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安保法制の論点(その4、重要影響事態)

 重要影響事態についても、疑問が晴れませんでした。

 元々は周辺事態と言われていたものでして、これの定義は「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」です。ちなみに、周辺事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」という言葉が前に付きますが、これについては例示であり定義には影響を与えないという答弁があり、今回、私もそれを政府に確認しています。

 今回の重要影響事態というのは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」です。これまでの考え方ですと、「・・・おそれのある事態等」まではただの例示でして、重要影響事態というのは「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」が定義です。

 なお、公明党は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」という例示が残っていることは、重要影響事態でも基本的にはこのような例示を基本として考えることになるのであるから歯止めとなっている、と主張しておられます。公明党の気持ちは分かるのですが、そこまでの意味を例示に持たせることは無理があると思います。

 では、こういう事態として何が当たるのか、ということがポイントになるわけですが、周辺事態の時に当時の野呂田防衛庁長官が提示した以下の六事例というのがとても参考になります。

① 我が国周辺の地域において武力紛争の発生が差し迫っている場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
② 我が国周辺の地域において武力紛争が発生している場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
③ 我が国周辺の地域における武力紛争そのものは一応停止したが、未だ秩序の維持、回復等が達成されておらず、引き続きその事態が我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
④ ある国において内乱、内戦等の事態が発生し、それが純然たる国内問題にとどまらず国際的に拡大している場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
⑤ ある国における政治体制の混乱等によりその国において大量の避難民が発生し我が国への流入の可能性が高まっている場合であって、それが我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
⑥ ある国の行動が国連安保理によって平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為と決定され、その国が国連安保理決議に基づく経済制裁の対象となるような場合であって、それが我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。

 今回の法改正でこれがどう変化するのか、ということを聞いてみると、「この六事例は引き続き当てはまる」という答弁しか返ってこないのです。それは「当たり前」なのです。これまでよりも定義が広がっているのですから、元々の六事例が当てはまらないはずがないのです。その外縁がどの程度広がっているかというのがとても重要なのです。

 普通に考えたら、定義のところで「我が国周辺の地域における」というのが落ちる以上、この六事例においても、①~③においては「我が国周辺の地域における」という言葉を落とせば、新たな六事例となるのかという疑問が生じます。

 政府答弁は「そうしてしまうと、例えば②は『武力紛争が発生している場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合』となってしまい、あまりに広すぎる。それは違う。」いうものでした。私もそう思うのですけど、しかし、論理的には、定義で「我が国周辺の地域における」が落ちている以上、私の懸念は特に奇異なものではありません。むしろ、定義でそういう変化があるのに、提示している事例は変化しないという根拠を説明する責任は政府にあるはずです。今回の改正法の用語をそのまま読めば、「世界中何処で起こる武力紛争であろうとも、それが我が国の平和及び安全に重要な影響を与える、と判断するのであれば、それに対処する米軍への後方支援はやる。」としか読めません。それを限定する規定は法律の何処にもありません。

 しかも、この野呂田六事例は周辺事態を包括的に説明するものではなく、周辺事態はその他の事例も含み得るというのが、これまでの立場でした。となると、整理学的には「野呂田六事例⊂周辺事態⊂重要影響事態」となるはずです。では、それぞれの包含関係の中に何を含むのかということが疑問になってくるはずです。野呂田六事例と重要影響事態との間には相当多くのものが含まれる可能性が高いですので、もはや野呂田六事例を使いながら重要影響事態を説明すること自体が(その間に含まれるものが多いため)不適切になってきます。上記で述べた「引き続き当てはまる」なんていう答弁は殆ど意味をなしません。

 具体的事例としてはインド洋や南シナ海で武力紛争が起こり、それが我が国の船舶の通行に支障を来たし、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態はあり得るとしているのです。周辺事態については、当時の小渕総理が「インド洋で生起することは想定されない」と排除したわけですから、少なくとも範囲は拡大しているのですね。

 ここまで来ると、「我が国の平和及び安全」というのが何を指すのかとても重要になってきます。最後はこれ以外の判断基準がないのです。しかしながら、この「我が国の平和及び安全」が何を指すのかについて明確な答弁は全くありませんでした。

 この重要影響事態というのは客観的な要件(例えば国連決議)は必要なくて、あくまでも我が国が「重要影響事態だ」と判断すれば、それに対処する米軍等の後方支援が出来るわけです(今回、米軍のみならず、それ以外の国も後方支援対象に入ってきています。)。である以上、その判断基準くらいは示してもらえないと国民の理解は深まりません。「原則として国会承認の対象だから、そこできちんと示す。」なんて答弁もありましたが、さすがに不誠実だと思います。

 今回の法制度で、米軍等の後方支援をするための法律は2つです。この重要影響事態(我が国の平和及び安全)と国際平和共同対処事態(国際社会の平和及び安全)です。後者は発動要件として国連決議を要求していますので、そういうものが全くない状態では検討すらできません。とすると、「国際平和共同対処事態に当てはまらないなら、重要影響事態で引っ掛けて、いずれにせよ米軍を何時でも後方支援できるようにしよう。」という衝動は起きないのか、という疑問が出てきます。そうではないというのであれば、本当に「我が国の平和及び安全」についてもう少し要件を出すべきです。

 本来は最も日本の防衛にとって重要となる部分ですが、何となく「打ち出の小槌」感があるように見えることが懸念されます。

【関連記事】
安保法制の論点(その1、存立危機事態)
安保法制の論点(その2、海外派兵)
安保法制の論点(その3、南沙諸島)
安保法制の論点(その5、改正PKO法)

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