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国立競技場問題の原因究明:賭博研究者の視点

本エントリは、国立競技場建て替えに関連するシリーズ投稿の続きです。先のエントリを未読の方はリンク先を参照。

その1:「誰かさん」の面子の為に使われるtoto収益
その2:「国立競技場」なる複合観光施設開発の失敗について
その3:国立競技場問題:可動屋根は「採算が合う」は本当か?
その4:国立競技場問題: totoくじ収益の「目的外」利用
その5:新国立:必要なのは「デザイン」ではなく「機能」の見直し
その6:新国立問題:森喜朗氏のヒールっぷりには感動すら覚える
さて、安倍政権が建て替え計画の白紙撤回を行ったことで、これまで延々と論じて来た国立競技場問題は新たな局面を迎えました。安倍政権は、本問題の原因究明を行う第三者委員会の設置を予定しており、今後、様々な論議が行われるものと思われます。この原因究明は、主に土木、建築、開発など様々な観点で行われるものと思いますが、実は賭博研究者たる私の目には別の切り口からの本問題の「原因」が見えています。

1. 論旨

土木、建築、開発など様々な目線で既に原因分析が始まっている国立競技場問題ではありますが、実は本問題は2013年に行われた「独立行政法人日本スポーツ振興センター法」の改正と、それ連なるスポーツ振興券(通称:totoくじ)収益めぐる利権獲得競争に起因するものです。以下では、なぜこのような問題が起こったのか、その背景について何回かにエントリを分けながら、順を追って解説をしてゆきたいと思います。

2. 独立行政法人日本スポーツ振興センターとは

今回の国立競技場建て替え問題によって、急に全国区にその名が知れ渡ることとなった「日本スポーツ振興センター(通称: JSC)」、本団体は国立競技場の管理運営を行っている文科省所管の独立行政法人であり、その業務の内容は国立競技場に留まりません。JSCの主な業務の内容を整理すると、以下のように大きく4つに分類されます。

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上記をご覧になってお判りの通り、国立競技場運営というのは寧ろJSCにとってはその事業の一部分でしかありません。本独立行政法人は、その他に様々な事業を併せ持ち、年間の予算規模が1800億円にも達する超巨大独法なのです。

3. totoくじ業務

このように多岐にわたるJSCの業務でありますが、なかでも特に際立っているのがその収入の60%以上を生み出しているスポーツ振興投票、いわゆる「totoくじ」の販売業務であります。totoくじは、我が国の刑法で禁止される「賭博および富くじ」にあたる行為ではありますが、1998年のスポーツ振興投票法の成立によって公の行う特別な事業として合法化されました。JSCは、このスポーツ振興投票法第三条によって、我が国唯一のtotoくじの施行主体(実施主体)として定められています。現在、totoくじの売り上げは年間1100億円にも及んでおり、前出の通りJSCの事業収入の60%以上を占める中核業務となっています。

4. totoくじ収益とスポーツ振興助成業務

但し、この1100億円におよぶtotoくじの販売売上ですが、実は法律上、その使途が厳密に制限されており、JSCが勝手にその采配を行うことはできないようになっています。totoくじの論拠法であるスポーツ振興投票法は、その第21条第1項においてその使途を以下のように定めています。

センターは、スポーツ振興投票に係る収益をもって、文部科学省令で定めるところにより、地方公共団体又はスポーツ団体が行う次の各号に掲げる事業に要する資金の支給に充てることができる。
上記のとおり、原則的にtotoくじ収益はあくまで地方公共団体、もしくはスポーツ団体に対する資金の支給に充てるものとなっており、その公平性および透明性を担保するためにその助成にあたっては第三者委員会による審査が義務付けられています。

一方でJSCは、totoくじ事業以外にも国立競技場運営を含めて様々な事業を抱えているわけですが、実はJSCがこれら己自身で行っている別事業に対してtotoくじの収益を勝手に充当することは許されていません。独立行政法人日本スポーツ振興センター法は、その第19条において、totoくじ売上のうち最大15%を「totoくじ販売にかかる運営諸費」として拠出することを認めていますが、一方でJSCが抱えるtotoくじ以外の事業に対してそれを拠出する場合には、同法第11条の4の規定に基づき第三者委員会による審査が必要であるものとされています。

【参照1】
独立行政法人日本スポーツ振興センター法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO162.html

第十九条  次に掲げる業務に係る運営費の金額は、スポーツ振興投票券の発売金額に応じて当該発売金額の百分の十五を超えない範囲内において文部科学省令で定める金額(スポーツ振興投票券の発売金額が文部科学省令で定める金額に達しない場合にあっては、文部科学省令で定める期間内に限り、別に文部科学省令で定める金額)を超えてはならない。

【参照2】
その他のセンター業務に関連する方針(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/toto/1294570.htm

スポーツ振興投票の実施等に関する法律施行規則(平成10年文部省令第39号。)第11条の4の規定に基づき、センターがくじ収益をセンター事業に充てようとするとき又はスポーツ振興基金に組み入れるようとするときは、あらかじめ審査委員会の意見を聴くものとする。
このように、スポーツ振興投票法および独立行政法人日本スポーツ振興センター法は、JSCが己の運営する事業に対して延々とtotoくじ収益を注ぎ込み、「焼け太り」を起こすことを防止するためにtotoくじ収益の使途に対して様々な制限を設けているのです。

5. 独立行政法人日本スポーツ振興センター法の改正

ところが、そのようなJSCの「焼け太り」を防ぐためのルールが崩壊し、モラルハザードが発生することとなったのが2013年5月に行われた独立行政法人日本スポーツ振興センター法の改正です。この法改正は、当時すでに日本開催が決定していた2019年のラグビーW杯、2020年のオリンピック開催において国立競技場がメインスタジアムとして利用されることを念頭に置きながら、その建て替えコストを拠出するために文科省が中心となって法案を作成したもの。その結果、「独立行政法人日本スポーツ振興センター法」に以下の条文が付け加えられました。
センターは、スポーツ振興投票券の売上金額の百分の五を超えない範囲内において文部科学大臣が財務大臣と協議して定める特定金額を、国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める特定業務に必要な費用に充てるものとする
この条文は、JSCがそもそも最大15%として許されていたtotoくじ売上のtoto事業運営費への拠出とは別に、さらに5%を「国際的な規模のスポーツ競技会の招致および、その円滑な開催を目的とした整備事業」の名目で国立競技場の建て替え事業に対して拠出することを許すものです。

先述のとおり、totoくじ収益というのは第一義的に地方自治体やその他のスポーツ団体に対する「助成」に対して利用されるものであり、その他の事業に拠出するにあたっては第三者委員会による審査が必要となります。ところが本法改正は、そのような第三者委員会の権限よりも更に上位にある法律のレベルでその審査が実質的に及ばぬ状態を作り出し(いわゆる「骨抜き」)、JSCに対してtotoくじ売上の最大5%分の資金流用を認めてしまった。このことにより、JSCは年間1100億円のtotoくじ売上の5%、およそ年間55億円分の独自予算を獲得した事になります。

実は、今回の国立競技場建替え問題は、この55億円分の「使い道」をめぐる関係各所の利益争奪戦の末に発生したものとも言えるのです。本投稿は次エントリに続きます。

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