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【読書感想】ネット私刑(リンチ)

リンク先を見る ネット私刑(リンチ) (扶桑社新書)

内容紹介

インターネットで事件の加害者の名前をさらし、その家族の個人情報までも、 その真偽に関係なく拡散していく――。これを今、「ネット私刑(リンチ)」と呼んでいます。

このネット私刑(リンチ)は、ここ最近、どんどん過激になっていて、顕著な例が「川崎の中1殺害事件」である。 同事件では事件発覚の数日後には、容疑者の名前が暴露され、被疑者の家族や恋人の個人情報までも、その真偽に関係なくさらされています。

ネットでさらす人のほとんどは、「正義」を大義名分にしています。しかし、それは「正義」をはき違えている感があります。

本書は「在特会」をはじめ、ネット右翼に関しての取材を行っている気鋭のジャーナリストで、第46回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した安田浩一氏が、 さらす人、さらされる人の実態に迫りました。

安田氏が川崎の事件だけでなく、大津市で起きたいじめ自殺の現場を徹底取材。さらには、あの「ドローン少年」の親にも直撃しました。 最終章にはネットで殺人事件の犯人にされた「誤爆」被害者のスマイリーキクチのインタビューも収録しています。

今、ネットで起きている「闇の実態」が明らかになります!


 この新書では、「あいつが犯人だ」としてネット上で個人情報を拡散された側が受けた「被害」について、『川崎中1殺害事件』などの事例をもとに、検証されています。

 これを読むと「正義」というものについて、考えずにはいられません。

 あの川崎の事件で、中1の被害者が、「イスラム国人質事件」になぞらえるように、からかい半分のようにみえる殺されかたをしたことには、僕も強い憤りを感じました。

 犯人たちの「個人情報」をネットでばらまこうとした人たちは、犯人たちがあんなことをしていながら、「少年法」で守られ、名前も顔写真も公開されないことに怒りを感じていたのです。

 それは、わかる、すごくよくわかる。

 

 ただ、その憤りのあまり、過った情報を鵜呑みにして拡散し、無関係な人に大きなダメージを与えていたことが、この新書では紹介されています。

 ある女子中学生は「犯人の一味」とされ、実名と一緒に顔写真が掲載された。別の女子中学生は「犯人の彼女」とされ、やはり顔写真から家族構成までもが2ちゃんねるに書き込まれた。

 ある男子高校生は、やはり実名とともに「凶暴」「凶悪」と指摘され、上村さん殺害に加わっていたかのように書かれた。

 これらの者たちはまったく事件とは関係ないにもかかわらず、永遠にネットへその名前を刻まれてしまったことにある。

 事件とは無関係であるにもかかわらずネット上で「犯人」だとされてしまった、ある少年の家を訪ねたときのことである。

 少年の母親は今でも脅えていた。

「思い出すのも嫌なんです!」

 大声で私を怒鳴りつけた。

「もう騒がれたくありません。帰ってください!」

 ネットの無責任な情報が、どれほどこの一家を苦しめることになったのか、悲鳴にも近い母親の声から、それは十分に理解できた。

 名前を書き込まれた女子中学生のひとりは、今でも脅えて家の中に閉じこもっていることが多いという。

 何の救済措置もとられることなく、被害の回復が図られることもなく、彼ら彼女らは一方的に叩かれた。

 つまりネットは、処罰感情とゲーム感覚の「犯人捜し」によって、亡くなった上村さん以外にも、多くの「被害者」を生み出すことになったのだ。


 また、大津市いじめ自殺事件で、「いじめた生徒の母親」だとされた女性は、無関係にもかかわらず、ネット上で叩かれ続けているのです。

 そして、世の中には「火のない処に煙は立たない」というような考え方をする人も、けっして少なくありません。

 今度は女性が自ら電話を取った。

 電話の主は年配の男性のようだった。

「○○はいるか?」

――はい、私です。

「おまえの息子は人殺しだ」

――それは大津の事件のことですか?

「そうや」

――私、いくつだと思いますか? 65歳です。中学生の子どもなどいません。

「本当か?」

――私の子どもはすべて成人していますし、住んでいる地域も違います。ネットに出ていることはすべて間違いです。

 電話の主の男性も、確信があって電話したわけではなさそうだった。

「そうかあ、ネットの情報は嘘なのか」

 それだけ言うと電話は切れた。

 受話器を戻し、深呼吸した.気持ちを落ち着かせようとしたが、それでも呼吸の乱れが止まらない。膝が小刻みに震えている。

「たまたま納得してもらえたものの、本当は怖くて仕方なかった。それに、こうした電話が相次いでいることで、もう、とんでもない事態になっていることを知り、そのまま逃げ出したくなりました」


 正直、実際にいじめをやっていた犯人たちであれば、「社会的制裁」を受けるのは、ある程度やむをえないのではないか、とも思うのです。

 でも、この女性は本当に無関係なのに、ネット上の嘘の書き込みで「電話で突撃」してくる人に、対応しなければならなくなってしまった。

 これは「災難」だとしか言いようがなくて、こうしてうまく説得できたとしても、ようやく「ゼロ」に戻るだけです。いや、怖い思いをしたり、時間をとられたりすることも考えれば、「どこまで行っても、マイナスにしかならない、徒労」が続くのです。

 そして、被害者に比べて、「突撃」してくる側の意識は、あまりにも軽い。

 相手を嘘の情報に基づいて恫喝しておきながら、謝罪すらせずに、「ネットの情報は嘘なのか」と自己完結して、電話を切っただけ。

 この新書を読んでいると、ネット私刑というのは、被害を受ける側の傷の深さに比べて、加害側の精神的な負担や社会的信用喪失のリスクが、あまりにも軽いことに愕然とします。

 「正義のためなのだから、人違いくらい大目に見ろ」と「加害側」は思っているのかもしれない。

 あるいは、「自分は悪くない。ネットに嘘の情報を書き込んだヤツが悪い。むしろ自分も被害者だ」という意識なのかもしれない。

 それって、不公平だし、歪んでいると僕は感じます。

 自分だって、「被害を受ける側」になるかもしれないのに。

 他人を「殺人者だ」と指さす人間には、それなりの「根拠」と「覚悟」が必要なのではなかろうか。

 ところが、ネットでは、軽い気持ちや、自分の憂さ晴らしで、それができてしまう。

 

 また、仮にその「犯人情報」が正確だったとしても、それを拡散して「私刑」を誘発することが、正しいのかどうか。

 この新書では、実際にこの『ネット私刑』で、殺人事件の犯人よばわりされ、長年苦しめられてきた、スマイリーキクチさんへのインタビューも掲載されています。

 スマイリーさんは、川崎の事件についても、ブログで、加害者情報の拡散に対して、自制を促すエントリを書いておられます。

 僕が指摘したのは『誤爆』の怖さだけではありません。

 たとえ名前をさらされた人物が真犯人であったにせよ、今後、少年審判が開かれたとき、容疑者が氏名をさらされた”被害”を訴えれば、罪が減刑される可能性もなくはないと思うのです。

 もうひとつは、住所や家族構成、家族の氏名、職業などの個人情報をネットにさらしたことに対して、民事訴訟を起こされる可能性もある。たとえば、犯人の家族が自宅を売却して、被害者への賠償に充てようとしたとき、その家をいったい誰が買うでしょうか。ネット上に住所が出たことで、事故物件のような扱いになってしまう。ネットに上がった情報は、永遠に消えません。10年後だろうが20年後だろうが、その家に買い手はつかないのではないか。

 自宅が売却できないうえに、家族の氏名、職業をさらしたことで、実際、主犯格の少年の親は仕事を辞めざるをえなかったといいます。ますます賠償からは遠ざかるでしょう。

 こうしたことまで考えずに、ほとんどの人がネットで容疑者やその家族を叩いているけれど、追い詰めれば追い詰めるほど逆効果なのです。そしてこの結果、事件の被害者やその家族の人権をもないがしろにしてしまうことにつながる。

 このスマイリーさんの言葉に関して、僕には違和感があります。

 それでは、「犯人が暮らしていた家」を、その事実を隠して、誰かに売りつけるのか?

 賠償のために、加害者の遺族を「普通に仕事ができるように、守ってあげる」べきなのか?

 被害者側からしたら、「そんな金よりも、加害者一家を打ちのめしたい」のではなかろうか。

 まあでも、そんなふうに「第三者が、被害者側の気持ちを自分で勝手に想像して、代わりに『復讐』しようとする」ことが、「正義の暴走」や「関係ない人への風評被害」を生んでもいるわけで。

 

 これを読んでいると、「警察やマスコミまかせだった犯罪者への処罰が、ネットによって、民衆の手に帰ってきた」という面もあるような気がしました。

 「正義の暴走」だけではなく、「自衛」という意識も、そこには存在しているのです。

 ただ、警察やマスメディアがこうして発展してきたのは「加害者に対して、私刑が行われるのは、事実誤認や報復の連鎖というリスクがあるし、自分の手を汚すのはつらい、と考える人も多いから」ではあるのですよね。

 

 この新書に「ネット私刑」の怖くなる事例はたくさん収められているのですが、「では、ネット私刑を避けるためには、どうすれば良いのか」は、書かれていません。

 というか、個々のネットユーザーが自制心を持つ以外の方法は、思いつかないのです。

 そして、それがすごく難しいというのも、よくわかります。

 誰でも、常に「ネットで誰かを責める側」にいられるとは、限らないのだけれど。


リンク先を見る 突然、僕は殺人犯にされた (竹書房文庫)

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