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紛争地帯の「遺体」を報道すべきか? イスラム国人質事件で露わになった「日本メディア」の特異性

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今年1月から2月にかけて日本全体を大きく揺さぶった「イスラム国」(IS)による日本人人質殺害事件。身代金を要求された政府の対応と同時に、紛争地帯における取材と報道のあり方も問題になった。事件から半年後の6月22日、新聞・テレビなどの報道機関でつくるマスコミ倫理懇談会全国協議会は「イスラム国による日本人人質事件と報道」と題した公開シンポジウムを、東京都千代田区のプレスセンターホールで開いた。

パネリストとして登壇したのは、イスラム問題の専門家である日本女子大学の臼杵陽教授と朝日新聞東京本社国際報道部長の石合力氏、TBSテレビ外信部長の井上洋一氏、そして、フリーランスのジャーナリストである土井敏邦氏だった。ファシリテーターは、日本大学の福田充教授が務めた。


シンポジウムではまず、4人のパネリストがそれぞれ、人質事件報道を振り返りながら、取材のあり方やメディアの責任についての見解を述べた。それを受けてパネルディスカッションが行われ、紛争地帯での取材と報道をめぐる白熱した議論が展開された。(取材・岸田浩和)

日本人がトラブルに巻き込まれたときだけ「過熱報道」する?

パネルディスカッションでは「国際ニュースに関する日本のメディアの特異性」が問題となった。進行の福田教授は最初に、次のような質問を投げかけた。
「日本人が海外の紛争地域で拘束されたり、トラブルに巻き込まれたときだけ、過熱報道におちいる現状について、世界的に見ても、日本はかなり特異なメディア環境と視聴者意識になっているとの指摘があるが、どうお考えか」

朝日新聞・石合:私は、同感する部分が多いです。一方で、それがマスメディアの姿だと括られてしまうことには、違和感も感じます。ぼくらは、組織ジャーナリズムのなかで、そういったものを打破しようと、必死に挑んでいる途上です。

日本の新聞社なので、自国のニュースが、あるていど中心になることは否定しません。ただ、すべてがそうだとは言えません。

たとえば、2013年7月、日本の参議院選のスタートの日にエジプトで、「アラブの春」以降の選挙で選ばれたムスリム同胞団出身のモシル大統領が、軍によって排除されるという事態が起きました。



参院選も日本にとっては大切なニュースですが、エジプトの事態は世界的な関心事です。それで、当日の夕刊の編集長に「世界的なニュースが起こってますよ。どっちを一面トップにしますかと」いうことを申し上げました。

結果的に、うちの紙面では、エジプトのクーデターが一面トップになって、参議院選はいわゆる肩という、二番手の扱いになりました。これはおそらく政治部からすると、ありえない判断でした。今までであれば、日本の選挙の初日のニュースは、自動的に一面トップだという意識が、おそらくあったんだと思います。

この時の一面掲載については、当時の政治部長と「これはやっぱり大事な話だから、お互い議論して、しっかりした扱いにしよう」と、相当な議論を行いました。同様の議論が日々あり、要望が通ったり通らなかったりというのを繰り返しています。

取材でも、うちは、シリアのアレッポという、きわめてイスラム国の支配地に近いところに記者を出しました。イスラム国での人権侵害の実像、あるいは、そこに暮らすシリア人の生活状況を、直接取材できる機会、チャンスと考えたからですね。

そのときの読者の反応は、きわめて好意的でした。 日本人の意識事態が国際化してきている。私たちが旧来的な思考で、「日本人は日本のニュースにしか関心がない」と思って球を投げていると、ストライクゾーンを外してしまうなという感覚を強く持ちました。「日本のメディア、あるいは日本の読者が、日本のニュースを強く求めている」という発想自体も、幻想なのかもしれないということを、日々感じています。

私自身は、本質はフリーランスの方たちと同じように、世界意識的な観点と、一人の人間として、中東の人々の悲しみや苦しみを伝えたいという思いで、これまで取材を行ってきました。うまくいくときも、いかないときもあるんですけれども、こうした意識の変化と改革を、私は自分の所属する組織の中でやっていきたいと取り組んでいます。

組織ジャーナリズム対個人の構図で判断するのではなく、それぞれの組織や個人の特長を生かした取材を、紙面や報道に繋げていきたいと考えています。


「テレビのニュース枠は1つなので、集中砲火的になりやすい」

進行・福田:会場からも、視聴者、読者の平均値を低く置きすぎていないかという指摘があり、まさにご指摘のとおりと感じています。

TBS・井上:新聞とテレビで決定的に違う構造があると感じています。新聞の場合、一面、政治面、経済面、国際面、社会面というふうに分かれて、それぞれの人が担当しているわけですけれども、テレビの場合、ニュース枠は1つしかありません。30分の番組の中で、1つの話題を25分やったりすることもあるので、どうしても、集中砲火的になる傾向ができてしまう。

今回の報道のなかで、我々としては、イスラム国というのが、なぜこのイスラム社会のなかで生まれてきたのか、今どういう状態になっているのか、そこに暮らす人々の意識はどういったものかなどについて、できるだけ多面的な情報を伝える努力を行っています。

ただ、結果として、インパクトの強い映像を報じることによって、湯川遥菜さんと後藤健二さんを取り上げたニュースの印象が、圧倒的に強くなったと部分もあると推測しています。

今年の1月には、フランスの週刊新聞のシャルリー・エブドが襲撃された事件がありました。これは日本人がまったく絡んでいない事件だったのですが、我々は伝える必要があるという判断で、かなり大きく扱いました。

実際にこのニュースを流すと、視聴率が下がる場面がありました。ムハンマドの風刺画が、イスラム教徒にとって、どんな侮辱の意味を持つのか、欧米の社会とイスラムの関係など、日本人には理解が難しいポイントがあったのが、原因ではないかと考えています。また、難しい問題だからこそ説明に多くの時間を費やしてしまい、結果的に放映のハードルが上がってしまうことも、いつもの課題です。


だから、日本に関係のない国際ニュースや難しいテーマは流さないというのではなく、どうすれば視聴者にうまく届けられるのかを考えるのが、我々のこれからの仕事であると認識しています。

「テロ」という言葉を安易に使っていないか?

フリー・土井:ひとつ、問いかけたい問題があります。これは、石合さんにも、井上さんにもおうかがいしたいんですけれども、我々は、非常に安易に「テロ」という言葉を使いますが、「テロ」というのは、いったいどういうことなのか。

私は、去年のイスラエルによるガザ攻撃のとき、一ヶ月間ガザにいました。F16戦闘機や近代兵器によって、2150人が殺されました。そのうち、1400人は一般人です。うち、子供は500人、女性は260人でした。みなさん、この状況を、なんと呼びますか? 一般住民ですよ。

これが「テロ」でなくてなんでしょうか。我々は、ISの行動を「テロ」と簡単に言うけど、国家によるテロ行為のことを、なぜ放置するんでしょうか。以前、朝日新聞では、ハマスのことを「過激派ハマス」と、ずっと呼んできました。では、イスラエルのやってることを、どうして「過激国家イスラエル」と呼ばないんでしょうか。どうして、「テロ」ということを、我々は安易にISとか、特定の集団だけに限定するんでしょうか。我々はもっと、真剣に議論するべきだと、私は思います。

進行・福田:テロリズムという「名付け」によってラベリングされる、ということですかね。構造の、フレームづけが、行われているということですね。これは、メディア研究でも、テロリズム研究でも、研究されているところなんですけれども、なかなかジャーナリズムの現場のみなさんと、意見交換ができないということなんですね。

議論は難しい部分がありますけれども、「テロリズム」もしくは「テロリスト」という表現をすることに関連して、たとえば「イスラム国」という呼称の問題など、言葉の使い方に関して、どういう問題があり、どういう考えがあるのか、お聞かせいただければ幸いです。

朝日新聞・石合:「テロ」という言葉ですけれども、これは、中東報道に関わった者からすると、やはり、常に「みずからに、問いかけられる言葉」なんですね。さっき、土井さんが説明していたように、国家による暴力は「テロ」ではないのか、アメリカに立ち向かう組織や反キリスト教的な組織のみが「過激派」なのか、「テロ」なのか、ということです。この問いかけについて、私は、報道のなかで「テロ」という言葉をできるだけ限定的に使いたいと考えている一人です。

土井さんの問いに対するキャッチボールのようになりますけれど、「組織ジャーナリズムのみが、イスラエルや国家による暴力を『テロ』と認めていない」という指摘であるとすれば、そうではないとお答えしたいです。この問題については、われわれ自身が読者といっしょに考えていかなければいけないということを、いろんなかたちで提示しています。

今、土井さんがお話しされたガザの人道状況についても、弊社の特派員が現地に入って、取材を行っています。この記者は「民間の家屋が多数失われている。また、民間人、子供、女性が死んでいる」という話を、現地から伝えてきました。

中東報道に関わった人間であれば、アメリカによる中東政策の理想と現実の乖離にだれもが直面していると思います。自由や民主主義の保護者としてアメリカが介入したという立場と、現地の状況があまりに違っていると。

それはおそらく、日本のメディアが、自ら現地に足を運んで取材を行うことのひとつの理由になるんじゃないかと思います。どういう組織に身を置こうとも、こういった問題を報じていく姿勢というのは、当然、必要なことなんじゃないかと考えています。

TBS・井上:今年1月、うちの中東駐在だった記者が、シリアに取材に入りました。そのとき、彼に伝えたのが「なぜそもそも、シリアや中東が、今の状況になってるのかというのを、一から伝える必要があるんではないか」ということでした。

すると、どうしても、欧米との関係に触れなきゃいけません。イスラム国の誕生については、誰が悪いのかというよりも、なぜこういうふうになったのかを紐解く必要があるんじゃないかと考えて、中東の目線で欧米がこれまで何をやって来たのかという点にも、ことあるごとに、触れようと努力はしています。

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