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アベノミクスの「官製賃上げ」がもたらした「物価上昇」

「食品や雑貨に値上げの動きが広がってきた。家計の消費意欲が高まり、メーカーや小売店が原材料費や人件費の上昇を販売価格に反映させやすくなっている」(27日付日本経済新聞 「エコノフォーカス」)


「2%の物価安定目標」の達成が危うくなって来たことで安倍政権と日銀は、消費者物価指数は上昇していないが、実際の物価は上昇していることをアピールすることで、異次元緩和の効果を訴える作戦に出ているようです。

しかし、「家計の消費意欲が高まり、メーカーや小売店が原材料費や人件費の上昇を販売価格に反映させやすくなっている」という見立てはかなり怪しげなものです。

「日銀が10日発表した6月の国内企業物価指数(2010年=100)は103.6で、前年同月比2.4%下落した。主に電力価格の下落の影響で、下げ幅は前月の2.2%下落から拡大した。 ・・・(中略)・・・ 消費税の影響を除くベースで見ると、企業物価は8カ月連続で前年を下回った」(7/10付日経電子版「6月の企業物価指数、前年比2.4%下落」)


記事では「メーカーや小売店が原材料費や人件費の上昇を販売価格に反映」と解説していますが、メーカーや小売店など企業間で取引される財の価格を表す国内企業物価指数は「8カ月連続で前年を下回った」状況にあります。

さらに、国内企業物価指数の下落要因については次のように報じられています。

「前月比下落の最も大きい要因となった分野は『電力・都市ガス・水道』。原油安を背景にした電気料金の値下げが影響した。国際的な商品相場の下落で、非鉄金属も下げた」(同日経電子版)

「前年同月比」でみても、「電力・都市ガス・水道」は▲3.3%、「石油・石炭製品」は▲20.3%、「鉄鋼」▲3.1%、「化学製品」▲6.4%と、「原材料費の上昇」を食品や雑貨の値上げの動きの原因とすることは難しい状況にあります。

さらに「消費税を除く国内企業物価指数」の水準自体も、アベノミクスによる円安の影響を受け2014年7月まで対2012年12月比で3.29%上昇しましたが、その後上昇圧力は急速に衰え、6月時点では0.4%上昇に留まっています。

国内企業物価指数は企業間で取引される財の価格を表す統計であり、人件費の上昇は反映されていません。しかし、メーカーや小売店には、少なくとも原材料費の上昇を販売価格に反映させる必要がなくなって来ているといえる状況になって来ています。

こうした状況にも関らず、「食品や雑貨に値上げの動きが広がってきた」というのはどういうことなのでしょうか。

国内企業物価指数と消費者物価指数の前年同月比の上昇率を比較すると、2013年3月以降2014年10月まで、国内企業物価指数の上昇率が消費者物価指数の上昇率を上回った状況にありました。つまり、メーカーや小売店側は自分達の利益を削る形で仕入価格の上昇分を一部しか価格に転嫁しなかったということです。

しかし、2014年11月以降消費者物価指数の上昇率が国内企業物価指数の上昇率を上回って来ており、4月以降は2%以上国内企業物価指数の上昇率が消費者物価指数の上昇率を上回る状況になっています。

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「消費税を除く国内企業物価指数」が8カ月連続で前年同月比マイナスを記録するなかでの小売物価の上昇を「原材料費の上昇を販売価格に反映させる動き」だとする日本経済新聞の解説には無理があるように思えます。

考えられることは、異次元の金融緩和による円安によって1年半利益を削って耐えて来たメーカーや小売店が、安倍政権が繰り返してきた「賃上げ要請」を先取りしたということです。

「官製賃上げ」の成果として、5月の現金給与総額は前年同月比0.7%増と2カ月連続でプラスとなりました。しかし、「官製賃上げ」を先取りした値上げによって、名目の賃金指数を消費者物価指数で割って算出する実質賃金指数は25カ月ぶりに前年同月比横ばいに戻るのがやっとという結果になりました。

日銀は「7月の金融経済月報から生鮮食品に加えてエネルギーも除くCPIを独自に算出し、足元で上昇していることを訴える」(同日本経済新聞)


ことで「異次元の金融緩和」の効果をアピールする戦略のようですが、実際の物価がCPI以上に上昇しているとしたら、それは実質賃金が依然としてマイナス圏にあることを意味するものです。

「日銀はCPIへの原油安の影響が夏をピークに徐々に和らぎ、秋以降は雇用や賃金の回復で上昇が加速する」(同日本経済新聞)


という見通しを持っているようです。しかし、物価上昇が加速するということは実質賃金に加速的低下圧力が加わることを意味しますから、「賃金の回復」が物価上昇を加速させる原動力になるというのは論理的矛盾を秘めた見解でしかありません。

アベノミクスの成果として実質賃金の回復をアピールするためには物価が低い方が好都合である政府と、異次元の金融緩和の成果として「2%物価安定目標」に近付いていることを強調したい日銀の関係は、名目賃金が力強い上昇を見せない限り「二律背反」の関係にあるということを忘れてはなりません。
【参考記事】 矛盾~「実質賃金上昇」を強調したい政府と、「安定的物価上昇」を強調したい日銀

「報道機関にとって最も重要な編集権の独立は維持する」(24日付日経電子版)


FTの買収に関する記者会見で日本経済新聞の喜多会長はこのように述べ「報道機関の編集権の独立」の重要性を強調しました。

10日前の17日にはアベノミクスの成果を強調するかのように、実質賃金が前年同月比で横ばいとなったことを「実質賃金、25か月ぶりマイナス圏脱す」という見出しで大きく報じ、今回は「食品など身近な商品実質2%プラス」という見出しの特集記事で日銀の異次元の金融緩和の成果を報じる日本経済新聞。

名目賃金が力強く上昇しない限り「二律背反」の関係にある実質賃金と物価上昇について、コウモリのように都合よく報じる日本経済新聞。FTの「編集権の独立」の維持より先に、自社の政権からの「編集権の独立」を確立することの方が先決のようである。

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