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映画「日本のいちばん長い日」—所感と今日への示唆—

8月8日に全国で劇場公開される映画「日本のいちばん長い日」の試写会に、ご招待を受けて参加してきた。今回の試写会には上映終了後に田原総一郎氏及び小林よしのり氏のトークショーがあり、非常に内容の濃いものであった。はじめに、今回このような機会をくださったBLOGOS編集部に感謝申し上げたい。

 この映画、昭和20年4月の鈴木貫太郎内閣の組閣から8月15日までの大東亜戦争の終戦に向けた動きを、鈴木貫太郎総理、阿南惟幾陸相、陸軍参謀本部の青年将校軸に描いたものである。終戦までの流れを描いたドラマはこれまでにあったが、この映画はそうしたものとは少々異なるように思われる。

 まず、阿南陸相が単なる主戦論者、戦争継続論者としてではなく、本土決戦・主戦論者と和平論者の陸軍内の2派の間で苦悩しつつも、なんとか和平にもって行こうとする人物として描かれていることがある。次に、先帝陛下が、御前会議等に御臨席されるだけの存在としてではなく、自ら考え、行動されるお姿や阿南陸相ら臣下と親しく言葉を交わされる、より人間臭い存在として描かれていることである。そして、参謀本部の青年将校らの戦争継続に向けた最後の、ある種の悪あがきを、特に哀れむこともなく、悪者としてでもなく、ただ純粋に(もしかしたら無邪気に)本土決戦、徹底抗戦を信じて行動する姿で淡々と描いている点である。

 さて、この映画、その描き方もさることながら、戦後70年の今日の日本にとって多くの示唆を与えてくれていると思う。今回は映画「日本のいちばん長い日」の所感、そしてその与えうる示唆について、トークショーでの小林よしのり氏らの言葉も借りつつ考察してみたい。

 阿南陸相の描き方がこれまでとは異なることは先に述べたとおりであるが、小林氏は、これまでの軍人の描き方には、「日本の軍人=悪」という固定観念があり、その延長線上で阿南陸相も単なる本土決戦論者として描かれてきてしまったのではないかと解説、田原氏は極東軍事裁判において、悪いのは日本軍であって国民は犠牲者であるという図式が作られたことが影響しているのではないかと指摘していた。こうしたことは映画やドラマでの軍人の描き方に止まらず、軍隊について語ること、すなわち国防・安保について考え、議論することをも半ばタブーにしてきたのではないかと思えてならない。

 今回の映画でその描き方を変えたことは、鑑賞した国民の多くに示唆を与え、国防・安全保障に関する日本人の思考停止状態の解消に一役買うことにつながるだろうか。

 この映画は戦争を美化してはいないし、戦争の悲哀を過剰に表現するものでもない。脚色はしつつも、数ヶ月の出来事を淡々と冷静に描いているだけである。だからこそ、参謀本部青年将校らの暴走はより際立って見える。国防・安全保障に関する議論が偏ってしまったり、極論に走ったり、そもそも判断材料たる情報が足りなかったり間違っていたりするとどうなるのか、青年将校たちの行動はまさにその結末を表した典型的な事例であると思う。(加えていうのであれば、青年将校役の俳優たちの演技は際立たせるに十分な見事なものであった。)

 これを現在に当てはめて考えてみれば、まさに、不十分な情報に基づき、偏った議論で暴走する政権の姿と重なり、際立って見えてくるのではないだろうか。これについて小林氏は、「戦前戦中は軍部の暴走であったが、現在はシビリアンの暴走である。」と評していた。

 暴走ということになれば、なかなか止められるものではない。大東亜戦争は、統帥権を盾に取った陸軍参謀本部や海軍軍令部の満州での暴走を誰も止められず、政府はおろか、マスコミや文壇までが追認し、後押しするに至ってしまったことにその端を発する。(この辺り、孫崎享氏がその著『日米開戦の正体』で詳しく解説されているので、参照されたい。)

 先帝陛下は戦争には反対であり、近衛首相らもそうであったようであるが、軍部は反対を貫くのならば、陛下を廃位することや首相を暗殺することも辞さない姿勢で臨んでいたようだ。まさに軍部の暴走ここに極まれりといったところであるが(現政権の態度もそれに近いものを感じるが)、軍部が世界情勢を正確に分析・理解し、国民が正し情報を把握・理解していれば、その暴走は食い止められたのではないだろうか。そう考えると、今日に至ってもなお、国民に正し情報が必ずしも提供されず、政府の中枢部でも正しい情報を取捨選択し、分析・理解できていないのであるから、政府の暴走の危険性は常に孕んでいると考えざるをえないように思う。

 政府や主要マスコミがダメであるということであれば、在野の専門家の情報発信・解説の役割はますます重要になってきているということであろう。

 最後に、この映画では先帝陛下の御聖断の場面が強調されて描かれている。本来であれば、内閣が決定の主体であるべきであるが、御聖断を仰がざるをえない状況となってしまったことが随所に描かれている。(そのことが、おそらくは、先帝陛下のみならず、臣民、すなわち国民にとっても畏れ多く申し訳ないことであったという意味が込められているのであろう。)

 映画の中で、先帝陛下は直接的な表現を用いることなく、臣下を諭すかのように、和平と終戦について語られる。それはまるで今上陛下が様々な機会をとらまえて非戦平和の大切さを訴えられている姿と重なる。今上陛下は決して現政権に対してご下命を下されるがごとき態度をとられることはない。(制度上の問題云々ではない。)御自らの御行幸等を通じてそれを全国民、そして海外、四方の同胞にお示しになられている。(今上陛下のお言葉は、現状においては、そして内外問わず、もっとも注目すべきであろう。)

 そうした今上陛下の大御心を解せず、自らの浅薄な知識や認識だけで安保法制なるものを押し通そうとするのであれば、現政権は不忠不敬の極みと言わざるをえないだろう。

 さて、現政権閣僚はこの映画を観て何を感じるのだろうか。

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