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新国立迷走に見る、コミュニケーション混乱の斬り方 - 増沢隆太

新国立競技場をめぐる混乱は、さまざまな意見と責任、納期や価格といった要素が飛び交うプロジェクトマネジメントの混乱状態として、われわれの身近な教訓となります。利害関係者さまざまな意見が輻輳し、締切が迫る中で事態がこう着するという状況は、組織管理者なら誰もが巻き込まれる可能性のあるものといえるでしょう。新国立競技場建築の是非という視点ではなく、何が何だかわからない内に事業がぬきさしならなくなってしまった事態への対応を考えるモデルとして考えてみましょう。

■自分が悪くなくとも沸き起こるさまざまなプレッシャー


あまりのべらぼうな予算増とそのずさんな運営から、読売新聞の世論調査でも8割超の見直し意見が出るなど、大きな批判を呼んでいる新国立建築問題ですが、企画提案をしたことのある方は、規模は違えど似たような状況を経験していないでしょうか。自分がいったのでも、決めたのでもないことの責任を追及され、予算や納期にがんじがらめに縛られているのに議論はまとまらず、にっちもさっちもいかなくなる状況に、私は何度も会いました。

プロジェクトマネージャーはさまざまな文句やプレッシャーにさらされます。飛び交う意見には、どれも一理はあっても、逆に全体を包括しての問題解決は出来ない視点ばかり。正にあちらを立てればこちらが立ちません。こうした混乱状態は平時ではなく戦時です。そんな時こそ一見遠回りに見えても一つ一つの課題を再点検することが欠かせません。たとえば・・・

・国際公約だから今さら変更できない
コストの高騰にむしろ批判的なのは国際本部では?法的拘束なのか、それとも国際儀礼なのか、「できない」とはそもそも本当なのか確認したのか?

・決めたのは他党だから/審査委員長だから、責任は自分にはない
だったら政権成立時に廃止すれば?引き継いだ時点で責任も引き継いでいるはずでは?
審査委員長を選任した責任者は誰?審査委員長は施工と費用管理責任もあるのか?

・予算の見積りを見誤った
消費税増税のように予期できる見積りの違いはミスではなく単なる怠惰。資材高騰のような市況の相場変化は不可抗力だが、それ以上に本当に見積もったのか。誰の責任で見積り、金額を決めたのか、責任者が必ず存在するはず。

・今から再度コンペを行う時間がない
コンペとは1位を決めるだけでなく、このような見積りのずさんさや間違い、嘘などが露見すれば次席に権利が移行するもの。そもそも再コンペが必要な理由がない。

・ラグビー開催に間に合わない
間に合わないと何が起こるのか。本大会が開催できない以上のリスクなのか。

・歴史的価値のある旧施設やアパートを取り壊すべきでない
今の時点でその批判を聞いてできることがあるのか。たとえ価値あるものであっても、今討議する優先順位としては低い。

・国の威信のかかった立派なデザインが必要
威信も立派なデザインも否定しないが、だから無尽蔵に予算を使いまくってよい理由になっていない。財源(予算)がある以上、その中でできる威信発揚とデザインに出来ないのであれば、それを求める個人が自己資金でやるべき。


■「クラスのみんなが持っている」という子供の言い分


一つ一つの意見には当然見るべき点も真理もあります。しかしその判断においては今目の前にあるプロジェクト遂行という究極の目的があり、判断基準はすべてそこに収斂しなければなりません。ダブルスタンダード、トリプル・マルチスタンダードが持ち込まれれば、判断などできません。つまりスタンダード(基準)が複数ある状態こそが混乱状態なのです。

意見を取り上げるのなら、そこには責任も発生します。単に「ダメなものはダメ」ではグズった子供です。しかし法律や物理的に不可能なものは、どれだけの正当性があろうと排除しなければなりません。不要なものは捨てること、それがプロジェクトマネージャーの仕事です。批判は受けて当然ですが、いわれなき批判など顧みる余裕は今はありません。

会議などでも「お客さんがみんな(良い/悪い)と言っています」という意見をよく聞きますが、そんな時必ず私は「お客さんとは、どこのだれですか?」と聞き返します。具体的に「顧客100社中78%が反対している」というような意見でなければ「クラスのみんな持ってて、持ってないのは僕だけ」という子供の言い分と同レベルです。

顧客が、みんなが、会社中が、国民が、世論が・・・・このような集合名詞での反論は、特に要注意です。個人の思いを勝手に集団にしているだけで、実は根拠が無いことがきわめて多いものです。もちろん厳密な証拠に基づく反論であればこの限りではありません。


■プロジェクトマネジメントにおける「捨てること」の重要性


プロジェクトの混乱という非常事態の中で、すべての意見や意向を調整する余裕はありません。ゆえに百出する意見があるのであれば、その中で聞くべきものはまず「責任を伴っての意見」です。感覚的には混乱時の意見の8割方はこれで消去できます。先に挙げた例でも「見積りを誤った」というのは理由になりません。

「当初1300億で予定していたものが消費税値上げや資材高騰でコストがかさんだ」という理由が本当なのであれば、同じことが今後も起こるということになります。資材の市況は一定ではない以上、この先また変化があり得るからです。また市況の変動幅にも自ずと適性レンジがあります。資材予算総額に対して20%は見込む必要があるなど、本当の専門家なのであれば、そうした幅を見積り時に含められない時点で仕事をしていないことになります。まして消費税増税のような確実に予見できる準備を怠っていたという事態は、言い訳にすらならず、単に職務怠慢で間違った見積りを出してしまっただけです。

1300億の想定が2500億超にという異常な高騰は、見積りミスのレベルではありません。一般企業であればプロジェクトマネージャーの首が飛ぶだけでは済まず、担当役員、下手すれば社長にまで責任が及ぶレベルといえます。しかし今回の問題にはプロジェクトマネージャーが一切登場しません。下村文科大臣なのか、安藤氏か、森元首相か、都知事か、意見を表明はしても自分の責任だと名乗る人は不在です。おそらく実際には役所のどこかに真のプロジェクトマネージャーはいるのかも知れませんが、それが不在であるということが、今の混乱の原因でしょう。

責任の伴わない意見は、たとえお偉方のものであっても捨てること。その見きわめと「捨てる」決断こそ、混乱収束のカギであり、プロジェクトマネージャーの役割です。八方丸く収めることではなく、必ず誰かの意見を否定することは避けられず、場合によっては恨みを買うこともあり得ます。それでも捨てることがご自分の役割なのだと理解し混乱を斬って下さい。

【参考記事】
■「お前の話はわからん」といわれる理由
http://shachosan.rm-london.com/?eid=830212
■自分の時価 転職時に顧みること
http://shachosan.rm-london.com/?eid=850279
■「手書き履歴書で人柄がわかる」という勘違いへの対策
http://sharescafe.net/44225940-20150411.html
■マスコミが被害を拡大!?つまようじ少年事件の損得勘定は?
http://sharescafe.net/44851883-20150615.html
■ギリシャ問題の取り上げ方から明らかになった「金融後進国 日本」
http://sharescafe.net/45455788-20150707.html

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