介した。また、宮沢喜一総理(当時)の韓国訪問直前の平成4年1月の社説では、慰安婦が「挺身隊」の名の下に勧誘又は強制連行されたと論じた。
しかし、その後、朝日新聞は、平成26年8月の記事及び役員による記者会見において、同紙の報道した吉田氏の「証言」が虚偽であったこと、慰安婦と女子挺身隊(注5)とを混同していたこと等を認め、12月には木村社長が辞任することとなった。
(2)河野官房長官談話
平成5年8月4日、河野洋平官房長官(当時)は、政府調査の結果、慰安所が①当時の軍当局の要請によって設営され、②軍の要請を受けた業者が主として募集に当たったが、その際、強圧と甘言による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあった旨示 した上で、おわびと反省の気持ちを述べるいわゆる「河野談話」を発表した。
この談話の作成過程での調査では、いわゆる「強制連行」が行われたことを示す資料等は無く、確認できないという認識に立ち、それまでに行った調査を踏まえた事実関係をゆがめることのない範囲で、談話の文言については韓国政府の意向・要望について受け入れられるものは受け入れ、受け入れられないものは拒否する姿勢で、文言をめぐる韓国側との細部にわたるすり合わせによってまとめられたことが確認されており(注6)、韓国側の意向が色濃く反映されていることは否めない。
河野官房長官は、同日行われた記者会見において、調査結果について「強制連行の事実があったという認識なのか」と問われ、「そういう事実があったと。結構です」と述べている。
結果、河野談話は「強制連行」は確認できないとの認識に立って作成されたにもかかわらず、その後の河野官房長官の発言や、当時、朝日新聞が報じていた吉田清治氏の「証言」が、あたかも強制連行があったかのような事実に反する認識を、韓国をはじめ国際社会に広めた大きな原因になったと言わざるを得ず、重大な問題である。
なお、日本政府は、「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」との見解を閣議決定する(注7)が、河野談話を継承し、これを見直すつもりはないとの立場を繰り返し示している。
また、慰安婦の総数についても、「20万人」等の根拠のない数字がしばしば示されるが、これについても、平成5年8月4日に河野談話と共に発表された政府調査結果の報告書において、「発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦総数を確定することは困難である」と述べられているとおり、慰安婦の総数については確認されていないという日本政府の立場である。
仮にこのような調査に基づく客観的な事実と異なった主張がなされるのであれば、その根拠となる客観的な事実が示されるべきである。
(3)財団法人女性のためのアジア平和国民基金(以下、「アジア女性基金」)
河野談話の発出後、慰安婦問題が多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であることから、日本政府及び国民のおわびと反省の気持ちをいかなる形で表すかにつき国民的な議論を尽くした結果、この問題が昭和40年の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下、「日韓請求権協定」)により国際法的には完全かつ最終的に解決済みではあったが、平成7年、元慰安婦の人道的・現実的救済の観点から、アジア女性基金が設立された(注8)。
同基金は、「償い金」(一人当たり200万円)、「医療福祉支援事業」(韓国及び台湾では一人当たり300万円、フィリピンでは一人当たり120万円)を支給するとともに、各人に対し歴代総理大臣(橋本総理、小渕総理、森総理、小泉総理)の「おわびの手紙」(注9)を送ること等を通じ、最大限努力してきた(韓国及び台湾ではそれぞれ61名、13名に対し一人当たり計500万円を支給。フィリピンについては、211名に対し一人当たり計320万円を支給)。
なお、河野談話の発出を含む日本政府の取組は、最終的な決着を意図して韓国政府とのぎりぎりの調整を経て政治的に行われたものであったが、韓国内の圧力もあり、韓国政府からアジア女性基金事業に対する反対の意が示され打ち切らざるを得なかった。もとより元慰安婦に対する金銭的な対応で全てが解決する訳ではないが、前述のように日本国民の気持ちを表したものである。
(4)クマラスワミ報告書
このような状況において、平成8年、国連人権委員会(当時)に対し、クマラスワミ特別報告者から、客観的事実や日本のこれまでの取組を踏まえずに、慰安婦を「性奴隷」とし、日本政府に謝罪や賠償を勧告する報告書が提出された。
この報告書の中には、元慰安婦の「証言」を引用する形で、釘、水、蛇等を用いた荒唐無稽で残虐な行為があたかも慰安婦に対して行われたかのごとく書き込まれているが、日本では歴史的に行われることのない極めて残虐な方法であり、古代中国で刑罰として行われた行為との混同によるものではないかと思われる(注10)。
日本政府は、同報告書の事実関係及び法的議論に関し、日本が同意できず留保を付していることを指摘したが、あたかもクマラスワミ報告書に書かれている内容や、また、慰安婦は性奴隷であるかのごとき誤った認識が国際社会に流布され、その結果、近年でも人権に関する国際的なフォーラム等において、そのような誤った認識に基づく言及が行われることが少なくない。
日本政府は、慰安婦の方々が筆舌に尽くし難い思いをされたことに心を痛めながらも、「クマラスワミ報告書」に書かれている内容には受け入れられない部分が多数あることや、国際法上、慰安婦制度が奴隷制度であったとは解されないとの立場の下、性奴隷との表現は誤りであるとの考えを示している。
(5)米国における慰安婦問題の取り上げられ方
最近では、米国公立高校で使用される教科書の一部に、慰安婦問題等について、「日本軍は、『慰安所』ないし『慰安施設』と呼ばれる軍用売春宿で働かせるために、最大で20万人にも及ぶ14歳から20歳までの女性を、強制的に募集し、徴集し、制圧した。日本軍は、部隊に対し、天皇からの贈物であるとして、これら女性を提供した。これら女性は、朝鮮、台湾及び満州といった日本の植民地、また、フィリピン及びその他の東南アジア諸国の占領地の出身である。」「いったんこの帝国の売春サービスに強制的に組み込まれると、『慰安婦』たちは、一日あたり、20人から30人の男性の相手をさせられた。戦闘地域に配置され、これら女性はしばしば、兵隊らと同じリスクに直面し、多くが戦争犠牲者となった。他の者も、逃亡を企てたり、性病にかかったりした場合には、日本の兵士によって殺害された。戦争の終結に際し、この活動をもみ消すために、多数の慰安婦が殺害された。」など重大な事実誤認が含まれていることが判明した。
出版社や執筆者が享受する表現の自由を最大限尊重しなければならないことは言うまでもないが、学校の教科書等で虚偽を教えて、いたずらに日本の名誉を毀損することは許されることではない。政府は、日本の立場や取組に対して客観的な事実に基づく記載がなされるよう働きかけを行っているが、いまだその記載は正されてはいない。
米国政府間作業部会(IWG)は、その調査(ナチス戦争犯罪及び日本帝国政府の書類に関する調査)の対象として、日本の慰安婦制度における女性の組織的な奴隷化を示す文書を含めていた。それにもかかわらず、報告書において、日本の慰安婦制度における女性の組 織的な奴隷化を示す記述はなかった。
(6)日韓請求権協定と日韓共同宣言
そもそも、韓国との財産及び請求権の問題については、個人の請求権も含めて完全かつ最終的に解決済みであることが、昭和40年に締結されたいわゆる「日韓請求権協定」に照らし明らかである。
また、国交正常化に際し、朝鮮戦争で荒廃し、GNPで比較すれば北朝鮮に劣後していた韓国に対し、多額の資金供与(無償3億ドル、有償2億ドル。当時の韓国の年間国家予算の1.6倍)を行ったことも特筆に値する。
その上で、平成10年には、小渕恵三総理(当時)と金大中大統領(当時)との間で「日韓共同宣言」が作成され、両首脳により「国交正常化以来築かれてきた両国間の緊密な友好協力関係をより高い次元に発展させ、21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築するとの共通の決意」が宣言されたほか、「両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である」旨表明され、新しい日韓関係がスタートした。
(7)現在の憂慮すべき状況
しかるに、現状は、米国、フィリピン、台湾、オランダ等の立法府において慰安婦問題に関する決議が採択又は提出され、韓国や米国において慰安婦像や碑が設置されるなど、日本政府の立場と相容れない極めて残念なことが諸外国で起きている。
結果として、これらが慰安婦問題をめぐる状況を複雑化させ、各々の国内での様々な民族系から成る地域コミュニティを分断し、問題の解決をより一層難しくすることになるばかりでなく、このような行為によって誤った事実認識が広がることになり、地域住民のみならず国民同士の友好関係を悪化させ、日本の名誉と信頼を著しく傷つける結果につながりかねない。
(注5)女子挺身隊とは、太平洋戦争下の女子の勤労動員組織。満12歳以上40歳未満の未婚女子により居住地・職場で編成。1年間工場・農村で勤労奉仕。朝鮮・台湾でも実施(『広辞苑』より)。
(注6)平成26年6月に「河野談話作成過程等に関する検討チーム」が公表した、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯~河野談話作成からアジア女性基金まで~」による。
(注7)平成19年3月16日(第一次安倍内閣)。質問主意書に対する答弁書において。
(注8)アジア女性基金には、国民等からの募金6億円が寄せられ、政府予算(拠出金・補助金を合わせ)約48億円(平成19年3月末までの合計)が拠出された。
(注9)総理の「おわびの手紙」(全文)「いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。
わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関わる諸問題にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えております。(自署)」
(注10)「クマラスワミ報告書」には、例えば次のような元慰安婦による証言が引用されている。
「私たちが見ている中、彼らは彼女の衣服を剥ぎ、足や手を縛り、釘の打ち出た板の上を釘が彼女の血や肉片で覆われるまで転がしました。そして最後に、彼らは彼女の首を切り落としました。別のヤマモトという日本人は、私たちに向かって、『お前たち全員を殺すのは、犬を殺すより簡単だ。』と言いました。また、彼はこうも言いました。『こいつら朝鮮人女は空腹ゆえわめいているのだから、この人肉を茹でて、食べさせてやれ。』」
「ある日、彼らは私たちのうち40人をトラックで遠くへ運び、水と蛇で一杯になったプールに連れて行きました。兵士たちはそのうちの数名の少女を殴り、その水の中に乱暴に押し入れ、土を入れ、生きたまま埋めました。おそらく、駐留兵舎にいた少女の半分以上は殺されたと思います。」
「彼女は庭に連れ出され、我々皆の前で彼女は首を剣で切り落とされ、体はバラバラに切り刻まれました。」
(なお、古代中国の刑罰については、麻生川静男著「本当に残酷な中国史大著『資治通鑑』を読み解く」〈角川SSC新書〉のP43、84、85、93、104を参照。)



