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東芝不適切会計処理事件-第三者委員会報告書(要約版)への雑感

祝日(7月20日)の午後9時40分、会計不正事件に揺れる東芝さんのHPにおいて第三者委員会調査報告書の要約版が公表されました(正式版は7月21日の午後3時ころに公表されるそうです)。要約版といっても80頁程度の分量なので、読むのはたいへんですね。事件の内容についてコメントするのは正規版が公表された後にしたいので、とりあえず要約版を一読した雑感だけを述べたいと思います。

なんといっても(ほぼ予想どおりですが)これから東芝さんが遭遇する(長くつらい)米国当局とのお付き合いや集団証券訴訟(クラスアクション)に十分に配慮された報告書だなぁ、といった第一印象を持ちました。会計不正に関する第三者委員会報告書のケースでは、通常は日弁連ガイドラインに準拠しました、と明記するのですが、そのような記載はなく、逆に「本調査は東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われたものである」と明記されています(要約版14頁)。「第三者委員会報告書の英訳はこわいなぁ」と考えていましたが、「たとえ英訳版が作成されたとしても、当委員会は責任を負わない」とも書かれています(同頁)。すなわち、日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会の調査は、会社を取り巻くステークホルダーへ説明責任を尽くすために行われるのですが、この第三者委員会は東芝のためだけに仕事をされたのです。

不適切な会計処理が認められ、そこに組織的関与があった、内部統制にも重大な不備があったと認定されるわけですから、内容的にはSEC(証券取引委員会)やDOJ(米国司法省)が証券取引所法違反、FCPA(内部統制構築違反、真正帳簿作成義務違反)に基づく行政罰適用や民事制裁金執行に動く可能性が高いと思われます。また、東芝さんの場合、ノンスポンサーADR(預託証券)が米国の店頭取引(OTC市場)によって流通しているので、いわゆるクラスアクション(集団証券訴訟)が頻発する可能性があります(現に、もういくつかの米国大手法律事務所が米国国内で原告を募っているようですね)。

したがって当然ながらディスカバリー(米国訴訟における証拠開示手続き)への対応が重要になるわけですが、日本の第三者委員会調査というのが、純粋に独立公正な「第三者」だとした場合、この委員会に対する東芝関係者の供述は「弁護士秘匿特権の放棄」とみなされてしまうおそれがあり、米国におけるディスカバリーにおいて供述内容を開示しなければならず、東芝および経営陣は大きなリーガルリスクを負うことになりかねません。したがいまして、「第三者委員会」とはいいながらも、「この委員会は東芝のために活動する」「我々は東芝以外には誰にも責任を負わない」ということをきちんと明言しておかなければならないと思われます。このあたりがADRが流通しているグローバル企業の会計不正事件の苦しいところであり、日本の第三者委員会制度の限界なのかな、というのが私の雑感です。

報告書では、東芝さんが短期的な利益を過度に追及したことが組織的な不正会計関与の原因とされています。では、なぜそこまで短期的な利益至上主義に走ってしまったのか、たとえば繰延税金資産の取り崩しをなにがなんでも回避したかったから、とか、経営トップにおける支配権争いに勝ちたかったから、といった「動機」の部分は明らかにならないかもしれません。また経営トップの法的責任や監査法人の監査上の責任にも言及されないように思いますが、これらはすべて東芝さんからの委嘱の範囲内でのみ、また東芝さんのためだけに第三者委員会が活動しなければならないという「第三者委員会の限界」に起因するところではないでしょうか(そうでないと誰も第三者委員会調査に協力してくれなくなってしまいます)。今後は、課徴金や過怠金処分の要否も含めて、証券取引等監視委員会や東証さんによる調査に委ねられるものと思いますが、最近は同委員会が調査した内容も、(IHI損害賠償請求訴訟のように)文書提出命令によって裁判上で明らかになるかもしれませんので、まだまだ関係者のリーガルリスクは残るように思います。

会計処理、ガバナンス、内部統制等、報告書の核心部分については、また正規版を拝読したうえで追って感想を書きたいと思います。

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