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  • 松井孝治

青木昌彦先生を悼む

今朝の天声人語は、私にとっては青木昌彦先生への「追悼文」である。

青木先生とは、1998年夏から2000年の秋にかけての2年3か月ほど、通産省の通産研究所を、非公務員組織の経済産業研究所(RIETI)へと改組するに当たっての上司・部下として仕事をし、その後も公私ともどもにご指導いただいた関係である。

天声人語が「ダンディズムを感じさせる人だった。」と語り始めるように、青木先生は、まさに、ダンディがジャケットを羽織っているような方だった。
相手が誰であっても通すべき筋は通す。
当時30代の私や、さらに年少の若手であっても傾聴すべき意見には謙虚に耳を傾けられた。
年少でも年長でも、リスペクトする人は、呼び捨てにするか、○○氏という表現のどちらかを使われることが多かった。呼び捨てはその人物へのある種の敬意の表明である(もちろん批判の意を込めた場合もなくはなかったが)。

そういう先生のもつリベラルな雰囲気を良いことに、10年ほど前のある晩、私が主催する勉強会に先生をお招きして、
『先生は何故に「姫岡玲治」(青木先生の若き日のペンネーム)としてブント(共産主義者同盟)の中核を担われたのですか?(世界的な経済学者として名を馳せる)いまの先生からは想像がつかないのですが?』
と、今考えればとても失礼な質問を連発する機会があった。

先生は、例によって、あの、はにかんだような笑顔を浮かべつつ
『あの頃、時折湘南に出かけたものなのだけれど、湘南の明るい太陽のもとで、知的にあのような議論を究める風土が、当時の論壇にはあったんだよねえ』
と一瞬遠い目になられて、また微笑まれた。
それがどこまで本音なのか、ある種の照れ隠しなのか、はたまた煙幕なのか、その真意にまでは到達できなかったことを思い出す。

私が、「RIETI(経済産業研究所)は青木インスティテュートにするんです」と力むと、嬉しそうな笑顔で、
『「梁山泊」だよね。面白い人間をうんと集めよう』
と言っていただいて、省内外から先生がこれはと思う人材、そして、僭越ながら僕がこの方はと思う人々も、集(つど)っていただいた。

青木先生は、政府の組織(チームAないし正規軍とも仰っていた)が過去の経緯を踏まえたオーソドックスな政策を作るのであれば、科学的見地から、それに対して常に批判的・懐疑的検討を加え、対案を作る、個人としての好漢の巣としての「梁山泊」(チームB)を作らなければならない。その際の後ろ盾には自分がなろうということを強烈に意識しておられたと思う。

青木人脈は学界、官界、実業界、政界と多彩で枚挙にいとまがないが、敢えて故人をあげれば、その一人が、通産省の高鳥昭憲氏(1979年入省・初代政策審議室長)であり、今一人が大蔵省の戸矢哲朗氏(1995年入省。スタンフォード大学Ph.D。大蔵省文書課兼経済産業研究所フェロー)であった。
この二人の俊秀が相次ぐようにして病に倒れ、亡くなった時に青木先生がいかに哀しまれていたか、今でも痛烈に思い出す。

霞が関の省庁を超え、また海外からも、民間からも、青木先生を慕って、多様、優秀かつ過激な人材が集結したことは、一躍RIETIの名声を高らしめた。しかし、そのことは必ずしもすべての人々にとって愉快なことばかりではないようだった。数年後、青木RIETIは、現実の利害調整を踏まえ苦労して政策をまとめている霞が関の組織的努力に対して、容赦なく批判の矢を向ける反抗者の巣窟としての梁山泊だという批判の声も高まることになる。そして、やがて青木先生は国内での活動基盤を東京財団仮想制度研究所(VCASI)などに移していかれる。

しかし、そのような立場の変更にもかかわらず、終始一貫、青木先生は、先生を慕い、談論風発、大いに議論する者たちには、年齢や、所属組織や、多少の意見や思想の違いなどを超えて、厳しくも温かい眼差しを注がれ続けた。青木先生こそ真のリベラルと私が確信する理由はそこにある。

今を去ること15年、RIETI発足直前に、参院選出馬のために役所を辞めざるを得なくなった(ある筋から圧力がかかった)私にも、笑顔で、「敵前逃亡だし(笑)、正直困るけれど、まあ仕方ないね。いずれ民主党は政権をとると思うよ。その時にこの党にはきっと君が必要だと思う。頑張りなさい」と励まして送り出していただいた。 議員になってからも、何かことあるたびに激励やアドバイスを頂き続けた。

当時の現役政治家では、誰よりも与謝野馨氏を敬愛しておられて、そのこともいかにも青木先生らしかった。

先生のことを考えると、いろんな出来事や感慨が、連なって出て来て、とどまるところを知らない。今朝の天声人語を読んでいて、不覚にも涙が零れたのは、そんな思い出が溢れ出たからだ。

しかし、涙なんぞ流していた日には、天上から、「松井さんらしくないね、それより最近、君は一体何を仕掛けてるの?」と、青木先生に、例の笑顔で叱られそうである。

青木先生、本当にありがとうございました。

(天声人語)二つの「チャレンジ」 - 朝日新聞デジタル

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