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「チーム安倍」の大誤算 - 鈴木耕

 漏れてくる話によると、安倍首相周辺には「チーム安倍」とかいうものがあるらしい。首相官邸や自民党内部の、安倍首相(総裁)に極めて近い議員たちが寄り集まっている集団だという。

 実は「チーム安倍」とは、第1次安倍内閣の際に、総理大臣側近グループとしてかなり話題になったのだが、中でも官邸5奉行と呼ばれた「フールファイブ」(直訳すれば、5人のバカ)という5人組が有名だった。安倍首相の政権投げ出しとともに、チームはいったん消滅したのだが、同じようなグループが今も陰で蠢いているらしい。

 そのフールファイブの生き残りが、下村博文文科相、塩崎恭久厚労相、それにメディア戦略を担当する世耕弘成参院議員であり、現在も安倍側近として威勢を誇っている。

 そして、我も我もと名乗りを上げて安倍首相に取り入った面々もまた、現在の「チーム安倍」と見ていい。それが、先日の「文化芸術懇話会」なる恥ずかしい名前の“勉強会”に出ていた加藤勝信官房副長官や萩生田光一自民党総裁特別補佐、それに18歳の少女にツイッター上の議論で論破されてその少女のツイッターをブロックしてしまい、大いに話題を集めた磯崎陽輔総裁補佐官などである。また、安倍首相がもっとも目をかけている女性議員の稲田朋美自民党政調会長もその一員といわれ、一部では初の女性首相と期待されている、などという声さえある。

 こうして見ていくと、いずれも極端な右翼思想の持ち主であることが分かる。つまり、「チーム安倍」とは、自民党内でも最右翼に位置する議員集団であり、安倍本人によく似ている。類は友を呼ぶというが、おこぼれ欲しさに擦り寄る幇間(たいこもち)集団、ともいえる。

 だがここにきて、「チーム安倍」は誤算だらけだ。安倍支援を目的としているはずの面々が、支援どころか足を引っ張るヘマばかり、逆に安倍支持率の急降下の原因にもなっている。

 安倍首相自身の言葉がデタラメなのだから、親衛隊が同じようなものであっても仕方ないが。

 「安全保障関連法案」を何としてでも通したいと願っていた安倍に、まず冷や水を浴びせたのが、衆院憲法審査会での「憲法学者3人の違憲発言」だった。しかも、自民党推薦学者までが「違憲」と言い切ったのだから、この衝撃は大きかった。

 菅官房長官が「合憲だという著名な学者もたくさんいる」と弁解したけれど、「では、その名前を」と迫られて、ついに「数ではないでしょう」と開き直る始末。報道各社がそれではと「憲法学者アンケート」を実施したが、どの調査でも「違憲」が圧倒的で、賛成はほんの数名という結果。

 公明党の山口那津男代表も、記者団に「学者にはいろいろな考えがあり、政府の対応は揺らぐことはない」などと抗弁したけれど、圧倒的な反対とほんの数名の賛成という結果に「いろいろ」などとどうして言えるのか。憲法そのものに関しては護憲・改憲の立場の違いはあろうけれど、今回の「安保法制」のやり方については、大多数の憲法学者が「違憲」だと断じている。どこが「いろいろ」か?

 山口代表も弁護士でありながら、「安倍話法」という詐欺的言葉づかいに伝染してしまった。公明党、無惨。

 憲法学者たちの「違憲意見」は「チーム安倍」の仕掛けではないが、そのショックに追い打ちをかけたのが、あの“勉強会”での大暴言大会。これが「チーム安倍」の主要メンバーの仕掛けだったのだ。「報道圧力」「沖縄2紙を潰せ」「メディアへの広告料を止めろ」などなど、ネット右翼も真っ青なほどの言いたい放題。しかも、それを煽ったのが安倍首相と大の仲良しの百田尚樹氏というから始末が悪い。

 安倍は仲間をかばうために「私が出てもいない場での発言をもって、私が処分するわけにはいかない」と、いつも通りの無責任。だが、この報道圧力には、さすがの読売新聞ですら異を唱えざるを得なかった。もう、「チーム安倍」はぐちゃぐちゃである。谷垣幹事長は渋々ながらも主催者の木原青年局長の更迭と、発言者たちの厳重注意処分に踏み切らざるを得なかった。

 だが、どうしても安倍側近にしてもらいたい大西英男議員は「マスコミを懲らしめなければならない」と再度発言、火に油を注ぐ。本人は「安倍首相の代弁」をしているつもりなのだろうが、あまりに頭が悪すぎる。収まりかけた火がまた燃え盛った。

 安倍首相の、仲間なのだから処分は控えたい、という配慮もさすがにこれで吹っ飛んだ。党内の若手(?)安倍親衛隊員たちは、とりあえず言動自粛ということになった。

 「チーム安倍」に狼煙を挙げさせて情勢を判断、その後にもう少しやわらかな表現で危険なものを持ち出す…という安倍手法が取れなくなったわけだ。その間にも、各社の世論調査での安倍内閣支持率は急落の一途を辿る。これ以上待っても、支持率好転の兆しはない。

 憲法学者のみならず、分野を超えた学者・研究者たち1万人超も「反対する学者の会」を結成。ノーベル賞受賞者の益川敏英京大名誉教授も、会見では語気を強めて安倍政権を批判した。ほかにも、国民安保法制懇、映画人の会や演劇人の会、日弁連、女性弁護士の会、日本ジャーナリスト会議、さまざまなNGOの連合体、反対するママの会まで、多種多様の反対する組織が続々と生まれている。

 国会周辺では新しい動きも顕著になった。学生・若者たちが作ったSEADLsの集会が、回を重ねるごとに参加者を増やし、ついには5万人~10万人と言われるほどにまで膨れ上がった。しかも、これが東京だけの現象ではなく、各地方にもSEALDsを名乗るグループが続々と産声を上げている。高校生や中学生たちの集会も注目を集め始めている。

 18歳選挙権が、ここにきて若者たちの目を覚ました、と言っていいのかもしれない。

 また「アベ政治を許さない」と俳人の大御所・金子兜太さんが揮毫したポスターが、全国各地に広がり、作家・澤地久枝さんらの呼びかけで、7月18日午後1時には、これを各自の居る場所で掲げよう、という運動まで起きた。全国で1000カ所もの呼応があったという。

 言葉はもう「安保法制反対」ではなくなった。「アベ政治を許さない」と、はっきり内閣打倒の呼びかけに変質しつつある。

 この動きに、官邸筋はそうとう神経を尖らせている。

 さらに、安倍首相の誤算は続く。新国立競技場問題だ。

 これに関し、またも安倍首相は「あれが決まったのは民主党政権時代でしょう」と責任転嫁。しかし、誰がどう考えてもひどいどんぶり勘定。1300億円がいつの間にか2500億円以上に膨れ上がった建設費。その膨張ぶりは、明らかに自民党政権下ではないか。所管は文科省。そのトップは「チーム安倍」の主要メンバー下村文科相である。

 しかも、安倍首相にはこのデザインを譲れない理由があった。

 2013年9月、ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、例の歴史的大ウソ「福島原発事故の状況は完全に統御(アンダーコントロール)されています」を吐いた際、同時に「ほかのどんな競技場にも似ていない真新しいスタジアムと、確かな財政措置まで確実な実行を約束します」と大見得を切ったのだ。

 これを安倍首相は「オリンピック開催についての国際公約」で、絶対に譲れないものとしてきたのだ。あの米議会で「この夏までには安保関連法案を成立させます」と口走り、それを国会軽視の「国際公約」としてしまったのと同じパターンだった。

 海外へ出かけて勝手な発言をし、多額の援助金をばら撒くという安倍外交が、ここにきて逆に安倍の足枷となった。世論は80~90%もがこの新国立競技場計画に反対しているが、外国にはいい顔をしたい安倍にとって、そう簡単に計画をひっくり返すわけにはいかなかったのである。

 そこで、責任のなすり合いが始まった。

 特に下村文科相がひどい。「あれは安藤忠雄選定委員長に、きちんと説明してもらう必要がある」と、さっそく責任転嫁。

 河野一郎日本スポーツ振興センター理事長は「政府判断なので、指示に従ったまでだ」。

 7月17日に「白紙見直し」の発表に追い込まれた安倍首相は「1カ月ほど前から計画を見直すことが出来ないか検討してきた」と、ずいぶん前から検討してきたようなことを言うが、これもおかしい。

 6月29日には下村文科相が「現行案で行く」と政府最終案を発表しているではないか。政府案なら、当然、安倍首相も了承しているはず。「1カ月前から見直しを検討」していたとしたら、6月29日は「1カ月前」ではないのか。もう計算もできやしない。

 それを下村文科相は「2020年五輪に間に合うかどうか確信が得られなかったので、一応、組織委員会では現行案でということで報告したが、1ヵ月ほど前から見直しの検討には入っていた」と、そうとう無理な弁解。こんなのは後付けのリクツだと、分からないほうがどうかしている。

 支持率急落に焦った安倍首相は、ついに「白紙見直し」に踏み込まざるを得なかった。少しでも支持率下落を防ぐための窮余の一策であることはミエミエだろう。

 それにしても、森元首相って、ひどい人だとは思っていたが、これほど最悪だとは…、普通人には到底ついていけない。

 「ほんとうはあのデザインは好きじゃなかった。生ガキがドローっと垂れているようで…」とか「2500億円ぐらい出せばいいじゃないか」などと言いたい放題。「お前が、そのカネを出せよ」と突込んでもバチは当たるまい。いったい、その2500億円のカネって誰のものだと思っているんだっ!

 7月15日、ついに安倍自民党とベタベタ連立の公明党は、特別委員会での「安保関連法案」の強行採決に打って出た。60日ルールからの逆算スケジュールもあるだろうが、支持率低下に歯止めがかからない以上、強行しか道はなかったのだ。

 確かに与党圧倒的多数の衆議院は通過した。だが、そう簡単に参議院も通過できるとは思えない。「安保反対」の声は、国会周辺のみならず、全国へ波及しつつあるのだ。

 ぼくは、この法案は潰せると思う。

 どうしても潰さなければならないと思う。

 それでも懲りない安倍首相は、テレビに連続出演。その場で、またしても「隣の家が火事になった時…」という、愚劣なたとえ話を、妙な模型とともに持ち出した。例の「友だちのアソーくん」のたとえ話があれほどバカにされたのに、また同じ手法を使う。陰でアドヴァイスしているはずの「チーム安倍」の面々の頭脳って、この程度のものか。

 だいたい、戦争の話をするのに、隣家の火事とか泥棒とか友だちが襲われるとか、そんなたとえ話で国民が納得すると思っているとすれば、それこそ国民を舐めている。よけい人々の怒りの火に油を注ぐことになると「チーム安倍」は考えなかったのだろうか…。

 けれど、ある意味で、ぼくらは勝ちつつある。「憲法改定」が、安倍の手では、事実上不可能になったと思うからだ。

 この安全保障関連法案の審議の推移の中で、どれほど安倍案がデタラメだったかは、もうイヤになるほど明るみに出た。これを「憲法改定」に結び付けて国民に提示したとしても、いま以上の反発を受けることは間違いない。自民党に「憲法改定」を発議するほどの勇気は、もはや残っていいないだろう。

 「解釈改憲」でさえこれほどの怒りに包まれたのだ。「明文改憲」を、もう自民党が言い出せるはずはない。いずれにせよ、安倍の(祖父・岸信介の)悲願である「憲法改定」への道は、事実上閉ざされたのだ。

 だがぼくらは、ともかく「戦争法案」であるこの法律の成立を絶対に阻止しなければならない。

 阻止のための、熱い夏である。

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