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強行採決の本質 —充実した審議につなげるための考察—

 安保法制の衆議院平和安全特別委員会での採決をめぐり、これを強行採決であるとの批判が多く見られた。これに対して、自民党安倍政権支持者(と思われる)の一部からは、民主党政権も強行採決をしたではないかとの反論がなされた。その後の安倍内閣の著しい支持率の低下や、新国立競技場問題で、この「強行採決」批判合戦は鳴りを潜めているように見える。

 強行採決と言えば、民意を無視したもの、独裁的、独善的政権による暴挙であるといったイメージを持たれがちであると思われる。確かに、強行採決と聞いて思い浮かばれるのは、騒然とした議場、委員長席や議長席に詰め寄りマイクや原稿を奪おうとする野党議員、怒号が飛び交い議事が全く聞こえないといった光景であろう。

 この「強行採決」とは、詰まるところ何を意味するのか?と問われて、戸惑うことなく答えられる人が何人いるだろうか?与野党を問わず、「強行採決だ!」と批判する方々の頭にあるのは、具体的な定義ではなく、先述のような現象の説明だけではないだろうか?

 今回は、その「強行採決」について考察することを通じて、安保法制に係る採決の何が問題であると言い得るのかについて論じてみたい。

 まず、強行採決と言い得る条件について考えてみると、法案の審議を、与野党での協議の結果ではなく、与党の独断で途中で打ち切って採決に入ってしまい、有権者を含め、反対の多寡に関わらず成立させてしまうこと、といったことであろうか。

 したがって、怒号や野党議員が委員長席に詰め寄るとか、今回の安保法制の採決のように野党議員が議場でプラカード持ってアピールするといったものは、「強行採決」の雰囲気作りではあっても、「強行採決」の要件そのものではないと言える。

 これに当てはまりうる強行採決は、現政権下であれば、特定秘密保護法案の採決が代表的な例として挙げられよう。(詳細については、拙著『仮面の改革派・渡辺喜美』をご参照いただきたい。)

 ただし、例えば、野党が強行採決を非難する際に耳にする「委員長が職権で委員会を立てて云々」、民意を無視して委員長が委員会を開催しているかのように見えるが、例えば、衆議院規則第67条には「委員長は、委員会の開会の日時を定める。」と規定されており、手続上は強烈な非難を浴びるような話ではない。その他についても、基本的には国会法や衆議院規則(参議院であれば参議院規則)に基づいており、手続的な問題のみを指摘して「強行採決だ」と非難するのは容易ではなかろう。

 審議時間や各党(会派)への質問時間の割り当てについても、国会法や衆議院規則に基づいて、与野党の協議を経て決められており、それを破るといったことでもない限り、手続的な批判をするのは難しかろう。(これに加えて、慣例というものがあるが、本稿ではそこまでは立ち入らない。)

 一方、民主党政権下で強行採決に当てはまるものが全くなかったかと言えば、そんなことはない。筆者が鮮明に覚えている例としては、平成22年の第174回国会(常会)で、衆議院総務委員会における「放送法等の一部を改正する法律案」の採決に際し、5月25日に行われたものがある。この時の総務委員会では、放送と通信の融合という社会経済の実態に対して大幅に遅れていた関係法令について、これらの大改正が議論されていたが、その問題点が専門家等からも指摘されていた。(本稿においては同法案の詳細な解説に入ることはしない。)

 同日の委員会では、自民党の赤沢亮正衆議院議員が委員長の質問時間終了の指摘を無視して原口総務大臣(当時)に食い下がる等、野党側(当時は自民党等)が抵抗、これに対して民主党は質疑の打切りと採決の動議を提出、与党の賛成多数で可決され、法案についても与党の賛成多数で可決された。

 要するに、自民党にしろ民主党にしろ、強行採決を行った過去はあるということであるが、だから民主党が自民党を批判するのがおかしいとか、民主党に批判する資格がないという話ではなかろう。

 「強行採決」というものを考える時には、手続のみならず、というよりも手続以上に、対象となっている法案の性格や中身を考慮する必要があるだろうし、審議において与党側が真摯に答弁したのかどうかということを考慮する必要があるだろう。

 そうした点を考えると、民主党の強行採決の例として挙げた放送法等の一部を改正する法律案の場合、欧州のみならず世界的な潮流である放送と通信の融合を制度的にも整備・担保しようというものであり、問題点は指摘されてはいたものの、質疑の終局をもって採決に移行したとしても、「強行採決」であると殊更に批判する話でもなかろう。(無論、「強行採決」であることには変わりないが。)

 一方、特定秘密保護法案や今回の安保法制については、世界的な潮流とは言えず(これについてはこれまでの拙稿や拙著をご参照いただきたい。)、国民の権利義務、安心・安全に大きく影響を与えるものであり、法案による優劣をつけるつもりはないが、同列に比較できる類のものではないことは明らかであろう。

 加えて、国家の情報保護や国防安全保障の強化については、共産党等を除いて、与野党とも総論としては一致しているのであるから、国会の審議を通じて我が国にとってよりよい法案に作り上げていくことは可能なはずである。

 しかし、与党側は、特定秘密の際も、今回の安保法制についても、野党からの指摘に対して、真正面から答弁することができなかった。すなわち、審議時間は使ったが、与野党の建設的なものはおろか、噛み合った議論ができていなかったということである。これは形式的には決めた時間が経過したといっても、中身のない議論で時間を空費しただけであり、まさに「審議を尽くした」とは言えない状況である。

 そのような中で、衆議院規則に基づくとは言え、職権で、つまり与党側の都合で委員会を開催し、採決に持ち込んだというのは、「強行採決」という表現以外のどのような表現が当てはまろうか。それに対して、「民主党は云々」といった反論をするのは無意味そのものであろう。

 「強行採決」を全肯定する気もなければ全否定するつもりもないが、民主主義は議論と説得のプロセスであるという基本に立ち返って、与党側は逃げることなく、誤魔化すことなく、はぐらかすことなく真摯に質疑に向き合うべきであり、野党側は批判のための批判といった時間の浪費をすることなく、問題点の明確化と対案の提示という基本的な役割を果たすべきである。(当然のことながら、与党の足を引っ張るための「強行採決」批判は全く意味がない。)

 こうしたことの否定に繋がる「強行採決」を行うということであれば、与党側は提出法案について理解できておらず、野党側からの質問や批判にまともに答えられないということであるのだから、法案を撤回して提出しなおすか、自らを介錯することも選択肢として考えてしかるべきではないだろうか。

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